第4話

 状態異常を治すスキルや、薬、アイテムなど様々ある。

 確か基本的には該当の状態異常に合ったものを使わないといけないはずだが、高級なものは複合的な効果を持つんだっけか。

 俺は情報まとめサイトで状態異常:アンデッドを治すことができるものを検索した。


「……え? ヒット件数ゼロ……?」


 検索の仕方が悪かったのかもしれない。

 試しによく見る、状態異常:毒を治すことができるものを同じように検索してみる。

 ヒット件数が百を超えてる。

 これは、状態異常:アンデッドってのを治す方法なんて、ないってことか!?

 くそっ!

 期待して損した。

 いや、仮に状態異常:アンデッドってのがまだ周知されていないだけで、回復方法があると仮定しよう。

 そうなると薬の効能とかを一つ一つ確認して、効果のありそうなものをかたっぱしから試してみるしかないのか?

 うーん、めんどくさいなぁ。

 何にでも効く万能薬みたいなもんがないのかよ!

 ……あるわ。

 勢いで検索した万能薬。

 そのままの名称で一件ヒットした。


万能薬エレクシル

 種別:薬

 効能:の状態異常を治癒、解除、消滅させる


「あるじゃん……え? 思いっきり全ての状態異常って書いてある。これ使えば治るだろ。きっと」

 

 早速万能薬の入手方法を調べてみる。

 アイテムの入手方法は大きく分けて二つ。

 モンスターを倒してドロップ品として手に入れるか、モンスターの落とした素材となるアイテムを利用して、必要なスキルを取得した探索者が合成するか。

 薬は調合や錬金などの生産系と呼ばれるスキルで作るのがほとんどだったはずだ。

 薬の状態でドロップすることも少なくないって話だが。

 しかし、どうやら万能薬はモンスターからのドロップのみが、現在判明している入手方法らしい。


「どれどれ……うわ!? こんなにリポップ速いのか! こんにゃろう!!」


 同じ場所で突っ立ったまま色々調べていたら、キラースライムがまた襲ってきた。

 ついリポップって口に出したが、倒してからのそんなに時間経ってないような気もするから、別固体かもな。

 いずれにしろいくらでも蘇るからとはいえ、キラースライムの体内で徐々に死にながら調べ物ができるほど神経図太くない。

 とりあえずは倒すまで、さっきと同じ要領でスライムコアをひたすら殴り続けた。

 今回は別に時間を計ってるわけじゃないから、可能な限り素早く、しかも両手で思いっきり殴り続けてやることにする。

 結果的に、途中三回ほど死んで、再びキラースライムを倒すことができた。

 また襲われてもめんどくさいので、少し離れたところに移動しよう。


「えーと……うわぁ。これ自力で入手は無理だな」


 アイテムを落とす可能性のあるモンスターは超級者パーティでようやく、といった超難易度のダンジョンに出てくるらしい。

 ドロップ品は固定のものもあればランダムのものもあり、万能薬はランダムドロップ。

 しかも確率は案の定低め。

 そもそも超級者向けってだけで俺が行ける望みはほぼないし、パーティ必須なら希望はゼロだ。

 こんな見た目でパーティ組んでくれる超級者たちがいるわけない。

 買うしかないな。

 相場を調べるためにオークションを覗く。

 それにしてもコレ、便利だな。

 一度慣れたら端末なんて要らないじゃないか。

 後輩が「今時端末使ってるとかありえなくないですか?」とか言ってたのは、あながち間違いでもなかったんだな。

 

「どれどれ……万能薬、万能薬……あれ? ないな」


 万能薬のオークションがない。

 なんでだ?

 不人気とか?

 こんな便利な効能なのに?

 試しに開催中ではなく、過去の取引も含めて探すことにした。


「あー、あった、あった。少ないけどあ……たぁ!? 高過ぎじゃねぇ!?」


 思わず叫んでしまったら、その声に反応したらしく、何かすごい勢いで近寄ってくる音が聞こえた。

 に、逃げなきゃ!

 そう思って音のする方向と反対に走ったら、逆に徘徊中のモンスターと遭遇してしまった。

 あれは確か、オークハイファイター。

 しかもしっかりと金属製の槌と胸当まで装備してる。

 仕方ない! 一匹ならキラースライムを倒せた俺にもなんとかできるだろ!

 腹を括って――骨なので腹ないけど――オークハイファイターと戦うことにした。

 何度か死ぬだろうが、最後に勝つのは俺だ!

 オークハイファイターは俺に気付いたらしく、でっかい槌を構えて迎え撃つような構えを見せた。


「おりゃあああ!! ……うぎゃああああぁぁあああ!?」


 痛い! 痛い! 痛い!!

 死ぬ! 死ぬ! 死んでるけど死ぬ!!

 初めてキラースライムに溶解液で殺された時とは全く別の痛みと苦しみを、これでもかっというほど喰らい、俺は意識を手放した。


 ☆


 目を覚ます。

 できるだけ動かずに視線だけで辺りを探る。

 どうやらオークハイファイターは徘徊型のモンスターだったらしく、俺が蘇る間にどこか別のところに行ったようだ。

 ひとまず助かった。

 あまりの痛みにまだ吐き気がする。

 吐こうと思っても吐けるものがないので、吐くことすらできないが。

 キラースライムみたいにもう一度喰らったら、耐性が付いてて痛くないのかもしれないが、試したいとも思わない。

 それほどの苦しみだった。

 ゆっくりと身体を起こす。

 ひとまずこのままでは死んでもダンジョン外に出られないし、ダンジョン内でひたすら死の苦しみを受け続けるかもしれない。

 俺どんな悪いことした罰だっていうんだよ!

 

「高くても、万能薬を買おう。今までの仕事じゃ、それこそ一生かけても無理な額だったけど、こうして死ななくなったわけだし。それにオークはもうこりごりだけど、キラースライムとかなら倒せるし。そのドロップアイテムを売れば……ああ!!」


 ダメだ。

 無理だ。

 この姿じゃ、どんなにモンスターを倒してドロップアイテムを手に入れたとしても売れない。

 ダンジョンで手に入れたアイテムを売るには、虹彩認証が法律で義務付けられてるんだった!

 目が無いんだから、虹彩なんて無い!!

 え? 待って。

 これ、もしかして詰んだ?

 状態異常を治すためには万能薬が必要で、万能薬を買うには金が必要で、金を稼ぐためには状態異常を治さなくちゃいけなくて……

 うぉおおおおお!!

 なんて理不尽!

 世の中、俺に厳し過ぎだろ!!

 ちょーっと会社休んで、子供の頃から憧れてたダンジョンに来ただけなのに……

 はぁ……こんなことになるなら、黙って動画配信でも眺めてれば良かったなぁ。

 ん? 動画配信?


「それだ!! って、わぁ!? ぎゃあああああ!!」


 また思わず声を上げたせいでモンスターが襲ってきた。

 独り言が多くて、しかもうるさいって言ってたのは誰だったっけ。

 人の忠告は聞いておくべきだな。

 まぁ、もう今更遅いけど。

 襲ってきたのは、よりによってオークハイファイターだった。

 再度一撃で粉砕死した俺は、二度目も死ぬほど苦しい思いをした。

 一回死んだ攻撃に強い耐性が付くってのは、どうやら幻想のようだ。

 とにかくもうオークとは会いたくない。

 そして可及的速やかに万能薬を手に入れなければ。

 そのためには動画配信だ。

 俺に残された可能性は、動画配信での投げゼニを視聴者に送ってもらうことくらいだから。

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初ダンジョンで死んだらアンデッド化したんだが~ブラック企業勤めよりマシな気がするけど、とりあえず不便なので人間に戻りたい~ 黄舞@9/5新作発売 @koubu

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