第8話 女性が登場する作品なら一度は目を通したい『大唐帝国の女性たち』

中華ファンタジー・後宮モノを書くための資料をご紹介する、この連載。


少し間が空きました。

単に年末年始が落ち着かなかったのが主な原因ですが……。

歴史警察の方がご訪問されて困惑することが重なり、ちょっとこの連載を書くのが億劫になってしまったのもありまして。


表題に明示しておりますように、本連載はあくまで「ファンタジー」を書くのに参考になるような本を取り上げていくものです。


ご紹介する書籍については、出版年をはじめとする書誌情報を記載しております。

私がここで改めて述べなくても皆さんそうなさると思いますが、私の紹介で興味を覚えた本がありましたら、その本を(まずは図書館などで)手に取り、それに加えて、ネット(Wikipediaとか)などで学説史の変遷など適宜チェックなさってくださいませ。

(別に歴史学の論文でも歴史・時代小説でもなく、ファンタジー作品を書くのであれば、この辺の裁量は書き手に大きくゆだねられているのではないかと私は思いますが……)。


さて。


今回ご紹介するのは、『大唐帝国の女性たち』(1999 高世瑜著 , 小林一美 , 任明訳  岩波書店 https://www.iwanami.co.jp/book/b261493.html )です。


日本での刊行は1999年ですが、著書による結語には1987年に書かれたと記載されています。

出版社はアノ岩波なので、ちゃんとした本だと思いますよ。


三つの章に分かれていますが、メインは第二章と第三章で、「唐」時代を生きる女性について網羅的に紹介しようとする本です。


第一章「唐代の女性をめぐる社会状況」は、中国史の最初にして最後の女帝・武則天を冒頭で取り上げ、このような女傑を生み出した唐の時代の空気について述べたものです。


直接に史資料となるような内容ではあまりありませんが、20頁ほどですし、皆さまも目を通すことはおありでしょう。

唐の時代は後世に比べて封建的な道徳的縛りがそれほど厳格ではなく、北方民族由来の王朝であり国際交流が盛んだったことで、女性がとても活き活きと振る舞っていたという筆者の指摘が述べられています。


このような唐の社会についての筆者の記述に、私はぐっと心惹かれました。おそらく、私が書く予定の中華ファンタジーは唐代をモデルにすることになるんじゃないかなと思います。女性キャラを自由に動かせそうですしね。


2023年現在人気のある中華ファンタジー・後宮モノも、唐代をモデルにしたものが多いのではないでしょうか。

既にお手元にお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。

白河紺子さんの「後宮の烏」は唐がモデルだと指摘しているネット記事をみかけたことありますし、白洲梓さんの「威風堂々惡女」も、(少なくとも序盤は)武則天をイメージしているのだろうと思います。


第二章は唐の女性の様々な社会階層が紹介されています。

目次から各節を挙げておきます。


「第二章 唐代女性の各階層の状況」

第一節 后妃と宮人 / 第二節 公主及び郡主、県主 / 第三節 貴族、高官の家の婦女 / 第四節 平民労働階級の女性 / 第五節 商家の女性 /  第六節 妓優 / 第七節 姫妾、家妓 / 第八節 奴婢 /  第九節 女尼、女冠、女巫 

(21頁~189頁)


後宮モノであれば、貴族のお姫様が後宮に入って事件を解決したり寵愛争いをしたりすることも多いと思いますが、后妃や貴族階級の女性についてはもちろん、お側仕えのキャラを設定するのに平民労働階級や商家の暮らしについても押さえておくといいのではないでしょうか。


もっと階層の移動が激しい設定、たとえば奴婢から皇后にのぼりつめるとか、あるいは寵愛争いに負けて零落してしまって出家して尼さんになるとかなどの設定をストーリに盛り込むと、より一層ドラマティックな展開になることでしょう。


人間はどうしても自分の手元にある知識や情報からしかイメージを膨らませられないところがあると思います。後半の妓優や、奴婢、女冠、女巫など、普通に現代日本で過ごしているとちょっと想像しづらい人々です。この本をとっかかりに調べて見ると、登場させるキャラの幅が広がると思います。


ただ、仕方のないことですが、この本は広く浅くいろんな唐の女性を取り上げているので、個々の事項については残念ながら情報量が豊かではない面もあります。

人名や固有名詞が出てきたら、それをキーワードにして別途調べていく必要があるかもしれません。


第三章は「唐代女性の功績と生活」とあります。つまりは、様々な活動領域や生活シーンということです。


これも目次から各節を列挙しておきます。


第一節 女性と文学 / 第二節 女性と芸術 / 第三節 女性と政治 / 第四節 女性と技術、学術、及び宗教 / 第五節 女性の体育、娯楽活動 / 第六節 女性の社交と結社 / 第七節 女性教育とその著述 / 第八節 愛情、結婚及び貞操観 / 第九節 人倫・道徳と家庭生活 / 第十節 化粧と美意識 / 第十一節 女性の不幸と唐人の女性観(193頁~361頁)


漢詩文が残っているので、第一節の女性と文学についてはページ数も多いですが、史資料が残っていないテーマについてはページは少なめです。

それでも「へえ、そうなんだ!」と知見が広がる内容ですよ! 


あと、女性を中心にさまざまな場面を説明してくれるので、女性の身の回りに登場しそうな道具やその他の事物を当時の中国語でどう表現していたかが分かって助かります。


化粧は「妝」という漢字で表されるようです(「ショウヘンに女」で検索すると出てきます)。ブランコは「鞦韆」で、宮女たちが楽しんでいたようです。可愛がっていたペットとしては、猧児(狆)、鸚鵡(オウム)、蟋蟀(コオロギ)などが挙がっています。


ファンタジー小説に漢字が多いと敬遠されてしまう面もありますが、やっぱり中華ファンタジーや和風ファンタジーにはある程度、難しげな漢字・字面がソレっぽい漢字がないと雰囲気出ませんよねw


この『大唐帝国の女性たち』。手元にあると何かと助かる書籍ではあるんですが……。

残念ながら、気軽に手に入りそうにありません。


元々定価も3600円とややお高めでしたが(それでも学術書ですからこんなもんだと思いますが)、今は中古本が某ネット書店で1万2000円以上してしまっています。


たいていの図書館にあると思いますので、まずは借りてご一読なさるのがいいと思います。


そして、ご自身の創作に使えそうな項目をメモするか、著作権にひっかからない範囲でコピーするといいんじゃないでしょうか……。


とまあ、所有するのにはハードルが高いですが、唐の女性のことならなんでもござれの幅広い内容の本です。

中華ファンタジー、中華後宮モノを書くのに一読されてソンはありませんよ!



※(最後に)

冒頭に述べましたように、ファンタジーは必ずしも史実に縛られる必要はなく、自由に空想の世界を広げられるのが良い所だと思います。

拙文に関しても、どうか寛容にお目こぼしいただければ幸いです。


なにせ、私が書いてた平安ファンタジー活劇に白人の血を引くキャラを登場させたところ、大真面目に「日本の平安時代にはまだ白人は到来していません」とコメントなさるほど厳格な方もいらっしゃいますので……(奈良時代にペルシャ人が来たらしいという木簡はあるんですけどね)。

あくまでファンタジーとしてお楽しみいただければと思います。

(あ、ちなみにその平安ファンタジー活劇はコチラです↓)

「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393



*****

2024年1月12日追記

スミマセン、下記の中華ファンタジーは現在非公開です。夏頃再公開すると思いますのでその時にぜひお越しくださいませ。

2024年は平安ファンタジー「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」で参加中です!https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393

2023年7月14日追記

中華ファンタジー「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」の投稿を始めました!

是非お越し下さいませ!

「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」https://kakuyomu.jp/works/16817330658675837815


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