第3話

「うぉぉおおおお!! や、やったぁ!!」


 天井に向かって両手の拳を突き出し、雄叫びを上げていた。

 何回死んだか分からないが、モンスター初討伐!

 言葉で表現できないほどの達成感。

 まるで何週間も上手くいかず煮詰まった問題の解決が、ようやくできた時のような解放感に心が満ちていた。

 しかしその気持ちも、ふと見上げた目に映る、真っ白な骨しかない両腕を見て、落ち着いていく。


「まぁ……とりあえずだな」


 死んではその場で蘇り、キラースライムに襲われて死ぬ。

 まるでバグのような出来事だったが、何とか対処できた。

 これでようやく落ち着いて現状の把握ができるってわけだ。

 まずは見た目。

 俺の体は見える範囲で至る所が真っ白な骨。

 触っても骨だが、最初に理解した通り不思議なことに五感はきちんとある。

 試しに拳同士をできるだけ強く打ちつけてみた。

 結構な衝撃音と共に、ぶつかったあたりにじんわりと痛みが生じた。

 冷たいとか暑いとかに感覚もあるんだろうか。

 今度機会があったら調べてみよう。

 次はなぜこうなったか。


「まぁ……コレだよなぁ」


 左手の薬指に嵌ったドクロの指輪を見る。

 拾った時はそんなことなどなかったはずなのに、相変わらず煌々と紅い光を宿したドクロの目と視線が合う。

 まだ肉が付いていた時にぴったりのサイズだったが、骨だけになった今もぴったりのサイズで、指の関節を通りそうもない。

 俗にいう呪いのアイテムってやつだと思うが、解呪に必要な方法は呪いの数だけあって、万能なものはないってのが定説だ。

 最悪一生このまま。

 死なないんだから一生っていっていいのか分からないが。

 もしかしたら突然明日動かなくなるかもしれないし、それこそ永遠と生き続けるのかもしれない。

 そう思った瞬間、悪寒が走る。


「あー。今何時なんだ。ダンジョン内だと時間分からないし、もう日付変わってるとかないよな? 半休とったせいで明日やらなきゃいけなかった仕事が山ほど溜まってるのに……」


 口に出してるうち、自分で馬鹿みたいなことを言ってることにようやく気付いた。

 自分の身体が骨だけになったのに、仕事の心配って。

 社畜根性もここまでくればむしろ清々しいか?

 やーめた。

 どうせこんな姿じゃあ、ダンジョンの外でまともな生活どころか、見つかった瞬間に討伐対象だ。

 ダンジョンの外で死んだらどうなるか分からないが、そのままぽっくり逝ってしまうかもしれないし、仮に死ななかったとしても、永遠に拘束されるとか、変な研究に使われるとか、どう考えてもろくなことにならん。

 ということで! 本日をもって、くすのきはじめは退職させていただきます!

 退職届を出さないままの無断欠勤による懲戒解雇だろうが、知ったこっちゃない。

 それに、いつも「お前ひとり辞めても会社は別に困らん。辞めたかったら好きに辞めろ。ただ、お前みたいなやつを雇ってくれる会社がうち以外にあるとは思えんがな」って言われてたし。

 どうせ退職届受理されたとしてももらえる退職金なんてあるのかどうかも分からないしな。


「ひとまず今は、現状確認だな」


 端末は俺の肉と一緒に溶けてしまったようで見当たらない。

 なんとなく実物派だったので愛用していたんだが、無くなったものは仕方ないな。

 ということでの方にアクセスを試みる。

 起動した!!

 正直、眼球すらなくなったみたいだから、動くかどうか不安だったんだが、脳波によるオンラインシステムへのアクセスはまだ可能なようだ。

 脳……あるのかな……?

 流石に頭蓋骨を割って中を確かめるわけにはいかないから、真相は分からない。

 いずれにしろダンジョン内のシステムが使えるなら色々分かりそうだ。


「それにしても、ほんとにダンジョンって便利だよなぁ。いや、ダンジョンの外がクソすぎるだけか?」


 今でこそ普通にどこにでもあるダンジョン。

 驚くことにひと昔前は無かったらしい。

 物心ついた時には有るものだったから、正直信じがたいが、まぁそんなもんなんだろう。

 とにかくダンジョン内はダンジョンの外と違いがありすぎて、全部理解している人は学者の中でもいないって話だ。

 正直なところ、実際にダンジョン内に潜っている探索者たちの方が、外で偉そうに講釈垂れてる学者よりもずっと詳しいって噂もあるが。

 初めは利権を求めて情報を秘密にする探索者が多かったが、結局集合知の重要性が勝って広がっていったらしい。

 今では探索者が動画配信して誰でもダンジョン内の情報を簡単に得ることができるし、検証板や考察板みたいなオンライン上のスレッドも豊富。

 ということで、自分の状況を把握するべく、質問板に書き込んでみることにした。

 今までは端末を使って物理的に打ち込んでいたので、脳波で直接書き込むのにちょっと手間取ったが、なんとかできた。


【質問は】ダンジョン質問板9323【分かりやすく簡潔に】


543:名前:名無しさん

ちょと質問なんだが、ダンジョン内で死んだのに死に戻りできずにその場で目を覚ますって現象ある?


544:名前:名無しさん

>>543

は? それ死んでないぞ。気を失っただけ。


545:名前:名無しさん

死んだのは間違いない。しかも複数回なので勘違いでもない。

死に戻りせずにその場で目を覚ますって現象に心当たりある人いない?


546:名前:名無しさん

ねぇよ


547:名前:名無しさん

まぁ、待て。状況詳しく。話はそれからだ。


548:名前:名無しさん

>>547

>>543は完全釣りだろ。構うだけ時間の無駄。

はー。最近ろくな質問でねぇな、ここ。


549:名前:名無しさん

身バレが怖いので詳しくは言えないが、状況的に見て、装備したアイテムが原因かもしれない。

まだ鑑定スキルを持ってないので効果は分からない。


550:名前:名無しさん

はい、エアプ乙。鑑定スキル持ってない探索者なんているわけねぇだろ。

モンスター一匹でも倒したらとりあえず取るスキルなんだから。

釣り確定。解散ー


 あ! そうだ。

 ダンジョン入った時は持ってなかったが、さっきキラースライムを倒したからスキルを得られるはずだ!

 質問板から意識を変え、スキルマップを開く。

 あった!

 淡く光って見える【鑑定】を選択し念じる。

 光が強くなり、感覚的にスキル【鑑定】が使えるようになったのが分かった。

 流石上級者向けのダンジョンに出てくるモンスターを倒しただけあって、スキルマップ内のスキルはまだほとんどが淡く光って見える。

 とりあえず、何が必要か分からないから、他のスキルは後回しだ。


「鑑定!」


 別にスキル名は口に出す必要はないらしいが、雰囲気というか、せっかく使えるようになったスキルなんだから口にしたいというか。

 とにかく【鑑定】を左手のドクロの指輪に使ってみた。


【鑑定結果】

 名称:????

 種別:指輪

 性能:????

 効果:????


 つ、使えねぇ……

 覚えたてのスキルレベルじゃダメか。

 スキルマップの【鑑定】の後に新しく【鑑定lv2】というスキルが現れ淡く光っている。

 とりあえず中途半端な情報は無駄どころが逆に害だ。

 取れるところまで取るか。

 次々と現れるスキルツリーを追って、結果【鑑定lv4】まで習得することができた。

 【鑑定】のスキルレベルの最大がいくつだったか思い出せないが、それでもさっきよりマシな情報が得られるはずだ。


【鑑定結果】

 名称:魂の揺籠

 種別:指輪

 性能:+0

 効果:魂の揺籠

    ????【3】


 くそーっ!!

 全然情報が増えてねぇ!

 名称が分かったから、質問板に聞いてみるか?

 性能は予想通りだが、効果が名称と一緒ってなんだよ!

 内容が抽象的すぎて理解できねぇ。

 他にも現状鑑定できない効果があるらしい。

 確か後の数字は不明な数だよな。

 あと三個効果があるらしいか分からん。

 うーん。


「あ。そうだ」


 俺は【鑑定】を使ってみた。


【鑑定結果】

 名称:楠始

 状態異常:アンデッド

 加護:無し


 状態異常:アンデッド……?

 今の状況って状態異常なのか……なら、解除できるんじゃない!?

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