第46話 光が降り注ぐ

「ねえ……。このまま落ちて大丈夫なの?」

 私は落ちながら顔を横に向けてティランノスに問う。そういうティランノスは少しも慌てていない。

 その余裕そうな横顔が何だか憎たらしい。だから私もなるべく落ち着いた声で聞く。

「下、見てみな」

 ティランノスに言われるまま、敢えて見ないようにしていた地面に視線を向ける。

「あれは……?」

 目を細めると地面にしな垂れた白と赤茶色の太い木の根が見えた。更にその下に葉っぱの山が出来上がっていたのだ。

「周りパゲアの人もいる……それにシャークの人達も!」

 葉っぱの山を準備していてくれたらしい。私は安堵するとともに、しなれた木の根の衝撃に備える。

 私の緊張が伝わったのか、横にいたティランノスが私の手を握り返した。

 大丈夫。私には……皆がついている。

 体全体が木の根に包まれると、私とティランノスは一度、大きくその体を天井にはじかれる。落下の衝撃を弱めてから、木の根が優しく私達を受け止めた。

 まるで小さい子を持ち上げて、地面に下ろすような。優しい動きだった。

「うわっ!」

 その後でポンっと木の葉のクッションに投げ渡される。

 葉っぱまみれになった私とティランノスは顔を見合わせて、笑い合った。同時に周りから歓声が上がる。

「お二人とも!良かったご無事で……」

 ヴェロさんが泣きそうな顔で私達の元に駆け寄って来た。

「ありがとう!祭祀長、ライリー。俺達を守ってくれて!」

「ありがとう!」

 次々と感謝の言葉が耳に入って来る。私は立ち上がってみんなに答えようとしたけど、疲れて立ち上がれなかった。

 それを見かねたティランノスが横から手を差し出してくれる。私は自然にその手をつかんで立ち上がった。

「まずは傷の手当をしなきゃな」

「……そうだね。もう動けないや」

 私の困った笑顔にティランノスがふっと息を漏らす。

「木の館はめちゃくちゃになってしまいましたから、こちらの民家を借りましょう」

 私はヴェロさんとティランノスに支えられながら歩きだす。

「冒険家のライリー」

 力強い女性の声を掛けられ、視線を向ける。

 そこには海賊姉弟と……縄で縛られ、ぐったりとしたエドガーさんの姿があったのだ。

「元ボス、白い木に飲み込まれる前に、大木の根元から飛び出してきたんだよ!」

「何だか生気せいきがないけどな」

 オルとハイレが興奮気味に話す。その後でアンヌが腕組をしながら聞いて来た。

「こいつをどうする?海に投げ捨てるっていうならあたしらがやっとくけど」

 私は急速に年老いたエドガーさんの姿に驚きながらも首を横に振った。恐らく大木からエネルギーを奪われてしまったのだろう。これ以上追い詰めることは無いと思った。

「ううん。タイリータウンに一緒に戻るよ。それからちゃんと……罪を償って、反省してもらうから」

「……そうかい」

 アンヌはつまらなそうにそっぽを向く。

 私はヴェロさんとティランノスに連れられてパゲアの土を歩く。体は疲れ切っていたけど心は満ち足りていた。

 やっぱり……冒険っていいなと心の底から思った。

 

 

 

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