水際

榊隆太

水際

突風は吹いたらわかる 感情に名前がついていたころの窓



  

非常事態宣言 ガソリンスタンドの近く歩けばガソリンくさし


飼つているどぜうの食事風景を送りてそれが日々の生活


日本は孤独なりけり海までの電車賃ならmanacaにあれど


家々を結ぶ電話は蜘蛛の巣を編みてあなたの声のやはらか


二時二十二分は猫の時でありにやんにやんにやんと言つたもん勝ち


吐息ほど愛ほしむべきものもなく水際みぎはのごとき画面に睡る


再会/再開さいかいの予感もつともうつくしく坂を登つて向かふ学校


カーディガン脱ぎぬあなたの人生の「あなたの」の「の」のすきとほりたり


肩ごしに送風機の風感じゐてIRIS OHAYAMAは花の名なりき


開くとき花は奈落でどこまでもどこまでも行ける気のする手のひらでせう


指先でマスクを奪ひ晩春の菫のやうなくちびるに火を


なゐふらばともに死ぬるか扉よりおほきな望遠鏡のある部屋


下り坂 今日か明日かわからない時間までまた LINE をつなぐ


触つてはいけない氷 さびしさはいつかあなたに向ける刃の


前線は蝦夷を過ぎゆき肺炎のやうなる風が散らすはなびら


さんたまりあさんたまありあだとか籠城爆破はむつかしきかな




両親が教師だといふことだから大変さうだと思ふ、今でも




あのひとのしぐさが思いだせなくて、疫禍は続いていた の だろうか


母校だと呼ばざるを得ぬ建物に渡り廊下がなくてよかった

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水際 榊隆太 @hakutium119

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