第48話 はじまりの島

「ライリー!」

「おねーちゃん!」

 タイリータウンの港町。あんなに嫌いだったのに、久しぶりにその街並みを見ると何だか安心した。そして耳に響く懐かしい声。

「お母さ……」

 私が何か言うよりも先にお母さんにきつく抱きしめられる。その後で妹と弟が飛び込んできて危うく転びそうになった。

 船から降りたばかりでまだ船の揺れが抜け切れてない体には辛い。でもそれ以上に心がじんわりと温かくなる。

 救難艇は私が家出……船出した次の日から、お母さんの要請で出動していたらしい。そして、海賊から逃げ切ったユジさんの小型船と鉢合わせたそうだ。

 ユジさんが救難艇をパゲア周辺の海域まで案内してくれたのだ。そのことを知って私は胸を撫でおろした。ユジさんは無事だったのだ。

 海賊達とエドガーさんは港に待ち構えていた警察の人達に連行されていった。これから色々と事情を聞かれるらしい。

 ユジさんのお陰で私はこうして家族と再会できたのだ。

「どうして黙って出て行ったの!」

「……ごめんなさい。どうしても今、行かなくちゃって思って」

 やっぱり。お母さん、怒ってるよね。これからもっと家のルールが厳しくなるかもしれないと思うと気が重たくなった。

 最悪、一生外出禁止令なんてものが出てしまうかもしれない……。私がお母さんの言葉を恐れていた時だった。

「ライリー……本当は危険な冒険家になんてなってほしくなかった。だから沢山怒って、あなたを冒険家という夢から遠ざけていたんだけれど……。無理だったみたい。だってライリーは、否定されてもこうしてやり遂げたんだから!」

 そう言ってお母さんは涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、私の頬を撫でた。

「考えてみれば冒険を諦めろなんて無理な話だったわね……。だってライリーは偉大な冒険家オズウェルの子なんだから!」

 その言葉を聞いて私は泣きながら笑った。私が考えていた最悪の事態はどこかに吹き飛んでしまったようだ。

「これからも色んな世界を見て来るから宜しくね!」

 お母さんが力強く頷く。昔みたいに頭ごなしに怒ったり、否定したりすることはなくなった。

「姉ちゃん冒険のこと聞かせてよ!」

「私も聞きたい!」

 弟と妹にせがまれて、私は頭の中に今までの冒険の映像が流れた。

 ゴミの海域で船の操縦は怖かったけど楽しかったな……。海上で出会いもあった。海賊とも戦った……。パゲアに上陸して、ティランノスと会って。世界の危機を救って……。

 私、話したいことがたくさんある!やっぱり冒険家はいつだっておしゃべりなのだ。

「いいよ!冒険の話、しようか!」

 いつかお父さんがそうしてくれたように、私は自分の冒険について語る。




 パゲアのことはやっぱりお父さんが言っていた通り。おおやけにすることはできない。だから、こうして自分だけの記録を取って置こうと思って私は机の前に座る。

 書きだしはそうだな……こんな感じはどうだろう?


 『パゲアは幻の島でも、呪いの島でも希望の島でもない。私にとってパゲアは……はじまりの島だ』


 いいんじゃない?とでも言うように首元のネックレスがきらりとひらめいた。

 さて。次はどんな世界に冒険に出ようかな?ティランノスと再会した時、とびっきりの冒険譚を語れるようになっておかなきゃね!


 

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はじまりの島パゲア~少女冒険家ライリーと祭祀長の少年~ ねむるこ @kei87puow

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