いつもの夜、いつもの声。
んんっ。
あー、あーあー。
こっ、こんばんわっ!
あれ、こんな感じだったっけ……?
もうちょっと大人しく、お淑やかにしてた気もするような……?
普段通り、普段通り……。
すぅー……、はぁー……。
こ、こんばんわ。
あ、これかも?
おおっ、キミもそう思う? そっかそっか。
ならこんな感じで――――。
って、うわぁっ!?
なっ、なんでもう繋がってるの!? あれっ!?
もうちょっと時間あると思ってたんだけど!
いつもより早く繋がってる……?
どっ、どうして!?
……って、キミに聞いても分かんないよねぇ。
この魔道具は分かんない事だらけだし。
【ポンポン。優しく叩かれる音が聞こえる。】
それで、えーっと……。
こ、こんばん、わ?
さっきのと違うとか言うなぁ~。
あれは忘れてっ。
毎回ああいうことやってたワケじゃ無いのっ。
いや、だって……、あの……。
今日起きて、昨日の夜のこと思い出して、その……。
……すっごい、恥ずかしいとこ見せちゃったな、って…………。
気が弱ってたとは言え、こう……色々、言っちゃったから。
キミとどんな風にお話ししたら良いか、分かんなくなっちゃって。
……なーんで笑ってるのかなぁー?
あっ、こら! 思い出すなっ!
もう……。やっぱりキミ、優しくないかも……。
…………あははっ!
あーあ。色々悩んでたのに、なんか全部バカバカしくなってきた。
うん。そうだよね。
私たちはこれからも変わらず、だね。
よーし! もう大丈夫!
ここからは、いつもの元気な私だよ!
あっ、そうだ! キミに伝えたいことがあったんだ!
今日は街の図書館っぽいところを調べてたんだけどね、そこで面白いものを見つけたの。
【ゴソゴソ。カサカサ。紙同士の擦れる音が聞こえる。】
ちょっとしたレポートみたいな厚みの紙束なんだけど、『異世界渡航魔術』について纏められたものでね?
言葉の通り、こことは異なる世界に渡るための魔術が研究されていて、それに関する記載がいっぱいあったんだ。
うん。かーなーり、怪しいよね。
実際、レポートにも殆どの人から理解は得られず、ごく少数でひっそりと研究が進められたー、って書いてある。
今はもちろん、これが書かれた当時でもやっぱりそういう考えはあり得ないってされてたみたい。
あはは。やっぱりそっちの世界でも同じ感じだよね。
自分たちが生きてる世界とは別の世界があるんだー、なんて言われてもね。
でも、面白いのはここから。
それでこの実験はどうなったと思う?
正解は――実験中に一人の作業員が突如として失踪。行方不明になり、それが周りから問題視されてそのまま中止、でした~。
……うん。やっぱりキミもそう思うよね!?
多分だけど……実験に成功してる。
帰る手段は用意してなかったのか、それか何らかの理由で実行出来なかったのか。
そこら辺は分からないけどきっと、異世界に渡る魔術には成功してる。
確かに、眉唾な話かもしれない。
異世界に渡ったー、なんて普通だったら信じられない。
でも、今の私ならちょっとは信じられる。
こうしてキミとお話し出来てるんだしね。
私ね、旅をしながらこの魔術のこともっと調べてみようと思うの。
ん~? 今お話しした以上の事はなーんにも分かんないよ。
周りから怒られながら終わったからかな、詳しい実験内容なんかのページは丸っきり
無くなってるの。
でも、これについてもっと分かれば、もしかしたら私にも同じ事が出来るかもしれない。
世界の違いなんてぴょーんっと飛び越して――キミに会えるかも。
だけどさっきも言った通り、まだまだなーんにも分からないからさ。
きっと長いながーい旅になると思う。
それでもいつか、絶対に見つけてみせるから。
それまで私と一緒に――。
え? それまでじゃ嫌だ?
一体どういう……。
あー、ふふっ……あははっ!
そうだね。確かに。キミの言う通りだね。
じゃあ、改めて。
私がキミのいる世界へ渡れるようになるまでも――渡って、キミのそばに居られるようになってからも。
ずっとずっと、私と一緒に夜を過ごしてくれる?
異世界で生きるキミと 太田千莉 @ota_senri
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