セサミストリートの隣人

花野井あす

セサミストリートの隣人

御手洗熊治みたらいくまじは今年八十になる、この道六十年の胡麻職人である。

名前をもじって通称アライグマ爺さん。

愛らしい呼び名と共に今日も香ばしい胡麻をすり鉢へ。


アライグマ爺さんの一日は、胡麻の選定から始まる。

数百、数千、数万の胡麻を手でかき混ぜ、「役に立たない胡麻」を取り除く。


何事も事前の準備が重要だ。

「不必要」なものは早期に取り除くが吉。

アライグマ爺さんは得するものだけを選び抜く。

アライグマ爺さんはこの道きっての目利きである。


選定を終えれば、調理の開始である。

一部はじゃぶじゃぶと桶で洗い、日向に置く。

一部は鍋に入れて色が付くまでひたすら煎る。


選りすぐりの万万千千の胡麻たちを、如何に活かすか。

ここが腕の見せ所である。

アライグマ爺さんの干し加減、火加減は絶妙だ。

この道六十年。

アライグマ爺さんが四苦八苦しながら身に着けた職人芸。


芳しい胡麻の匂いが漂い始めたならば。

アライグマ爺さんは常連客の元へ訪れる。


そして手をすり合わせてこう言うのだ。


「今日は良いお日和で。」


「素晴らしい慧眼で!」


「さすが旦那、お目が高い。」


「これからもどうぞ、ごひいきに。」


アライグマ爺さんの営業は百発百中。

アライグマ爺さんはこの道六十年の胡麻職人。

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セサミストリートの隣人 花野井あす @asu_hana

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