今夜だけは



……んん? 

えっ、あっ、そっか、もうこんな時間……。


やー、ごめんごめん。ちょっとボーっとしちゃってた。


気を取り直して……。


こほん。こんばんわ。

今日もいーっぱいお喋りしようねっ。



おーい? どうしたのさ、いきなり黙り込んじゃって。


あ、もしかして、今日もお疲れ?

それなら私が癒して――――。



ん~? 別に何も無いよ? 私はいつも通り元気で――


あー……、分かっちゃう、かぁ。


まあ、ホントは私も分かってたんだけどさ。なんか疑われてる……ううん、心配させちゃってるなぁ、って。


でも良く気付いたね?

私みたいに、相手の心の声が聞こえたりしないのに。


声を聞けばわかる、って……。

あははっ! そっかそっか。こりゃ一本取られちゃった。



ええと、心配してくれてありがとね。

でも、別に大したことじゃないんだよ?


それにあんまり聞いてて楽しい話じゃないし、情けない話なんだけど……良かったら聞いてくれる?



私が一人で旅をしてる、ってことは前に話したよね。


それでね、今日も色んなところを散策してたの。


その途中で街を見つけてさ。

食べ物も少なくなってきたなー、何か無いかなーと思って、その街に入ったの。


そうしてお邪魔した民家で、その……まぁ、ちょっと……刺激的なものを見ちゃってね。



いやー、そういうのは見慣れてたつもりだったんだけど。

久しぶりに見たからなのかな。妙に、頭から離れなくってさ。



……あはは。

ごめんね。こんな話しちゃって。


やっぱり無し! 忘れ――。


……もう。なーんで、キミが申し訳なさそうにしてるのさ。

キミは何も悪くないんだから、申し訳無く感じることなんて無いんだよぅ。


何もしてあげられないから……?

いやいや、この前のお返しとか考えなくていいから。


お返しとかじゃなく、私のために何かしてあげたい、って……そ、そんな事言われても……。えっと、その……。


…………あの、じゃあ、さ。

少しだけ、甘えても……良い?


即答かぁ。……ありがとね。



【コツン。何かがほんの少しだけ触れたような、微かな音が聞こえる。】


私、怖くてさ。


その人もひとりだったの。

ひとりきりで、誰にも知られず、まるでただ眠ってるみたいだった。


……いつか、私もこうなっちゃうのかなぁ、って。

そう思ったらすごく怖くて、暗い気持ちが止まらなくなって。


うん。そうだね。今はキミとこうしてお話ししてる。

……でも、それだっていつでも出来るワケじゃない。


夜にしかお話し出来なくて、しかもなんで夜にだけお話し出来るのかも分からない。

そもそも、なんでお話し出来てるのかもあんまり分かってない。

明日も通信出来る保証は無いし、もしかしたら一秒後にはプツンと切れちゃうかも。


その内……またひとりになっちゃうのかも。


あーあ、ヤだなぁ……。もう……独りになりたくないよぅ……。


ひとりにしない、ってずいぶん簡単に言ってくれるなぁ……。

分かっちゃうんだよ? キミが何の考えも、根拠も無しに言ってるってこと。


……でも、すっごく嬉しい。忘れないからね。今の言葉。



ふぁぁぁあ……。んー、あれ……? なんだか急に眠くなってきちゃった。

おかしいなぁ。さっきまで変な事ばっかり考えて、眠気なんてこれっぽっちも感じなかったのに。


安心しちゃったからかな?


ホントはもっとお話ししたかったけど、今日は、ちょっと……無理、かも……。

ごめんね。


……ねね。最後にもう少しだけ、甘えてもいーい?


ありがと。

私が眠るまで、何かお話ししててほしいな。


なんでもいいよ。キミの話すことならなんでも。

もう、すぐ寝ちゃうと思うから、キミの声を聞きながら眠りたいな、って。


ダメ、かな……?


ふふっ……可愛くおねがいした甲斐があったなぁ。



たくさんたくさん、甘えさせてくれて、ありがとね。



あしたも、これからも。


キミといっぱいいっぱい、お話し、したいなぁ…………。




すぅ…………すぅ…………。

すぅ…………すぅ…………。

【スースー。深く落ち着いた、ゆっくりとした呼吸音が聞こえる。】

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