第21話 彼女のいなかった頃の話

サリンジャーと志碧とインマヌエルは時空旅人として生きている。

それぞれに持っている勲章はMjustice-Law家として与えられたものだったから、サリンジャーにはO冠、インマヌエルにはA冠、そして志碧にはE冠が与えられていた。


Leeが時空旅人となることを許されなかったことにより麻野さんが衣子さんから返品され、多胡さんが臓器腐食となってしまったことからもどこかで何かが歪んでいることは明らかだった。


スカーニーの返品後も事実は裏付けを与えられず、浮遊するかのようにただただ時が過ぎていった。

10月からはきっと良くなる、あたしはそう信じていた。


それなのに11月も半ばになったというのに何もうまくいかない。以前よりも悪化しているし、Gossipは日に日に増えていくし、セオや群青に会えない日が続いていた。


そういえば群青に新しい名前が与えられたような気がするのにあたしは思い出せなかった。なぜなのかはわからないし、そんな気がしているだけだから実際は群青に新しい名前なんか与えられていないのかもしれない。


帝都にも最近は会えない。基実くんのことも思い出す暇がない。まるで死んでしまったかのようだった。


インマヌエルは時々夜になるとあたしに会いに来た。

「めぐちゃん」と母親のようにささやく大人になったあたしは、なんだかいけすかない。あたしだからだろうとあたしは理解している。

「サリンジャーは元気?」

時々機嫌がいいとあたしはインマヌエルとおしゃべりをする。

「もちろん」

「志碧は?」

夢現にインマヌエルの顔が曇ったように見えた。これもきっと気のせいなのかもしれない。

「めぐちゃん、今、帝都さんと幸せ?」

「ううん。だって全然会えないんだもん」

インマヌエルの目が泳ぐ。あたしだからわかる。言葉を選んで迷っているんだ。

「帝都と会いたいってスカーニーにも麻野さんにも言ってるのに全然実現してくれないの」

あたしはあたしだからわかる。新しい情報が欲しいんだ。

「翠蘭さんもそう。みんな意地悪じゃないのに何かおかしいよね」

インマヌエルの目がすっと細くなる。イエスって意味だ。

「そっか、、歪んでいるんだ」

インマヌエルがふっと笑う。

「迎えに来た」

夢現にサリンジャーが見えた。インマヌエルはあたしのことなんか忘れて早く帰りたそうにしている。

「いいなあ、インマヌエルは。あたしはまだ帝都とそんなふうになれないのに」

「めぐみさん、俺とインマヌエルは運命なんだ。誰にも奪えないものを持って生まれた。知ってるだろう?」

「うるさい」

帝都だと思うと憎まれ口を言ってしまう。

「ハハハ。大丈夫、帝都を信じて」

キザな冗談はあたしに気を許している証拠だ。


目が覚めてE冠が盗まれている事実を理解した。やっぱりそうだったんだとわかって、基実くんの胸に短刀を突きつけた。

「死ぬ?それとも自殺する?それから、選べると思う?」


三閉免疫不全の初代代表は基実くんだったことを誰も教えてくれなかった。教えてくれなかったんじゃない。事実を知るスカーニーや麻野さんを臓器腐食に落としたのが基実くんだったからあたしは知ることができなかったんだ。


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三閉免疫家業 恩賜芍薬/ Grace Peony(♂= @falg-book

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