第20話 殉教と殉職

殉教と殉職は似ているようで似ていない。

仕事に誇りをもってもその命を自ら捧げているわけではないからだ。

麻野さんが臓器腐食にまで落ちてしまったことは、どちらかというと殉職だなあとあたしは思う。

帝都と麻野さんはかなり前からやりとりがあるみたいで、その縁で群青が帝都をConsavaywの家の養子にと誘ってくれたらしかった。

麻野さんと群青はどのくらい前からやりとりがあるのかはわからない。

あたしだけじゃなくて世の中の人は麻野さんといえばLibelawの家とのつながりを想像すると思うからだ。


あえてそのように振る舞ったという点では殉教だと思う。

スカーニーへの信仰心は三閉免疫家業の人たちはすごい。恩賜芍薬を師と仰ぐ彼らは熱心な一神教信者のように見えるが、実態は違う。


「俺たちはもともと寄せ集め、、、と言ったらアレだけど、、三観蔵が央観家として俺たちの中央に存在しているのは実はJurywknowの仕様人だった過去があるから何だ。もう1000年も前の話だけどね」


麻野さんの盟友に栗村さんという人がいる。栗村さんは右炉家の管理統括者にまで推挙された経歴のあるかなり優秀な人だったけど、麻野さんと同じように亜種白路に臓器腐食に落とされた被害者だった。


「うちの右炉の家はConsavaywの家の仕様人としてこの島に渡ってきた歴史があって、三観蔵の時代の代表は確か資清だったと思う。左吾の家はLibelaw家の使用人として長い間Jurywknow家との仲介を担当してきた。あの時は、、、誰だったかなあ、中桐さん!ちょっといい?あれ?中桐さん?いないの?」


パーティとか晩餐会というと気恥ずかしいのか、この人たちはいつも「決起集会」と銘打って宴会を開いている。今日は明日の試合のためだというお題目を持ってきて「決起集会」が催された。寿司、ウインナー、ビール、ソフトドリンクはあたしがどうしてもとお願いした。父もあたしもお酒は弱い。

「普段はこんな子どもの飲み物用意しないんだからね」

中桐さんはまだ少し韓国語の訛りがある。よく働く人だった。誰よりもしっかりと準備をするし、誰よりも人に気を使うし、誰よりも情に厚い人だった。


麻野さんも栗村さんも父のためなら臓器腐食に落ちることも厭わなかった。中桐さんは人のためなら殉教することも厭わないだろう。


三閉免疫症候群たちが3つ重なりあったことは必然だったんじゃないかとあたしは思っている。


中桐さんを探しに行った栗村さんは他の人への挨拶に忙しくて一向に戻ってこない。

麻野さんは父のためにソフトドリンクを探し回って各テーブルを見回っている。

ふっと嬉しくなってキッチンの方を見ると、シェフに混じって後片付けを手伝っている中桐さんが見えた。


あたしは今この場所にいられることが心底幸せだと思っている。




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