不器用だけど、優しいね

桃口 優/光を見つけた作家

一話

彼方かなたって、つくづく不器用だよね」

 彼女は空高くの星に手をかざしながら、突然そう話してかけてきた。

 彼女の言葉に、棘のようなものは全くない。そもそも、彼女が人を悪く言うところを今まで聞いたことがない。

 私たちは、今ベランダにテーブルと椅子を出してきて、そこでのんびりとお酒を飲んでいる。

 ベランダって意外と広くて、開放的だと最近気づいた。

 夜の風は、私のピアスを揺らす。

 今は五月。過ごしやすい気温で、気持ちがいい。

 コロナのせいで、不便なことが断然に増えた。

 けれど、こうやって楽しい時間を自分たちで作ることもできる。

「えっ、急に何⁇」

 私は彼女の肩を軽くたたきながら、少しおどけてそう言った。

 正直心臓はドキッとしたけど、それを悟られないようにした。

 不器用なのは、自分でもよくわかっているから。

 今まで、不器用なために損なことをたくさんしてきた。

「だって、いつも誰にも相談せずに悩みを抱えているから。しかも、それを一人では抱えきれなくなって苦しんでるから」

 しっかり私のことを見てくれていることが嬉しかったのと同時に、痛いところをつかれていてなんと答えていいか迷った。

「だって、人に頼ったり甘えるのって私苦手だから。しかも普段甘えないから、甘え出すと止まらない時がよくある。それに、自分一人で苦しむならそれでいいかなって思う。悩みすぎて死んじゃったって話もあまり聞いたことないし」

 私はまた自然と人と距離をとろうとしている。

 ありのままを受け入れてくれる人なんていないと思っているからだろうか。

 でも、本当はそんなことしたくないと思ってる。

「私は、彼方の苦しんでる姿見たくないな」

 彼女はぼそっと、それだけ言った。

「えっ、それはどういう意味?」

 私は瞬時に言葉の意味がわからず、聞き返した。

「本当に彼方は不器用で、鈍感だよ。大切な人が苦しんでる姿なんて普通見たくないよ。それにこんなに私は彼方のこと思ってるのに、彼方は私のことをあまり頼ってくれない。彼方は優しすぎるよ」

 私はその時、彼女の心に触れた気がした。

 彼女に迷惑をかけたくないと、今まで愚痴などを言ってこなかった。

 彼女には笑っていてほしかった。楽しい話をしたかった。

 でも、それが彼女を苦しめていたのだから。

「ごめん。私はかなり不器用だね」

 私はくしゃっと笑い、彼女の肩に自分の首をゆっくりと乗せた。

「そこは謝るところじゃなくて、今度からは頼るねって言うところでしょ? 彼方は私に気を使いすぎだよ」

「そっか。うん、じゃあ頼らせてもらっていいかな?」

「いいよ。そうと決まればまた乾杯し直そうよ。夜はまだまだ長いんだから」

 いつも飲んでいる酎ハイが今日はなんだか美味しく感じたのは、きっと彼女のおかげだろう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不器用だけど、優しいね 桃口 優/光を見つけた作家 @momoguti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ