第17話「南の守旧派」「伝統的価値観」について

 このエッセイは鷲生の中華ファンタジー「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」の「あとがき」です。


 拙作のURLはコチラです→https://kakuyomu.jp/works/16817330658675837815


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 話が前後しますが、前々回から今回までの「気位高き南の王朝」では、蘇王が前王朝の血をひいているがゆえにプライドが高いという設定が出て参ります。


 これは、ざーっくり南北朝以来の中国史を、本当にざっくりモデルにしております。


 秦の始皇帝、漢王朝、三国時代から魏、魏から晋の再統一。そしてそこから北方の遊牧民族が入り込み、晋が滅亡して五胡十六国時代。

 そして晋王朝の一族が南に落ち延びて建康(南京)に王朝を立てます。

 華北は北魏に再統一され、東西の分裂を経て隋、唐へとつながっていきます。


 華北に残った貴族もいたかと思いますが、多くの貴族が南に移り貴族文化が栄えます。


 ↑いろんな概説書に載っている内容ですが、中国史をざっと把握するのに岡本隆司さん監修の『一冊でわかる中国史』が読みやすかったです。世界史やってる子どもにも買い与えましたよw


 拙作でもいにしえの王朝・前王朝が一度滅び、その一族が南に落ち延びて蘇王となっています。

 このいにしえの王朝・前王朝イメージのとしては漢とか晋とかですね。


 そして貴族が洗練された文化を築き、そして北方の政権を古来の正統な王朝ではないと小馬鹿にしています。それは北に残った貴族も同じです。


 彼らの持っている価値観・社会観は、は檀上寛さんの『天下と天朝の中国史』の「第3章 北の天下、南の天下――漢・魏晋南北朝①」の記述を参考にしました。


「晋が滅ぶと(中略)江南の建康にいた琅邪王司馬睿が当地で即位し、晋を再興した」(47頁)

「再興後の晋を統一時代の晋を区別して東晋と呼ぶ。東晋はその後、四百二十年に宋に交替するまで、百年ほど江南地域を支配する。また宋以後、斉、梁、陳と漢族王朝が続いたため、伝統的な中華文化はこう何で継承された」(48頁)


 そして項を改めて次のような記述があります。


「西晋滅亡後、華北の漢族にとっては衰えたりといえども江南の東晋が正統王朝であり、中華文化を共有した漢族としての矜持と優越感が彼らの心の支えであった」とあります(49頁)。


 鷲生は「絢爛たる世界帝国」であった唐の開放的な雰囲気が好きで拙作のモデルにしたので、気位の高い南の守旧派は今回のお話では悪役(ヒール)ですw


 拙作で「伝統的価値観」としているのは、大雑把に儒教道徳や華夷意識です。


 史実の儒教がどうであるかというよりも……。

 現代社会を生きる鷲生が書いている歴史ファンタジー小説の中での架空世界では、差別意識や傲慢・独善を支えるイデオロギーという役割を担ってもらっています。

 史実の儒教には良い面もあるのかもしれませんが、あくまで鷲生の架空世界ではこういう役回りに設定しているだけですので、あまりつっこまないでくださいましw


 なお、女性にとっては儒教や伝統的価値観が抑圧的であったことは下記の2冊で取り上げられています。


『中国儒教社会に挑んだ女性たち』

 出版社のサイトから内容紹介を引用しておきます。

 ↓

「六世紀の中国で起きたジェンダー問題

 六世紀の中国で、ある一人の女性を襲った悲劇が、その法律の運用をめぐって論戦に火をつけた。当時の儒教社会における法律は女性たちをどのように扱ってきたのか。男尊女卑を建前とする儒教倫理に挑んだ女性たちの姿を文献史料から読み取っていく。」

( 大修館書店 https://www.taishukan.co.jp/book/b198053.html )


『大唐帝国の女性たち』については下記の記事で紹介しております。

 ↓

「女性が登場する作品なら一度は目を通したい『大唐帝国の女性たち』」

 https://kakuyomu.jp/works/16817139556995512679/episodes/16817330650830073187


 鷲生の拙作でもこのような価値観に白蘭が勇敢に立ち向かうお話です。

 どうか最後までご愛読くださいますよう。



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