仮面ライター

@jnjdngic

第1話

 山田出版社の書籍編集部は、人気ライトノベル作家・藤田時雨の失踪を知らされた瞬間、驚愕と悲嘆に包まれた。彼の新刊は業界内でも大きな話題となる予定であり、その刊行は出版社にとって重要な収益源となるはずだったからだ。


 編集長の高野は、失踪の詳細を突き止めるべく切羽詰まった雰囲気で、編集チームに対して全力の調査を命じた。彼の居場所や状況を特定することが、新刊の刊行を見送らないための第一歩であると考えたのだ。


「彼の友人や家族との交流を探り、その中から手掛かりを見つけ出すんだ」


 編集長の指示の元、編集チームは情報を集め、藤田時雨が最後に目撃された場所や行動を把握しようと奔走した。


「失踪の理由やモチーフを突き止めることが、なぜ彼が消えたのかを理解し、新刊の行方を知る鍵となるはずだ」


「読者にはなんて言いましょう」


 失踪から数日が経過しても、編集部は未だに藤田春樹の行方を知ることはできなかった。単行本の刊行は多少、時期が変更しても不審には思われない。


 一方で、出版社は読者に対しても公式なアナウンスを行わなければならない。営業担当の佐藤は、誤解や憶測が広がらないように、事実を隠すプレスリリースを作成した。


「担当イラストレーターや装丁デザイナーとも連絡を」


 肩身が狭いのは担当編集者の大友だった。そんな彼の受信トレイに一通のメールが届いた。


「親愛なる山田出版社の皆様へ、


私、藤田時雨です。まず初めに、私の突然の失踪についてお詫び申し上げます。長い間、私は皆様のお力添えと読者の皆様の応援によって、作品を執筆することができました。しかし、最近は自身の力不足を痛感し、ついには創作意欲を失い、深刻なスランプに陥ってしまいました。


私はこの場をお借りして、私のファンの皆様から様と出版社のスタッフの皆様に心から感謝の意を表したいと思います。皆様のおかげで、私は素晴らしい機会を得て、自身の作品を世に送り出すことができました。心からの感謝を胸に刻んでいます。


しかしながら、最近の私の状況は思うようになく、物語の続きを創り上げることが難しくなりました。精神的な疲労と創作の停滞により、私は休息と新たなインスピレーションを求めて失踪する選択をしました。この決断は悩み抜いた末のものであり、読者の皆様と出版社の皆様に失望とご迷惑をおかけすることを重々承知しております。


私はいずれ戻ってきて、再び皆様に素晴らしい作品をお届けできるように頑張ります。再出発の時が来るまでの間、私の作品を楽しみにしていた読者の皆様に心よりお詫び申し上げます。


山田出版社の皆様、そして私の読者の皆様、お力添えいただいたことに感謝いたします。ご理解いただけますようお願い申し上げます。


現在発売中の作品に関しては、私の失踪により続きの執筆が滞ってしまう可能性が高まっております。読者の皆様には、お待たせしてしまうことを心よりお詫び申し上げます。執筆の再開ができるまでの間、作品の進行状況を確約することが難しい状況であることをご理解いただければ幸いです。


私の目標は、新たなインスピレーションを見つけ、再び皆様に楽しんでいただける作品を届けることです。そのためにも、私の創作活動に対する期待と応援を続けていただけますと幸いです。


さらに、私の作品について考えていることがあります。私が現在の状況から抜け出せるよう努力する間、作品の続きをお届けするために、ゴーストライターに協力をお願いされることも厭いません。


ゴーストライターによる作品の続きは、私の創作意欲が戻るまでの一時的な手段として考えておりますが、私の代わりに、皆様に楽しんでいただける作品を提供してくださるゴーストライターの方がいらっしゃいましたら、私の作品の今後をお任せすることに異論ありません。


ゴーストライターに依頼することには躊躇がありましたが、読者の皆様と出版社の信頼を裏切ることなく、最良の方法を模索してまいります。ゴーストライターによる作品の続きが、私の作品に対する愛情を持つ皆様の期待に応える一助となれば幸いです。


敬具、

藤田時雨」


 メールを読み終わって早速、大友は編集長に相談した。


「なるほど、状況は厳しいようだな。まあ、生きていることだけでもわかってよかった。藤田時雨の作品は出版社にとっても重要だし、ファンにとっても大切な存在だ。藤田から作品を開講する一任を得たのはよかったが。ゴーストライターを依頼するのは慎重に考えなければならない。そのゴーストライターにはどのような条件を求めるつもりか?」


 大友は答えた。


「まず、藤田時雨の作品に対する深い理解が必要です。彼女世界観やキャラクターに共感し、作品を尊重してくれる方が望ましいと思います。また、執筆スタイルが藤田に近いか、少なくとも読者が違和感なく受け入れられるような能力を持っている必要があります」


「それは重要なポイントだな。確かに、ファンが違和感を感じないようなゴーストライターが必要だろう。どれだけの期間で執筆を進めるつもりか、そしてライターには藤田時雨の名前で作品を発表することになるということを伝えておいてくれ」


「分かりました、編集長。執筆期間については、できるだけ迅速に進めるように指示します。そして、ゴーストライターには藤田の名前で発表することを厳守させます」


「よろしく頼む。藤田時雨の作品を守り、ファンの期待に応えるためにも、適切なゴーストライターを見つけてくれ。この件は秘密にして、適切な人選を進めてくれることを期待しているぞ」


「はい、編集長。すぐに人選を始めます。藤田時雨の作品の輝きを取り戻すために、最善を尽くします」

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