第19話 三観蔵

「麻野さん、三閉免疫稼業の人だったなんて知らなかった、、、」

どんちゃん騒ぎの三閉免疫症候群たちの隅っこで帝都と基実くんに愚痴を言う。最近はセオや群青とのやりとりが忙しくてゆっくりと話す時間もなかったから今日はちょっとだけ嬉しい。

「大丈夫、俺も知らなかったから」

帝都が苦笑いしながらあたしに同情してくれた。

「俺は、、、ごめん、知ってた」

恨みを込めて基実くんをあたしと帝都が睨みつける。

「なんで言わなかったか?」

「危険に晒すわけにはいかなかったからです」

そりゃそうか。

スカーニーは断酒中だから、10分だけ顔を出して翠蘭さんと共に一足早く帰宅したようだった。


麻野道信さんの父親は三閉免疫稼業の中でも央観家の基礎を築いた三観蔵という人だったらしい。1943年、朱雀雪芸がMjustice-Law家の人間であることを隠せる唯一のシャングリラとして気に入っていた租界の居酒屋でたまたま三観蔵と出会った。

夕方の3時から夜明けの3時まで、この国について、戦争について、世論について、経済について、民族感覚について、国際社会について、約12時間も語り合ったという。


翌日、わざわざ正装し書斎の椅子に据わって筆をとった。その様子も門外不出ながら写真として残されている。

宛先はConsavaywのアルバート、Libelawのゲオルギ双方にであった。

「この後のことは三閉免疫症候群たちに任せようと思う。私がキャビネットを作り、その中に説明書をつけてプレゼントする。職人としては駆け出しであり、まだまだ安定しないことが多いだろうから、彼らの仕事をどうか助けてやってほしい。亜種白路の解雇もこれで理由がつく」


1945年、正式にアルバートとゲオルギの承認を得た三観蔵が央観家を発足させた。

その数年後、アルバートとゲオルギが亜種白路との決別を表明するためにキャビネットの試作品をお披露目した。


三観蔵の息子である麻野さんとスカーニーの付き合いはこんなふうに祖父の代からだったのだ。


「麻野という名前はスカーニーがプレゼントした最初のキャビネットの中にあった取り扱い説明書に書かれていたんだってさ」

「名前のことはわかった。でもさ、なんで麻野さんは亜種白路と行動を共にしてたの?あとなんで臓器腐食になったの?」

「めぐちゃん、敵陣に切り込む人のことなんていう?」

「切込隊長?」

「そう!麻野さんはキャビネット保持者として初めての切込隊長だったんだ」

監永と捜永の目が輝いている。

「なんでもやったよな、あの人は」

「うん!すごかった!!」


あたしもよく言われる。「お前が切り込んでどうする!役割をしっかり遂行しろ!」

麻野さんがなぜ切込隊長をやってしまったのか、、なるほど、それで臓器腐食にまでなったのだ。


「臓器腐食に落としたのは誰?」

会場が静まり返る。麻野さんはややあっておいおいと泣き始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る