第2話


 ロボットの動きが止まったことを感知したブザーが部屋に響き、私は急いで母の家へと向かった。

 

 優しかった母だが、歳を重ね、兄たちが遺産の話をするようになってから、人が変わってしまった。息子全員が自分の遺産狙いなのだと信じきってしまった。

 

「母さん、一緒に暮らそう」

「最期に会いたい人はいる?」

「言いにくければ、手紙でもいい。望みはないの?」

 

 手紙の件では、「あんたに遺産をやるなんて遺言は書かないわよ」とまで言われてしまった。

 仕方なしに、母が不便をしないよう家事全般を行えるメイドロボットを導入した。

 

「近所で遊ぶ子どもの金切り声が、私の心臓を締め付けるわ。このままじゃ死んでしまう。なんとかなさい」


 と母が言えば、お金で解決するのは良くないと分かっていたが、金を渡した。すると、札束を床に叩きつけられ、私は土下座をした。

 近所の方々の迷惑なのは分かっていたが、私が母にできることなどこれくらいだったから。



「飛行機が上空を飛ぶ音が、私の心臓を膨張させるわ。このままじゃ死んでしまう。なんとかなさい」


 と言っていた時は、業者を頼んで夜な夜な作業をしてもらった。家事ロボットが地下をつくるなんて無理なのに、母はそんなことも気が付けなくなっていた。



「あなたたちが頭上をパタパタ動き回る音が、私の心臓のリズムを狂わせるわ。このままじゃ死んでしまう。なんとかなさい」


 と言っていた時は、ロボットに命令して一体を除いてバラバラにした。それでも母の機嫌は治らなかった。


「あぁ、まだうるさいわ。不整脈が、不整脈が……」


 と言うので、ロボットを母の鼓動に合わせて動くように設定を変えた。いわゆる、遠隔操作というやつだ。



 母は、私が近付くと興奮してしまう。だから、ロボットを介して母を見た。もうすぐ母の命の終わりが近付いてくることが手に取るようにわかった。

 会いに行きたかった。けれど、会いに行けば興奮して、母の心臓が止まるかもしれないと思うと、できなかった。



「母さん、会いに来たよ」


 地下で母さんに話しかける。だが、返事はない。


 母の鼓動に合わせて動くように設定したロボットが、既にそのことを私に教えてくれていた。


 母の鼓動は、完全に止まっている。

 ロボットも止まる。

 それからずっと、止まっている。


 私だけが動いている。

 その事実に息がつまった。




 

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ロボットから精一杯の愛を──。 うり北 うりこ @u-Riko

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