鉄と蝙蝠(仮)

カワカミ

第1話

 姉が死んだ。殺したのは僕だ。


 死んだらどうなるか、考えたことのない人間はいないだろう。そして、その答えの、少なくとも一つを僕らは知っている。死んだら労働力になる――生者のために奉仕する存在となる。それが、少なくとも多くの人間にありうる死後の世界ってやつなんだ。



 月が空に、鋭い切れ込みを入れていた。

気味が悪いくらいに赤く輝くその空の傷口から、たらたらと流れ出たような光が街を包んでいた。


 僕はその日、ひと気のない夜のコンビニ帰りの路地をだらだらと歩いていた。いやに暑くてなんとなくアイスを買いに行きたくなった、ただそれだけだったのだ。


 まさかその気まぐれによって死にそうになる羽目になるなんて思うはずもない。


 ソーダバーをがりがり齧りながらねばつくような暑さの中を、ふらふらと四辻に差し掛かった時だった。


 そこにはヘルメットをかぶり、つなぎを着た老人たちが黙々と工事作業をしている――ように見えた。何の変哲もない夜の風景。いつもと違うのは、彼らが黙々と人間を喰っているという、ただそれだけのことだった。


 ソーダバーが口から滑り落ちる。その音がイヤに大きく聞こえる。老人たちが一斉に僕を見る。肋骨をしゃぶるぬらぬらとした口元が、次はお前だと歪んだ。


「あ……」あまりにも唐突な状況に声が出ない。体は豪も動こうとせず、目はそのバケモノの口から滴る赤や、はみ出た尖ったモノの白さから離れてくれない。


 化け物たちは、そんな僕を嘲笑う様にゆっくりと近づいてくる。ずる、ずる……とひどく緩慢な音をともなって。


「助けて欲しいか?」


 ふいに、声がした。どこか錆びついたような、しかし奇妙なぐらい、惹きつけられる声だった。


 僕と屍者たちの間にあった自販機の上にいつの間にか少女が立っていた。


ゴシック風の真っ黒なドレスに、やけにごついブーツもまた黒。編み込まれた一房の長い銀髪を肩から垂らし、それは月光を放つように青白く闇夜に浮かぶ。


 屍者たちが怯んでいた。


 少女は奇妙に青く光る瞳で彼らを、そして僕を見おろして面白そうに笑う。その口の端には鋭く光る歯が見えた――ような気がした。


「なあ、助けてほしいか?」なおもにやにや笑う彼女。


「あんた……誰なんだ」


「誰でもいいだろう。それよりホラ、化け物が近づいてくるぞ」


 屍者たちは少女におびえつつも、ぼくににじり寄ってくる。主人の方を伺いながらだらだら餌によだれを垂らす犬のようで、ひどくあさましい光景だ。


「ホラ、向こうからも来た。これで逃げ道がなくなったな」


 少女が指さす先にもよろよろとうごめく影。


「うーん、しかし、思ったより数が多い……これだけの数に介入しているとは、なかなかのやつかもしれんな」


 なおもぶつぶつつぶやく少女だが、僕にとってはそれどころではない。


「何なんだよ……」


 逃げ場を必死に探す。しかし、すでに退路はふさがれていた。じりじりと近づいてくるだらしなく開かれた口、口、口……。汗が止まらない。少女を見上げ震える口をようやく開く。


「た、助けて」


「うーん、どうしてやろうか」ここへきて少女の間延びした声に、なっ……と、僕は絶句する。


「血をなめろ」


「は……?」いきなりのことに思わず聞き返す。


「だから血だよ。あたしの血」


 言うが早いか少女は自身の指先に歯を当てる。鋭く光るそれが、白い肌にぷつっと赤い雫を生み出した。


 バサっと、翼をもった何ものかのように自販機からぼくの前に飛び降り、指を突き出す。指を伝い、滴る赤がひどく鮮やかで、そしてどこか禍々しい。化け物たちが明らかにひるむのが分かる。助けるなどというこの少女の方が明らかに危険な存在なのではないのか、そんな思いが僕の脳裏をかすめるが、彼女の指から伝うその赤から目をそらすことができない。ほとんど無意識に舌を伸ばすとそのまま指を口に突っ込まれる。


 広がるいやにあざやかな鉄の味。少女はにやりと笑う。


「契約したな。これでお前はあたしの下僕だ」


 どういうこと――と聞き返す間もなく、口から指を引き抜く少女。不敵な笑みのその口元から、ぞろりと並ぶ歯が光って見えた。


 その刹那、重い砂袋をぶん殴るような音がした。そろそろと近づき、いまにもぼくに手をかけようとした屍者がものすごい勢いで吹っ飛び、電柱に背中から当たって二つにぐにゃりと曲がった。さらに二体が吹っ飛び、同じようにコンクリート塀や自販機に激突する。


「うーん、まあ、これくらいじゃ動きは止まらんか」


 血に染まった拳をぶんぶん振り回して独り言のようにつぶやく。少女の言う通り屍者たちはぐにゃりとした体のままもぞもぞと動き出す。


「お前、力を貸すから自分でやれ」


「は?」


 助けるといっておきながらなんだ――? 思わず逃げるように後じさりするが、それを押しとめるように背中に堅いものが当たった。なんだ、と振り返るといつの間にか目の前に黒い長方形の物体――。


「棺……桶?」


 ゆら、と棺桶が自分の方へ倒れこむのを間一髪でよける。ずん、と響くその振動は、ものすごい重量物のそれだった。コンクリートにめり込み、ヒビが入っている。体が総毛立つのを感じた。


「おい、ご主人様の棺だぞ。大事に扱えないのか。ホラ、しっかり受け取れ」


 少女はその黒棺を猫でも拾うように持ち上げ、無造作に放ってくる。


「ちょ……! いや、ムリっ」


 つぶれる!……しかし、黒棺は突き出した僕の両手に難なく受け止められる。


「――軽い? なんで」戸惑うがそれも一瞬、這うようにしてすぐそこに迫っていたらしい屍者が僕の足をつかんでいた。冷たい屍者の感触。それは死の感触だ。


「――っ!」思わず手にした黒棺を振り下ろしていた。


 ズゴッと音がして、屍者の体を難なく潰し、黒棺はそのままコンクリートを割る。血が飛び散り、ぼくの足元を濡らす。頬にも、冷たくぬらりとした血の感触。


「なんだこれ……」本当に軽い。思わず取り落とすと、再び黒棺はものすごい重量感を伴った音で屍者を下敷きにする。


「おい、さすがにそれはやりすぎだろ」


 少女はにやにや笑いながら言う。


「お前は私のしもべだからな、少し力を貸してやってるのさ。その棺桶に触れている限り、お前はそれを振り回せるだけの力を与えられてる」


 僕はあっけにとられつつ、いやに軽く、それゆえに異様なその黒棺を抱えたまま、しばらく佇んでいた。自分が何か違うものに変質したような恐怖感がにじむ。


「まあ、そう怖がるなよ。とにかく次が来るぞ」


 少女の声が僕を再び危険の中へ引き戻す。今度は思い切るように飛びかかってきたそれを、黒棺を振り回し、文字通りブッ叩く。難なく脅威を吹き飛ばし、僕はさらなる脅威へ無中で棺桶を振り回した。ひたすら軽いそれは、勢いよく振り回すごとに力を増すようで、しだいに振り回すことに慣れ、その力に慣れてゆく。気が付いたときは、周りは屍者たちの血で真っ赤になっていた。


「まあ、それくらいでいいだろう。よくやったぞ、我がしもべ」


 少女の姿をしたそれは楽しそうに笑う。助けるなどと言っておきながら、結局、化け物たちを払ったのは自分自身だ。興奮が溶け、納得のいかない顔をする僕に、少女はつかつかと歩み寄り、顎をむんずとつかんできた。


「ふむ……なんか貧相な顔をしてるがまあいい、とりあえず次はこれだ」

 そういって、僕に何か袋を押し付ける。中身はビニルのパックや採血キットのようなものが入っている」


「何だこれ……」


「なにって、血を抜いて保存するための道具類だ。それもしもべの大事な仕事だからな」


「は?」


 何を言っているのか、ぼくは声を荒げるが、怒気は一瞬にしてしぼむ。その少女の圧倒的な視線が孕む、血液を一瞬に冷やすがごとき殺気によって。


「あいつらの代わりに、お前を引き裂いてすすってやってもいいんだぞ」


「う……」


 とりあえずも何も頷くしかなかった。慌てて袋を開ける僕に、少女はニヤニヤしながら、


「ここでやらなくてもいい。家でやれ。明日、血液を持ってここに来い」


 そして、名刺のようなものを渡される。


「ルーシー……?」


 紙切れに書かれた名前らしきものを僕は思わず読み上げる。


「主人の名前だ、よく覚えておけ。それから、裏に私の事務所の場所がある」


 つられるように裏返すと、簡易的な地図があった。旧商店街の外れのようだ。深夜のあまり行くような場所ではないが、なんとかわかる。しかし、事務所ってなんだ。


「それでは明日の日が落ちてから来るがいい。お前もそろそろここから立ち去った方がいいぞ」


 そう言われて顔を上げると、すでに少女――ルーシーと名乗った――の姿はなかった。血まみれの屍者たちが横たわる薄暗い路地は、冗談のように静かで、明滅する街灯が僕を光と闇に往復させる。濃い血の匂いが立ち込める中に取り残されていることを自覚し、再び恐怖心がよみがえる。ここにいる屍者たちがまたいつ動き出さないとも限らない。さっさと逃げよう。後のことは知ったこっちゃないとばかりに、僕は文字通り逃げるようにしてその場を後にした。



「ここ、でいいんだよな」


 僕は、時代のついた小さな建物の前にいた。ドアの横にはショーウィンドウがあって、中には埃をかぶったアンティークが置いてある。ドアの上にはただ「事務所」という比較的新しい看板がかかっているのみだ。もともとアンティークショップのようだが……しかしなんだこれ、事務所って、あまりにもそっけなさすぎるだろ。しかも、あの少女の姿とは、何かイメージにそぐわない。僕はぶつぶつ言いながら、しかし恐る恐るドアに手をかける。あっさりとドアは開いたが、ものすごい軋み音がして思わず縮み上がる。


「あの……昨日の……」


 なんていえばいいんだ――。中を覗き込みながら中途半端に口ごもる。「血を持ってきてやったぞ」と言えばいいのか。いきなり押し付けられた器具で血を抜くなどとできるわけないと思っていたのだが、帰ってから躊躇することなく機械的にその作業をこなせていて、そんな自分の行動が気味が悪い。あの女に何かされたのかもしれない。


 中は薄暗い。室内に踏み出そうとした瞬間、腕をつかまれた、と思った時にはもう床に引き倒されていた。


「ぐっ!」顎の痛み、捩じられた腕の痛み、圧迫された胸の痛み。


 苦悶しながら見上げた先――部屋の中央にはやけに豪華なソファが置いてあり、その奥に時代がかった黒檀の机。そして緋色の革張り椅子が背を向けていた。


「来たか」


 椅子がくるりと回って、少女が姿を現す。昨日と同じように真っ黒なコート風ドレスを着て、青灰色の髪をゆるく編んでひと房にまとめている。口の中でギラリと歯がのぞいた。


「逃げずに来たことは褒めてやる。おい、手を放してやれ、仮にも私のしもべだ」


 僕を制圧している力が抜け、解放される。よろよろと立ち上がると、部屋に黒づくめの人間たちが五人ほどいることに気づく。全員スーツ姿で妙な雰囲気を漂わせていた。なんだこいつら。


 少女がつかつかと僕に近づくと、引き倒された時に放り出したバッグから血液の入ったパックを取り出す。


「とりあえず暗示が上手くいったな、しもべ。これからも定期的に採血しろ。保存するだけ保存しとかないとな」


 やはり何かされていたという事実以上に、定期的に採血という言葉にぞっとして、


「まだやるのか……いつまで?」


「いつまで?」


 少女の青い瞳が冷たく、そして鋭く僕を覗き見る。イヤに鮮やかなくせに、どこか昏い洞のような瞳に、心なしか体が縛り付けられるような心地がした。


「ふん……。あまりよく分かってないようだな、下僕。お前は私と契約した。つまり私の所有物なんだが」


「所有物……? 何だそれ」


「言った通りのことだが」


 その場の気温が明らかに下がるのが分かるようだった。僕は目の前の化け物に心臓をがっちりと握られていることを自覚――いや、ほとんど体感するような気分だった。


 目の前にいるのは少女の形をした化け物だ。それをはっきりと思い知った。


 それはそんな僕の思いを見透かすように、にやりと笑い、


「あたしは所有物をそう簡単に壊しはしない。お前が血を捧げる限り、だが……」


 少女は椅子へ再び足を運び、傲岸そのものといった勢いでふんぞり返る。


「まあ、そんなに必要としているわけではないから心配するな。お前の下賤な血で腹を満たそうとかそういうわけではないからな」


 そういうわけではないといわれたところで、気分がよくなるわけでもないし、怖れが消えるわけでもない。自分を捕えているその存在への恐怖。僕はやっとの思いで、それまで抱えてきた根本的な疑問――ほとんど半分わかっているそれを口する。


「お前、なんなんだ」


「わかってるくせにいちいち確認しないといけないのか、人間は」


 それともお前が特別馬鹿なのか、そうい云いながら目の前のモノは憐れむように僕を見据える。


「あたしはお前たちが吸血鬼とか言ってる存在さ。ヴァンパイアとも云うのだろう?」


 そして牙を見せつけるようにして口の端を吊り上げる。


「おい、下僕。お前の名前は」


 その問いに、僕は言いなりに答えるしかない。


「架神伸也……」


「ふうん。では伸也、改めて言おうじゃないか。あたしがお前のご主人様だ」


 薄暗い元アンティークショップで、己を吸血鬼と名乗る少女がそう宣言する姿は、現実感を欠いていたが、それは確かな威容をたたえていた。僕は何も言うことができない。だいたい、自分がどうなってしまったのか、にわかに受け入れることができないのだ。 


「――というわけで、聞いてたと思うが、こいつがあたしの下僕――サーヴァントというわけだ。そしてお前たちとの盟約通り力を貸そう」


 僕の主人となるそれは、先ほどから無言で控えていたスーツ姿の者たちにそう云い放った。


「サーヴァントはこちらで選出するといったはずだが」


 スーツ姿のうち、眼帯をつけた男が言う。片っぽの目は鋭く、その黒曜石のような瞳が僕を射るように見た。


「そうか? どのみち選ぶのはあたしだ。誰でもいいというわけではないしな。それに盟約通り力は貸すといっている。何か不満か?」


 少女の冷え冷えとした言葉を男は受け流し、


「吸血鬼が自ら選ぶほどの血――マスターの力を最大値引き出せるのか、こいつが」


「そう、散歩の途中に見つけるとは僥倖だった。まだ何もわかっちゃいないようだが、あたしのサーヴァントには間違いない。これであたしも権利を得た」


 吸血鬼にとっての僥倖は、たぶん彼らにとってはそうではない。そんな視線はほとんど殺意のようなものとして、僕に突き刺さる。なんでだ、僕はどっちかというと被害者だろう。助けてくれそうもない彼らもまた、目の前の化物と大して変わらない存在にしか見えない。


「しかし、勝手をしすぎでは」


「ほう、さっきからなかなかな口をきくな。あたしは真祖ではないが、それでもお前たちの神であることには変わりないぞ」


 少女の影が伸びるようにして、その冷え冷えとした気配が部屋を満たしたような気がした。そこにいるだけで気圧されそうになる。僕を含めほかの者たちも明らかにひるむ。それは、人知を超えたものに対する純粋な畏れだった。しかし、少女のカタチをしたソレと対置する男だけはその片目をじっと目を逸らすことなく、


「失礼した……屍者の王よ。我らは王の力を欲する」


「いいだろう、お前たちに力を貸してやる。屍者は灰に、我らの加護を汝らに」


  芝居がかったやり取りを楽しむような、もしくは嘲笑しているような少女の声が、暗がりの支配する部屋に満ちた。


「それでは、お前たちの依頼を聞こうじゃないか。そのために用意した事務所だしな」

 少女は椅子に座り直すと、ドガッと足をデスクに載せる。無骨な黒いブーツが置いてあったアルミの灰皿をひしゃげさせた。


 眼帯の男は他の者たちを代表するように、少女の前に進み出ると、


「昨日、屍者を毀したようだな」


 先ほどの敬意など形だけのように、男は挑むような視線を向ける。


「ああ、あの野犬どもか。実際に毀したのはそいつだがな」


 僕を顎で示しつつ、少女は男の視線など意に介すことなく、むしろ威勢のいい犬でも見るような目を向ける。


「お前らのエンバーミングか? しかし、人を襲ってたぞ。その程度の技術でアレを管理してるのか、今の人間は」


 周囲の怒気が膨れ上がるような空気を制し、男は忌々しそうに、


「我々の術式を書き換えて回っているやつがいる。たちの悪い魔術師が動いているらしい」


 死んだ人間を生ける屍――屍者として起動させる技術のことを、世間を含め、ほとんどの人間はエンバーミングと呼ぶ。正式には触媒式器体起動術式というらしいのだが、誰が考えたのかしらないそんな名称は書類でしかお目にかからない。ちなみに、再起動後の死体のことを器体と云うが、結局はみなそれらを屍者と呼ぶ。


「そういえば、あいつら、仮面が外れていた……しかも人を食って……」


 そこまで云って昨日の光景を思い出した僕は、思わず口を押える。


 屍者は通常、仮面をつけることが義務付けられている。というか、エンバーミングの際に頭部に術式を書き込まれ、仮面でそれを封じているのだ。それが外されているということは、何者かの介入があったということは間違ない。


 眼帯の男は僕を一瞥すると、


「そもそも術式の書き換えなど、そう簡単にできるものではない。しかも屍鬼化させるほどのものとなると……」


「いるな、背後にわたしと同じ不死の眷属が」


 彼女の声はどこか楽しそうに響く。


 死者を屍者に変える技術は国によって管理され、国や教会から許可を得た司祭やエンバーマーたちがそれを請け負っている。一方で、エンバーマーの技術を持ちながら、無許可でその技術を行うものたちがいる。彼らは魔術師と自称し、他方では屍者喰らいなどと呼ばれる人間たちだ。


「外法の徒に力を貸している愚か者を排除すればよいのだろう」


 少女はけだるげに言うと、その流れるような灰青色の髪をかき上げて、


「いいだろう。その代わり、お前たちの依頼の後は好きにさせてもらうからな」


 そして、話は済んだとばかりに手をひらひらさせる。


「どうした、さっさと飼い主の場所に帰るがよいぞ」


 あからさまな嘲弄だったが、男はあくまで無表情で部下とともに姿を消した。部屋は、何事もなかったかのような沈黙をとりもどす。


「なんなんだよ……あいつら」


「お前は屍者がどう造られているのか知っているか?」


 少女の唐突な問いに、僕はつっかえつつも、


「エンバーミングっていう特別な技術を用いて死んだ人間を動く屍に変えるとかいう……」


「連中はその技術と屍者たちの管理をしている国の機関の使い走りだ」


「それって、器体再生機構とかいう……?」


 そういう超法規的な機関があるというのは知っていたが、あの連中がそうだとは思わなかった。屍者はありふれてはいるが、実のところそれを生み出す側のことはよく知られてはいない。それはそれとして、この少女と何の関係があるのか。少女が言う、彼らに対する盟約とはなんなのか。


「まあ、とりあえず、まずは屍者だ。この町で起きた屍者の暴走について、いまのところ、人間を襲う事件が起きているのは夜、そして、人を喰う――屍鬼化しているのは、使役されている公共の屍者に限られているということだ。そのなかでも、人に近いところで使役されている屍者に犯人が近寄ってくる可能性が近い」


「目的は何なんですか。ただ、そいつらに人を殺させるためなんですか」


「さあな。まあ、人間を殺したいから手を貸してるという酔狂なやつかもしれん。が、今の時代、楽しみで人間を殺す一族がいるとはあまり思えんが。それに、力を与えているモノとそれを実際に屍者に施している人間の目的が一致しているとも限らん」


 正直、目の前にいるような化物と関わり合いになんてなりたくもない。そもそも人を襲う屍者なんて、あの夜の一回限りにしてほしいのだ。だが、おそらくこれからもっと酷いことに付き合わされる。にやにや笑う彼女の全く表情の動かない目に、運命が、自分の首に首輪をはめたのだということを、僕はいまはっきりと悟らされた。









※ とりあえず、なんか書いとかないとなんもしなくなるな、ということもあり、ぼんやりとした構想のまま勢いで書き出している。一応、ミステリテイストな探偵ものを軸に、キャラクター性に重きを置いたライトノベル的なものを目指している。とはいえ、正直、続けられるか心もとない。今のところ、二人の主人公のうち、少年の方――架神伸也は盗まれた姉の死体を探す、ということを序盤の目的として設定しているのだが、もう一人の吸血鬼少女(?)の目的を決めかねている。過去、吸血鬼にされた元人間なので、人間に戻るというのが、ありきたりだが分かりやすくてテンプレなドラマだとは思うが、個人的にはそれをやりたくないというか、人間賛歌的になりそうな要素をあんま入れたくないというか。あくまでも向こう側に足を踏み入れて、戻る気のない確固とした存在にしたいのだが、そうしたうえで彼女にどういった目的を持たせられるか、というところで思案中……つか、ほぼほぼ思考が止まっている。そもそも、もう長編を完成できるかどうかも怪しいので、なんかまあ、こういうのやりたかったなーみたいな覚え書きで終わるかもしれない。この後、敵対する教会組織の女子高生騎士&狼女のコンビとか、ラーメン屋のキョンシーオヤジとか、自分の体を屍者でツギハギしまくった自称科学者とかが入り乱れてゾンビや人間を殺しまくる感じの話になったらいーなー、みたいな感じです。残りはAIとかが書いてくんないかな……。

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鉄と蝙蝠(仮) カワカミ @utou0625

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