第16話 「胥吏」について

 このエッセイは鷲生の中華ファンタジー「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」の「あとがき」です。


 拙作のURLはコチラです→https://kakuyomu.jp/works/16817330658675837815


 *****


 今回、「胥吏」という言葉が登場します。


 鷲生は、下級役人のことを「胥吏」と呼ぶという程度のざっくり知識で用いております。

 拙作でも下級の官人、そして実務を担う存在だったという設定です。


 Wikipedia「胥吏」から関係しそうなところを引用しておきます。


「胥吏(しょり)とは、旧体制下の中国や朝鮮において、庶民でありながらも役人の仕事をする者を規定した用語である。正規の高等官僚としての官人と対応し、両者を併せ、「官人」の「官」と「胥吏」の「吏」で官吏と呼ばれる。」


「用語としての初出は、南北朝時代後半に相当する梁の時代である。隋代に盛んに任用されるようになり、唐では流外官とも呼ばれた。宋代になって、科挙制度が確立するのと表裏一体をなすように、胥吏も法制上、明文化されて、清朝まで存続する。」


「その任用は、中央では政府の各部局、地方では地方の官庁に任命された官人が、民間の希望者を募集することによって行なわれる。身分は、当然、庶民のままであり、徭役に徴用されるのと同様の扱いである。よって、胥吏に俸禄は存在せず、必要経費的な名目で若干支給させる程度である。」


 鷲生の拙作「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」では、思弁的な官僚と実務を回す胥吏と対比するような形で想定しております。


 山川出版社の世界史リブレット『科挙と官僚制』という本があります(少し古い本ですが……)。

 宋代についてのお話ですが、実務を担っていたの誰かという点が22頁からの「伝統中国社会が求めた人材――実務か徳行か」で述べられています。


「現代の官吏登用の基準は、一般に法律・経済といった専門知識である。一方、宋代以後においては、いまみてきたように専門知識ではなく、教義に代表される儒教的価値観を身に着けることが官僚となるための条件であった」


「唐代から宋代に移行する時代は『府兵制』から『募兵制』に転換し一〇〇万とも言われた常備軍を維持する巨大な軍事財政国家へと変貌する時代である」


「そして、この時期は商品経済の発展を受け、また巨大な軍事費の維持のため、従来の田租収入から、塩・茶・酒などの専売収益、あるいは商品流通にともなう商税収入に財政の重点を移す時期であり、財政上の実務行政は以前と比べ非常に煩雑となっていた」


「こうした軍事的・財政的変化に対応するには、高度な専門知識を備えた行政担当者が必要となってくる。そして、この状況は専門知識を持った専門官僚を誕生させる可能性をもっていたが、実際には、胥吏と呼ばれる実務担当者を生み出すこととなった」


「この胥吏の出現は、道徳心に基づいた政治判断をおこなうのが官僚であり、こまごまとして専門知識を必要とする専門知識を必要とする実務は処理が行うものという、政治と実務との分離構造をもたらすこととなった」


 拙作は「唐代」をモデルとしておりますが、史実の唐より経済が発展してる感じで設定しております。


 また、唐代では宋の時代ほど科挙の制度が整っていたわけではありませんが、拙作の「董」では、史実の後の世代でそうであったように、エリートは「こまごました事務なんか下賤な者がやっておればいい」「我々はもっと高みから天国家を論じるのだ」というと考えているという設定です。


 実務から遊離した高尚な分野に通じていることが彼らのプライドの基にあり、それが実務家上がりの銀蝉を蔑む理由となります。


「胥吏から高級官僚、宰相に上り詰めることなんてあり得るか?」という点については、拙作がファンタジー小説だからということでお見逃し下さいませw


 ただ、史実の中国史でも氏素性の分からない人物が成りあがっていたりしますし、まあこの設定もありかなと思っています。


 *****


 銀蝉の地位が高くなることを喜ばなかった勢力がいたことで、物語が進んでいきます。

 どうか最後までご愛読くださいますよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る