第319話 VS桐生7


 「次の回から金子いこか。準備しといてくれ」


 「え!」


 「え!? はい!」


 監督の言葉に俺と金子はびっくらぽん。

 試合は現在六回が終わったところで、スコアは5-0。キャプテンはヒットを三本打たれて、大鰐には長打を打たれたものの、文句なしのピッチング。


 だか、ペース配分を考えずに、初回からフルスロットルで投げてたせいか、肩で息をしている。球数はまだ100球を超えたところだけど、桐生打線を抑えるプレッシャーなんかも相まって、結構バテてるみたいだ。


 打線は、大浦、隼人、清水先輩の三連続タイムリーで3点を追加している。レオンは勝負を避けられた。それでも点が取れる龍宮打線は凶悪である。


 もうどうしようもないよね。俺が桐生側の立場なら匙を投げてる。最早これだけの戦力が揃ってるのはズルだもん。


 で、キャプテンがバテ気味だ。そろそろ俺の出番だとワクワクしてたんだけど、お呼ばれしたのは金子だった。


 金子自身も用意はしてたものの、まさか自分に出番があると思ってなかったのか、びっくりしている。


 「点差もあるしな。後ろに豹馬が控えてんねんから、リラックスして気楽に投げてこい。甲子園決勝の空気を味わってこいや」


 「頑張ります!」


 びっくりしてた金子だけど、監督の言葉にふんすとやる気を滾らせる。どうやら、今日の俺は守護神的な立ち位置らしい。


 まあ、それも悪くない。もしかしたら金子も絶好調で、俺の出番がないかもしれないけど。それはそれで良い事だ。


 天下の桐生に金子が通用するって事だからね。良い自信になるだろうし、キャプテンが引退した後の投手の柱として頑張ってくれるだろう。


 「金子、後は任せたよ」


 「はいっ!」


 キャプテンが金子を激励にくる。予想以上に消耗してるな。キャプテンはプロ入りしたら、スタミナが課題になるかもしれん。


 まあ、今日はマジで暑いから、それもあって消耗が激しいんだろうけど。何もしなくても汗をかくからね。


 「高校に入学した当初は、甲子園の決勝で投げるなんて思ってもみなかったなぁ」


 「この一年ちょっとで金子は滅茶苦茶伸びたよな」


 金子は緊張してるかと思ったけど、表情を見る限りワクワクしてるっぽい。金子は投手としての成長は勿論だけど、精神的にも成長したよね。


 前は自分に自信がなさそうだったのに、今では決勝で投げるってのにワクワクしてるんだもん。立派だよ。


 「後ろに豹馬がスタンバイしてくれてるからだよ。頼れる人がいるから、思いっ切りやれるんだ」


 「おいおい、そんな褒めても何も出ないぞ? 試合が終わったらうちの風呂の無料券をあげよう」


 「出てくるじゃん」


 素晴らしいよいしょだ。お食事券も上げちゃおうかしら?


 「あ」


 「おお」


 金子とそんな話をしてると、キャプテンの代打で出た剛元がストレートをぶっ叩いてホームランを放った。これで6-0だ。


 キャプテンに代打が出された事で、ちょっとどよめいていた観客だけど、このホームランで大盛り上がりだ。


 「後輩も援護射撃してくれたな」


 「じゃあ先輩も頑張らなくちゃね」

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未冠の大器のやり直し Jaja @JASMINE4

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