はじまりの島

第47話 またいつか

「今までありがとうございました!本当に楽しかったです」

 私は浜辺に集まってくれたパゲアの人達に頭を下げる。泉に映し出された、お父さんの見送りの映像と重なって何だか不思議な気持ちになる。

 ティランノスいわく、儀式を行ったことでパゲアの空間が閉じられる時間が速まったらしいのだ。の声を聞くことでパゲアが地上と繋がるタイミングが分かるらしい。

 もう少しパゲアにいたい気もしたが、仲間割れを起こした海賊達やエドガーさんのこともある。ここは早くパゲアを出た方がいいだろうと判断した。

「オズウェル様も、ライリー様のこともパゲアの者達は忘れません」

 ヴェロさんが涙をぬぐいながら、私を抱きしめてくれた。

「はい!私も!一生忘れません!」

「寂しくなるよライリー」

「もう行っちゃうの?パゲアを救ったお祝いもしてないのに」

 パゲアの人達が別れを惜しんでくれる中、ティランノスは視線を落としながら私に近づいて来た。

「ティランノス!色々迷惑かけてごめんね。それと、ありがとう!私、また絶対パゲアに来るから」

「今度地上と繋がるのは……もっと先になるかもしれない。多分、十年は先だ」

 悲しそうなティランノスの様子を見て、私は励ますように答えた。

「分かった!そしたら十年後、また来るよ。もちろん、冒険家としてね!」

 私の明るい声にティランノスが顔を上げる。

「お前は本当に自由なんだな……。分かった。その時は俺もその船に乗せてくれ」

「え?」

 私の驚いた顔にティランノスが年相応の少年の笑顔を見せる。

「俺はパゲアの役目を果たさなきゃならない。冒険に出られなくても船ぐらい乗ったっていいだろ?ずっと気になってたんだ……。オズウェルの……ライリーの船」

 ティランノスの何か、すっきりとした表情に私は嬉しくなる。

「うん!」

「それと、これを」

 ティランノスから差し出されたのは私のネックレスと同じ。エドガーさんがお父さんから奪ったネックレスだった。

「オズウェルの分だ。ライリーが持っておくと良い」

「ありがとう!あっ!そしたら私からはこれを」

 私は今、首に下げられている同じネックレスをティランノスに渡す。

「こっちはティランノスが持ってて!」

 ティランノスが目を丸くしながら私のネックレスを受け取る。そして呆れたようにため息を吐いた。

「あのなあ、どっちも俺の父が渡したもんだろうが。それを返されても……」

 話しながらティランノスが噴き出す。私もつられて笑った。

「……ありがとう。待ってるよ、冒険家」

 ぼそぼそと皆には聞こえない小声でティランノスが言った。私はその言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう!ティランノス。また会おう!」

「ああ」

 私は包帯だらけの手でティランノスと握手を交わす。確かにティランノスのぬくもりが伝わってきた。


 私は海賊たちとパゲアの海域を後にする。海賊姉弟がエドガーさんと仲間割れして敵となった海賊達を乗せてくれている。同時に体の内側をふるわすような振動を感じた。

「何だ?」

「強力な潮の流れだ!」

「持ちこたえな!」

 アンヌ達の声が聞こえ、私も船にしがみつく。

 まるで島から私達を追い出すような、強力な離島流が流れた。辛うじて島の方に視線をやると、パゲアが消えていくのが見えた。正確には空間に飲み込まれているというべきだろうか。

 テレビで見たブラックホールが惑星を飲み込むみたいに、パゲアが視界から消えて無くなる。船にしがみつきながら届きもしないのにパゲアに手を伸ばす。

 私はその光景を、潮に流されて見えなくなるまで眺めた。

 

 パゲアの海域を抜けた後、私を出迎えたのは……複数の救難艇きゅうなんていだった。

 

 


 




 

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