第37話 好き


「さて、お迎えはまだこないようだし、せっかくだから店舗の話でもすすめる?」

「すすめるって言っても、場所も決まってないのに?」

「その辺りはどうにでもなるし」


 恭介の言葉にわたしは肩をすくめながら答える。


「確かに。愚問だった」

「いや、建物はどうにでもなるとしても、人件費とかはどうするんだ? 一人でやるのか? 静さんに手伝わせるとしても、お手伝いじゃなくて、働くってなると給料は必要だろ?」

「わたしは、別に……。住むところも、ご飯もお世話になっている状況だもの」


 貴史の言葉に静さんが否定しようとしたが、鏡が勢いよく頭を横に振り、静さんの手を両手で握る。


「駄目ですよ! そんなの! 静さんは家事だっていっぱいやってるんだし! どうせ全部スキルなんですから! 売り上げ全部利益みたいなもんなんですから! どぉーんと貰いましょうよ!!」


 確かに、材料費はかからないけどね?

 とりあえず、鏡の腕をチョップで叩き落としてもいいかな?

 きっとそういう事かなぁっと、アピールするのを邪魔するつもりはなかったんだけど、人のこと馬鹿にするなら邪魔するぞ、こらぁ。


「鏡、スキルも使えば疲れる。ミューの労働を無視するのは良くない」

「え!? 別に無視したわけじゃ……。え? でも疲れるの? いつもピンピンしてるイメージあるけど」


 拓の言葉に誤解だと否定したいようだけど、最後の言葉で肯定してるようなもんよね?

 確かに? スキルの影響もあって、魔力切れの心配もないけどね?

 でも、だからって酷くなーい?


「わたしにだって、人の心はあるんだよ!?」


 うるっと、あまりにもわざとらしい泣き真似をしてみせる。


「いや、オレ、そこまで言ってないから」

「ふふ、そうよ。ミューちゃんは誰よりも優しい女の子だわ」

「……いや、流石にそこまでは……」


 流石にそこまで言って貰える程の存在ではないので……。


「そうっすよ! ミューよりも静さんの方がずっと優しいですって!」


 おぉい! 確かにそうだけどね!?

 そうだけど! もうちょっと言い方とかあるよね!?

 内心、鏡の言葉に怒りに震えていると、大地がそっと横に来た。 


「あー……、ごめんね? あいつ今その、かなり舞い上がってるっていうか、なんていうか、いや、うん。本当にごめん」

「……いや、大地が謝らなくてもいいんだけど…………」


 代わりに貴方が謝る必要ないでしょうに、と思いつつ、さらに声を落として尋ねる。


「……やっぱ、静さんのこと…………本気?」

「……恐らく」


 わたしの質問に彼は、静さんに聞かれないように、同じように声を落としながら頷いた。

 そっかぁ。マジなのかぁ……。

 静さん確かに美人だけど……。美人だけど……。

 いや、言うまい。

 こっちでは若いけど、実際はおばあちゃんだって言っているわけだし。実際、大地の顔もどこか複雑そう。

 ……まあ、そうよね。あっちでは、おばあちゃんな上に、既婚者だもんなぁ……。

 友達だったら、やめとけって、止めててもおかしくないもんね。

 静さんは気づいてるのかなぁ。

 ……好意はあると思ってるけど、それが恋愛面ではなく、親しみとか友情系に考えててもおかしくないよね。

 静さんからしたら、わたし達って孫よりちょい大きいくらいじゃない??

 実際静さん、わたし達から一歩引いて、「あらあらまぁまぁ、みんな楽しそうねぇ」と保護者ムーブ出してるもんなぁ。普段……。


「……報われるとは思えないけどねぇ……」

「それは本人も百も承知」


 それなのに、止めないの? と視線で問うと、大地は肩をすくめた。


「一つの思い出というか……。後悔しないため、というか……」


 ……もしや最終的には本人が振られる前提?

 それはそれで凄い勇気だね。

 わたしなら告白するよりも、仲の良い友達のままで~。とかなりそう。

 いや、それとも、完全に見込みが無いってなったら、玉砕しやすいとか?

 えー? でもやっぱり、告白して振られるのってむっちゃ勇気必要じゃない?


「なぁなぁ、ちょっと良いかな?」


 うぅーむと唸っていると、貴史が全体に声をかけてくる。


「ミューと静さんは商人ルートとして、オレ達はどうする?」

「どうって?」


 恭介の言葉に貴史は親指を挙げてグッドサインを見せる。


「オレつぇーをしつつ女の子にもてたい!」

「「あー……」」


 と、数名が同意のような声を出したので呆れた目で見ていると、わたしの視線に気づいたのか、慌てて顔を逸らした。


「つまり、またダンジョンに潜るって事?」

「別にダンジョンじゃなくても魔物はいるし。恭介や鏡はレベル上げしないと色々辛いだろ?」

「それはそうだけど……」


 ちらっと静さんを見る鏡。素直に頷く恭介。


「悪いけど俺は、ミューや静さんのボディガードが良い」

「へ!?」


 ボディガード!?


「ガチな対人戦はこっちじゃなきゃ出来ないし」


 ガチな対人戦!? いやなんか怖い単語が出てきた気がしますが!?


「あー……。確かに、拓の趣味的には、ダンジョンより、何かに巻き込まれそうな二人の側に居る方がいいのか」


 趣味!? 趣味ってなに!? っていうか何かに巻き込まれそうってわたし達の印象おかしくないかな!?

 わたしが混乱しているのに気づいていないのか、それとも無視してるのか、貴史は他のメンバーを見渡して、一つ頷いた。


「オレと大地がいれば、二人を守りながらダンジョン攻略も恐らく可能だし、オレは良いと思うよ」

「自分も反対する理由はないかな。あと、鏡は強制的にこっちのグループだぞ」


 大地に先手を取られて、鏡はうぐぅとうめくが抗議はしなかった。

 というか、抗議できる立場じゃないもんね。

 いや、いやいやいや、それよりもだよ!

 え? なんか拓って危ない人なの!?

 なんか怖い人!?


「あ、勘違いしてそうだから伝えとくね」


 疑心暗鬼になりながら拓を見ていると、恭介が声をかけてきた。


「拓は古武術とかに興味があるんだけど、どうやらお母さんがそういうのに厳しい人みたいで、そういう道場にも通えないし、動画も見てると怒られるっぽいんだよね」

「部活で空手か剣道か入ろうと思ったけど、許可が下りなかった……」


 拓が凄く悲しそうな声で付け足してきた。


「だから職業も戦士にしたんだ」


 はあ……。と相づちを打ち、ふと思いつく。


「たぶん、今から行くところ、騎士団っぽいのがあると思うから、その訓練に参加出来るかどうか聞いてみようか?」

「いいのか!?」


 ただの思いつきで口にしただけだったんだけど、拓の表情が明らかに期待に満ちて、瞳がきらきらと輝いた。

 あ、やばい。適当にいっただけ、とは口が裂けても言えない……。


「えっと、一応お願いしておくけど、駄目だったら、ごめんね?」


 不安になって先に謝るとそれでもかまわないと、うんうんと拓は首を縦に勢いよく振る。

 ここまで期待されると、断られた時が怖いな……。

 うーん……。騎士団が無理、ってなった時は、アンさんとかに個人レッスンが出来ないかお願いしてみようかなぁ……。

 それにしても、ボディガード……。

 ……わたし、使い魔がいるから、大丈夫っちゃぁ、大丈夫なんだけど……。

 あ、でも、静さんの事を考えれば、有りっちゃ、有りかな?

 恐らく、その役をやりたいのは鏡だろうけど。


「じゃあ、何かあった時は、よろしくお願いします」


 座ったままぺこりと頭を下げる。


「ああ、全力を尽くす」


 と真剣な表情が返ってきた。

 てっきり自信満々な顔で「任せろ」って言ってくるかと思ったけど、ガチな感じでちょっとこっちが驚いた。

 チートあるし、よく見る漫画の様に、楽勝って言う感じになるんだろうなぁって思ってたんだけど……。

 もしかしたら、対人戦って、思っているよりももっとずっと大変なのかもしれない。

 ……商人ルートでも、面倒毎に巻き込まれる可能性は十分にある。

 敵を作らないように気をつけよ……。


 荒稼ぎ、駄目、絶対。

 

 



 




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魔女になりました 夏木 @blue_b_natuki

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