第3話 ⑧
私が右手から炎を放ったあと、タタリ神の気配を全く感じない。
タタリ神をすべて倒したのだ。
「やった、やったよ。葵ちゃん」
私は葵ちゃんの方に駆け寄る。
「照子、照子。大丈夫!?」
葵ちゃんもすごく心配そうな表情で、私の方に駆け寄ってきた。
「大丈夫かと聞かれたら、どうだろう。正直に言うと、今、右手めちゃくちゃ痛い」
私は葵ちゃんに大きく黒焦げた右手を見せる。
「バカ!!」
葵ちゃんは私の右手を見て、驚きながら、私を抱きしめる。
「あっ、葵ちゃん!!」
私は、あまりにも突然なことで、何が起こったのか一瞬に分からずにいた。
「本当に、心配したんだから」
葵ちゃんは、そう言いながら、体を震わせているのが、私の体に伝わってくる。
本当に心配していたのだろう。
私はすごく申し訳ない気持ちになっていた。
「ごめん」
「いい、許す」
葵ちゃんの声が、私の耳元で聞こえる。
私の耳元から聞こえた葵ちゃんの声には、不安の中に、どこか安心したような安らぎを感じることができた。
「照子、右手を見せて」
「うん」
私は葵ちゃんに言われるがまま、黒く焦げた右手を見せる。
「かなりひどい状態ね。今から応急処置をする」
「八咫鏡」
葵ちゃんはそう言うと、両手から水の玉が出てくる。
「照子、この水に手を入れて。ちょっと冷たいと思うけど、がまんしてね」
「うん」
私は、葵ちゃんが作った水の中に右手を入れる。
右手で水を触ると、少し冷たく感じたが、痛みはない。
むしろ、この水に右手を入れたことで、じんじんとすごく痛かった痛みがだんだんと薄れていく。
「すごいよ、葵ちゃん。痛みがどんどん引いてく。一体何をしたの?」
私は葵ちゃんに問いかける。
「この水には、照子の傷を治す力があるの。まず、水が火傷の患部を保護して、傷の悪化を防ぐ。その後、水は周囲の酸素を多く取り込むことで、通常よりも細胞を活性化させて、傷の修復を早めてくれるの」
「すごい」
「ただ通常の回復力を底上げするだけだから。どうしても、回復する力はその人のものに依存しちゃうんだけどね」
「それでも十分すごいよ。ありがとう。葵ちゃん」
「どういたしまして。でも、これくらい当然のことよ。だって、照子がこんなに頑張ってタタリ神を倒してくれたんだから。それに照子がいなかったら、どうなっていたか」
「それは私も一緒だよ。私だって、葵ちゃんがいなかったら、どうなってたか。もうタタリ神はもう出てこないよね?」
「ええ、大丈夫よ。もうタタリ神の反応はないわ」
「良かった——。もし、タタリ神が残ってたら、私、正直、タタリ神と戦い続ける自信なかったよ」
私は緊張の糸が切れたのか、そのまま砂浜に座り込む。
「本当にお疲れ様、照子。疲れたでしょ、少し休む?」
「うん、そうする」
「じゃあ、私も」
葵ちゃんはそう言うと、私の右隣に座り込んだ。
「照子、右手を出してもらってもいい?」
「いいけど、どうしたの?」
「やっておきたいことがあるの」
私は言われた通り、水に覆われた右手を出す。
「八咫鏡の水は、照子の火傷を治って言ったけど、それをさらに早くさせる方法があるの」
「どんな方法?」
すると、葵ちゃんは自らの左手で私の右手を触ったのだ。
内心、私はちょっと驚いてしまう。
「私の手が、照子の手に触れあえば、八咫鏡の水の魔力効率を上がって、照子の火傷を早く治してくれる」
同性とはいえ、人の手を直に触るのは、正直、私はあまり慣れていない。
でも、葵ちゃんが私のことを思ってくれているのは、すごく伝わる。
葵ちゃんが私の右手を触ってくれたことで、私の右手の火傷がなんだか早く治ったようなに感じた。
私はふとあることに気がつく。
「そうだ、葵ちゃん。千鶴さんにさっきのタタリ神の戦いが終わったことを報告してあげようよ」
「そうね。早く千鶴さんを安心させてあげましょ」
すると、葵ちゃんはどこからかスマホを取り出す。
「もしもし、千鶴さん。はい、葵です。タタリ神、すべて倒しました。はい、そうです。あと、照子が疲れてしまったので、少し休んでから戻ります。大丈夫ですよ、タタリ神の反応もありませんし、少しだけ休んですぐに戻ります。万が一のことがあれば、私もいます。はい、それじゃあ」
葵ちゃんはそう言って、スマホの通話を切ったようだ。
「千鶴さんは何って?」
「タタリ神はまだ出てくる可能性もあるから。気をつけて、帰ってくるようにって」
「そっか、じゃあ、もう戻ろうか」
「照子、休まなくてもいいの?」
「少しだけだけど、十分休めたし。それに、千鶴さんをあまり心配させたくないから」
私は砂浜から立ち上がろうとする。
「ちょっと、待って」
すると、突然、葵ちゃんは私の右腕を掴んでいた左手で、私が立ち上がるのを静止させる。
「えっ!? 葵ちゃん!!」
「ごめん、照子。戻る前に、照子に聞きたいことがあるの?」
「いいよ、何かな?」
「照子がタタリ神を倒すために出した技。照子、知らなかったよね」
「そうだね。でも、頭の中でタタリ神を倒すことを考えてたら、無意識に頭に浮かんだというか。無我夢中で。あの技がどうかしたの?」
「あれは、姉さんの技なの」
「そうなの!?」
「まさか照子が姉さんの技を使うなんて、びっくりしちゃった」
「あの技、葵ちゃんのお姉さんの技だったんだ。もしかしたら、お姉さんは私たちを守ってくれたんじゃないのかな」
「ふふふ、それは姉さんに感謝しないとね」
葵ちゃんの笑顔になる。
その笑顔には葵ちゃんにとって大切な人を懐かしむような表情をしていた。
「ねぇ、葵ちゃんのお姉さんはどんな人だったの?」
私は葵ちゃんに質問する。
「照子にすごく似ていた。お人好しで、困っている人がいたら、すぐに助けちゃうような人だった」
「そんなに私と葵ちゃんのお姉さんが似てたんだ」
「うん。でも、姉さんがしっかり者だった代わりなのか、私はかなりのお姉ちゃん子だったの。何をするのにも、姉さんの後ろに隠れてた」
「葵ちゃんが!?」
葵ちゃんの言葉に、私は驚いてしまう。
千鶴さんに物怖じせずに、はっきりと話している葵ちゃんからは全く想像がつかなかったからだ。
「ふふふ、そうなの」
そう言いながら、葵ちゃんが少し微笑む。
「でも、姉さんがイザミに殺された後、私はあらゆることを必死に取り組んだわ。もう大切な人を失いたくないってね。もちろん体も鍛えた。でも、そう思うあまり空回りしちゃうことも多かったけど」
葵ちゃんは少し悲しそうな目をしながらそう話す。
「葵ちゃんにそんな過去があったんだ。でも、私は葵ちゃんの頑張り、無駄じゃないと思うな」
「照子」
「だって、葵ちゃんの頑張りがあったから、今の私やひなたの命があるんだよ。私は、葵ちゃんがやってきた努力はちゃんと実を結んでると思うな」
「ありがとう、照子」
葵ちゃんは私の言葉を聞いて、笑顔になっていた。
「そう、その意気だよ。自信持って、葵ちゃん。そっか、葵ちゃんにもそんな過去があったのか。私も自分の秘密、葵ちゃんに話そうかな」
「照子の秘密?」
「そっ、私の秘密。私、海があまり好きじゃないの」
私の言葉とは裏腹にさっきまでタタリ神がいたとは思えないほどに、海は穏やかな波の音を立てる。
「海があまり好きじゃない?」
葵ちゃんは私の言葉に対して聞き返す。
「なんで海が好きじゃないと言うとね。私にとって海の思い出はあまり良くないものだったから。この前、私のお父さんは亡くなっているって、葵ちゃんに言ったこと、覚えてる?」
「ええ、覚えてるわ」
「私のお父さん、私とひなたを助けるために、4年前の大震災の津波で死んじゃったの。私とひなたの目の前で」
「照子のお父さんが大震災の津波で亡くなった!?」
葵ちゃんは私の言葉にひどく驚いた様子になっていた。
私は葵ちゃんに私の過去を話し始める。
お父さんとの最後の思い出は海の町でのことだった。
「当時、私のお父さんは私とひなたが住んでいた村を離れて、電車で1時間かかる海の町で出稼ぎをしていたの」
「じゃあ、なんでお父さんと離れて暮らしていた照子とひなたちゃんが照子のお父さんが亡くなる瞬間を見てしまったの?」
「それはね。大震災のあの日、お父さんの仕事がちょうど休みの日だったの。だから、私とひなたでお父さんに会いに行くことになったんだ」
「そうだったの。なんでよりによって照子達にとって大切なその日に」
葵ちゃんは深刻そうに天を仰ぎながら、言葉をこぼす。
私はさらに葵ちゃんにあの日何が起こったのかを話す。
「私とひなたが、海の町に着いてお父さんと合流した後、お父さんに海の町を案内してもらっていた最中に、あの大震災が海の町を襲ったの。死んじゃうって思うほどの揺れだったのは覚えてる。ものすごい揺れが終わった後、津波警報のサイレンが鳴って、私達は津波から逃げるために、すぐに近くの裏山に避難した。でも、津波は私達が避難した裏山までも飲み込んだの」
「そんな」
「津波が私達のところまで来て、私はもうダメだと思った既のところで、お父さんが私とひなたを抱きかかえながら、山のさらに奥まで連れて行こうとしてくれたの。でも、お父さんは、私とひなたを津波から逃がすのが精一杯で、そのまま津波に飲み込まれしまった。私とひなたはすごく怖くなって、居ても立ってもいられず、もっと山の上を目指したの。どのくらい時間が経ったのか分からなくなるぐらい走った。走っている最中に何か大きな音がした瞬間、何が起こったのか私の意識が無くなったのを覚えてる。目が覚めると、そこには泣いているひなたと私よりも年上のお姉さんがそこにいたの」
「年上のお姉さん? どんな人だったの」
「私と同じポニーテールの髪型をしていたね。そのお姉さんが言うには、私とひなたは山の上で倒れていたところを偶然見かけて、お姉さんは、私とひなたを安全な山の中腹に移動させてくれていたみたいなの」
「それは本当に良かった。その後はどうなったの?」
「そのお姉さんと一緒に一夜を過ごすことになって、私とひなたを励ましてくれた。夜が明けた後、お姉さんと高台にある避難所を目指したの。なんとか避難所に着くことができた。今でもすごく安心したのを覚えてる。すると、お姉さんが、私とひなたの身の安全が確認できたのか、私はやることがあるって言ってどこかに行こうとしたの」
「そのお姉さんの行き先はどこだったの?」
「分からない。お姉さんは何も答えてくれなかったから。私は、お姉さんにどこにも行かないでってお願いした。お父さんが津波に飲み込まれたこともあって、もう誰もいなくなってほしかったから。必死に泣く私を置いていくのが心苦しかったのかお姉さんは、私にこの髪紐を渡してくれたの。この赤い髪紐を私だと思って、お守りにしてって」
「その髪紐を?」
「うん。病院の屋上で前に葵ちゃんに話したと思うけど、この髪紐をもらったのは、この時だったの。その後、私とひなたは無事に村に帰ることができたんだけど、その後、あのお姉さんとは一度も会えていない。これが私の過去なの」
私は葵ちゃんに私の過去のすべてを話した。
「いやでも、まさか、そんな偶然あるの。いや、でもありえないことはないのか」
すると、葵ちゃんは何か思い当たる節があったのか。小さな独り言をつぶやいていた
「どうしたの、葵ちゃん?」
私は気になって、葵ちゃんに問いかける。
「ごめん、照子。取り乱しちゃって、ちょっと自分の世界に入っていたみたい」
「大丈夫、全然気にしてないよ。あるよね、自分の世界に入っちゃうの、私もあるし」
「うううう、なんだか言われると、無性に恥ずかしくなってくる」
葵ちゃんは頬を赤く染める。
そして、葵ちゃんは一旦深呼吸をする。
「ねえ聞いて照子。今からすごく大事なことを言うね」
「わっ、分かった、葵ちゃん」
「じゃあ、話すわよ。照子、あの大震災はイザミが世界を滅ぼすためのきっかけとして引き起こしたものなの」
「えっ!?」
私は葵ちゃんの言葉に耳を疑う。
「あと、その日は、イザミは私と姉さん、千鶴さんを襲った。その結果、姉さんの命と千鶴さんの巫女の力を、イザミによって奪われた」
「葵ちゃんがイザミに襲われたのは、その日だったんだ」
「その通りよ。あの日、私は、姉さんと千鶴さんとでタタリ神討伐の任務に出ていた。低級のタタリ神の討伐だったから、苦戦せずに任務は無事に終わったわ。でも、タタリ神を倒して、私達は一瞬だけ気が抜けていた。そこをイザミに狙われたの。私が、気がついた時には、千鶴さんの巫女の力はイザミに奪われていたわ」
「そんな」
私は葵ちゃんが話すその事実を素直に受け止め切れない。
なぜなら、私と葵ちゃんをあれだけ圧倒していたあの千鶴さんが、一瞬にしてイザミに巫女の力を奪われていたなんて想像もしていなかったからだ。
「イザミは千鶴さんの巫女の力を奪った後、あの大震災を引き起こした。ものすごい揺れが周囲を襲い始めたこととイザミの圧倒的な魔力に私は怯えていたわ。その時、姉さんは、自分が囮になっている隙に、私に千鶴さんと一緒に逃げるように言われたの。私は姉さんを置いていくのが、嫌だったけど、姉さんの必死の言葉に私は千鶴さんと一緒にその場を離脱するしかできなかった」
「そうだったんだ」
「照子の話を聞いて、私気付いたの。照子が会ったお姉さんは私の姉さんじゃないのかしら?」
「あのお姉さんが葵ちゃんのお姉さん!?」
「照子の言う海の町って、もしかして〇〇市?」
「えっ、〇〇市だよ。葵ちゃん、なんで分かったの?」
「私は姉さんと別れた後、姉さんの生命反応から姉さんの足取りを調べていたの。なぜか姉さんは〇〇市に長時間、留まっていた形跡があって、少し疑問に感じていたから。まさか、姉さんがあの時、照子と一緒に過ごしていたなんて」
「でも、私が会っていたお姉さんが葵ちゃんのお姉さんだったなんて、そんな偶然」
「照子がそう思うのも無理もないわ。だけど、私は何も当てずっぽうで言っているわけじゃないの。その証拠に照子が身につけているその髪紐」
葵ちゃんは私の髪紐に指を指す。
「髪紐?」
「その髪紐と同じものを姉さんも身につけていたの」
「えっ!? 本当に」
「私が照子から姉さんの面影を感じていたのも、照子が姉さんと同じ紙紐を身に着けていたからね。もしその髪紐が姉さんのものだったら、姉さんの魔力の残滓が残っていると思う。だけど、照子がすごく大切に身に着けていたから。すぐに聞き出せずにいたの。照子、その髪紐を少しだけ貸してくれる」
「うん、わかった」
私は髪紐を解いて、葵ちゃんに渡す。
「ありがとう、照子」
葵ちゃんはそう言いながら、空いていた右手を使って、髪紐から魔力を調べ始めた。
すると、髪紐から少しだけ赤く光り始める。
「やっぱり、姉さんの魔力を感じる」
葵ちゃんは嬉しそうな表情になっていた。
「葵ちゃんの言う通り。あのときのお姉さんは葵ちゃんのお姉さんだったんだ」
「照子、貸してくれてありがとう」
葵ちゃんはそう言いながら、私に髪紐を返してくれた。
「それと言いたいことがあるの」
「何、葵ちゃん?」
葵ちゃんはまっすぐ私の顔を見て、口を開いた。
「生きていてくれて、ありがとう」
「葵ちゃん?」
私は葵ちゃんの言葉の真意が分からずに戸惑う。
「ごめんなさい、いきなりこんなこと言って」
葵ちゃんは戸惑う私を見て、少し慌てながら謝る。
「でも、これが私の素直な気持ち。それに姉さんがここにいたら、きっとこんな風に照子に言っていたと思うから」
「葵ちゃん」
「あと、姉さんも私と千鶴さんと離れてイザミと戦っていた時、すごく心細かったと思う。一時とはいえ、照子とひなたちゃんが姉さんの隣にいれくれたことで、すごく心強かったと思う。私も姉さんを助けに行きたかったけど、あの時日本国内がすごく混乱していたから、すぐに巫女を再編成することができなかった。それにあの時の私の実力じゃイザミにとても太刀打ちできなかったと思ったから」
「葵ちゃんのせいじゃないよ。それに葵ちゃんのお姉さんはきっと葵ちゃんが生きてほしかったと思う」
「照子」
「私も妹がいるお姉ちゃんですからね。大切な妹には死んでほしくないよ。そのためなら、お姉ちゃんは頑張るのです」
「ふふふ、ありがとう、照子」
「ありがとうはこっちもだよ、葵ちゃん。私、葵ちゃんの言葉すごくうれしかった」
「それは良かった」
「私ね、お父さんを犠牲にあの津波を生き残ってしまったことにどこか負い目があったから」
「そうだったんだ」
「でも、あの津波から生きて残ったことが、誰かを救うことができていることに、私、気づくことができて、すごくうれしい」
「そっか」
「ねえ、葵ちゃんのお姉さんはあの後、どうなったんだろう?」
「おそらく、世界を滅ぼすイザミを止めるために、イザミと相打ちの形で命を落としたと思う。この世界がまだ続いているのがその証拠よ。でも、大勢の人たちがあの大震災で亡くなってしまったわ」
葵ちゃんは少し暗い表情になって話す。
「そうだね」
葵ちゃんがそうなるのも無理はない。
あの大震災は多くの人の悲しみを生んでしまったのだから。
「それに、イザミは今度こそ世界を滅ぼすために、ひなたちゃんを狙っていることには変わりはない。イザミは、絶対にあの惨劇以上のものを引き起こすわ」
「それは絶対に止めないとだね。よし葵ちゃん、私、決めたよ」
「どうしたの?」
「もう絶対にあんな惨劇をイザミに引き起こさせない。私や私のお父さんと同じような経験を誰にもしてほしくないから」
「ええ、絶対に止めましょう」
「葵ちゃん、髪紐、髪に結ぶから手伝ってもらってもいいかな」
「いいわよ」
私と葵ちゃんは2人で協力して、髪紐を私の髪に結んで、髪型をポニーテールにする。
「じゃあ、もう帰ろうか。千鶴さんを心配させたくないし」
「それもそうね、照子」
私と葵ちゃんは立ち上がり、砂浜を後にする。
「葵ちゃん、私ね。海におぼれたとき、すごく怖かったんだ」
「うん」
「でも、葵ちゃんが作った水の腕のおかげかな。すごく安心できたの」
「照子」
「私を守ってくれて、本当にありがとう」
「当然でしょ。私はもう照子の相棒なんだから」
「ふふふ、相棒か。なんだかすごくいい響きだね」
「ねえ、照子。私、あなたの命とひなたちゃんの命を背負わせてほしいの?」
「葵ちゃん」
「私も、もう姉さんのような人がもう二度と出てほしくない。だから私は照子、あなたの命とあなたの大切な人の命を守りたいの」
「葵ちゃん。わかった。じゃあ、代わりに私も葵ちゃんの命を背負わせてもらってもいい?」
「ええ、お願いするわ」
私は、ふと、私の右手と葵ちゃんの左手が強く握りあっていることに気がつく。
「これからよろしくね、葵ちゃん」
「こちらこそよ、照子」
私と葵ちゃんはさらに手を強く握りあう。
月明りはそんな私たちを優しく見守るように照らしていた。
私と葵ちゃんはゆっくりと神宮に帰っていくのであった。
今度こそ、もう誰も悲しい思いをしてほしくないと、そう心に決めながら。
■■■■■■■
どこかの山奥だろうか中学生くらいの少女がそこにはいた。
彼女は日本人では珍しい銀色の髪とツインテールの特徴的な姿だ。
「こんなもんか、案外弱かったな、この山を守る山神のくせに。まあ、いい。神を殺すだけで、金が稼げるのは、やっぱり俺にもってこいだ」
そう言いながら、彼女は自らの体よりも何倍も大きさであろうこの山の土地神である白い大蛇の上に座っていた。
「今の奴らなら、私が持っている雑兵程度では、相手にならないわね。まあいいわ、奴らの力がどの程度分かっただけでも、よしとしましょう」
どこからともなく、女が少女の前に現れる。
「よしやってくれたわ、ノエル。これで私の戦力になるタタリ神が作れる。私ではできないことだから」
「へっ! あんたの頼みなら、どうってことよ。神殺しの仕事なら、いくらでもやってやる」
「いい意気込みだわ。ただ、次の仕事は、神殺しではないの」
「なんだよ、神殺しじゃないんなら、俺に何の仕事をさせようと考えれるんだ?」
「簡単な仕事よ。あなたと同じ巫女の力を持った人間を殺してほしいの」
「巫女を殺せ——だ。今までそんなことしたことがないぞ。巫女っていうんなら、そいつも強いんだろ」
「ふふふ、簡単よ。あなたの強さなら問題ないわ」
「そう言ってくれるのはありがたいな。イザミ、あんたには感謝しているんだぜ。こんな俺に居場所と金をくれる。そんなあんたのためなら何だってやってやるよ」
「そう言ってくれて、うれしいわ。詳しい仕事の話はいつもの場所でしましょう」
「わかった。じゃあ、先に行ってるぜ」
「わかったわ。あとの始末はやっておくから」
女の言葉を聞いた少女はどこかに行ってしまう。
女は1人になった。
すると、夜を照らす月が女の姿を映し出す。
女は長い白髪をしている。
まるで老婆の髪のようだった。
だが、女の顔は老婆とは違い、すごく若々しい見た目をしている。
人間ではありえない姿。
そう女は人間ではなかった。
この女こそ、照子の妹:ひなたの体を狙う黄泉津イザミ、また名を神、イザナミ
「ふふふ、待っていて、お姉ちゃん。私がこの世界を元の世界に戻すから」
そう言って、女は暗闇に消えていった。
神衣(かむい)の巫女 ~神の呪いから妹を救うために、神の衣をまとい戦う巫女に私はなります~ まるやま @RfmhJkY
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