ありがとう

ゆきお たがしら

第1話ありがとう

この家は私のものだと眼を据え 口角泡とばす母に 打ちのめされし


鬼となる母を目守るは悲しけれ 金・金・金と 我に言いける


丸椅子の我の目見詰め ひと言医師は 『あなたには覚悟がない』


医師に言われた 覚悟、覚悟、覚悟 我は弱気な人間なり

 

燃え尽きるローソクとなりし母よ 神は永遠の命を与えず


頭では わかっていても 日に紛れ 逝きし母に我は言葉失い


生と死 誰でもわかることなのに われ悲しくも母を揺さぶり続け


後悔は 帳のごとく 侍りきて あれもこれもと我をさいなむ


母の『ありがとう』のひと言が 俺の空白のページを埋めていた


忘れ物はなんですか? それは優しさ、思いやり 若さはバカさの俺だった


橋の下の子かと十五の春より逆らい続ける 造反とは言え回り道、あまりに長く


われ動けぬ父の髭あたる 『痛い、痛い』が我と父との最後の会話か


看病に疲れ果てたる母がいて アラーム音も風の音となりけり


働きて働きて父は逝く 感謝の言葉を聞くこともないままに


逝きし父に 呆ける母よ スーパーマンは二度と戻らず 


我もまた 父のごとくに死するのか ガス溶接の火花厳し


棚で見つけた吸い飲みに 父恋し 母恋しと われは思わず涙していた


好き勝手に生きし我なのに 父、母失いて 心のなかにはブラックホール 


ありもせぬ星を求めて ただただただ宙を見上げる我がいる


さして愛していなかった父なのに 亡骸を前に突如、号泣する我がいた

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ありがとう ゆきお たがしら @butachin5516

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