出会い
少しして、ツァリアスの傍にきたドーソンが船と呼ぶ輸送航空機は小さなものだった。カイルが乗っていた降下作戦の輸送航空機よりはるかに小さく、民間で都市間輸送によく使われるような輸送機に比べてもさらに小さい機体の船だった。
「商会をしていると言うには小さい船だ。よく見る運搬船よりもかなり小さい。」
「はは、確かにな。だが、これぐらいのサイズじゃぁねぇと此処らじゃぁ目立っていい的になるんだよ。俺の経験ではこういう前線じゃこれでギリギリのサイズだ。それに船体がでけぇとただでさえ高ぇ通行料がさらに足元見られやすくなる。」
「前線での稼ぎってのはこう、手返しよくやんねぇとな。」小さいと言われたドーソンはそこが大事で商売の肝なんだとばかりに自慢げに話す。
着陸したドーソンの船から男と女が降りてくる。
「大将。こちらさんがそのツァリアスの操縦者さんで?」その男は警戒するようなまなざしでカイルを見る。そのドーソンの仲間の男は短い髪をして背が高く、青が色あせたつなぎを着ていて、つなぎは幾重にも積み重なった泥やオイルの種々雑多な汚れの染みで飾られていた。年のころは若い。カイルと同じくらいだろうか。
「あぁ、
「なるほど。こちらの旦那ぁ…カイルさんって言ったか、―こりゃかなりの
「そっちの手指も良い整備士の良い手だ。」カイルも同じくマチャックの手や指にある道具タコから整備士としての経験と年季を強く感じ取った。
「はは、よろしくな。カイル。」握手だけで自分の力量を受け取ったカイルを、マチャックは気に入り、カイルの肩に手を廻し叩いてくる。
「で、こっちは通信と運航をやってるメリオンだ。」続いてドーソンが紹介したのは動きやすさを重視したパンツルックを着た快活そうな少女だった。メリオンと紹介された肩にかかるか掛からないかくらいの髪をした少女は恐る恐るか、ゆっくりとカイルに向かって手を出してくる。カイルはその手を優しく受け取った。
「メリオンです。よろしく。」視線をカイルの顔からそらしたまま、見た目とは裏腹のか細い声でメリオンという彼女はそう自己紹介をする。
「カイルだ。よろしく頼む。」カイルも優しく答えて返した。メリオンはここにきてようやくとカイルの顔を見て笑みを浮かべた。
「なぁにしおらしくしてんだぁ、この暴力女が。あぁ、寒気がする寒気。寒気。」メリオンのナヨっとしたふるまいにマチャックは両手で体をこすり、身を振って拒絶反応を見せる。そのマチャックの茶化しにメリオンは目つきを一転鋭くして一つため息を吐き
「ちょっとぉ、マチャック。こういうのは第一印象が大事なんだけど?」メリオンはじろりとマチャックをにらみつける。
「どうせそんな取って付けた薄っぺらいケチ塗膜の化けの皮なんてすぐにはがれるんだから最初っから素の中身の分厚い要塞みてぇな重装甲をさらしとけ素を。そっちの方がいいんだからよぉ、お前は。」睨まれたマチャックはさらに彼女をいじる。
「なんですってぇ!?」マチャックの言い方にメリオンは眉を吊り上げ怒りに任せて無意識にカイルの手を強く握りこむ。
「ほらもうはがれてんじゃねぇか。」メリオンとマチャックは出会ったばかりのカイルを前にしてギャンギャンと口喧嘩を始める。
「まぁ、見てのとおり騒がしい奴らだが二人ともそれぞれの腕は確かだ。信用していい。」いつもの事なのだろう、ドーソンはその犬の喧嘩のような二人の諍いを平然と眺めていた。
「あったばかりだ。それに日ももう沈んでる。まずは話がてら飯にしよう。カイル。お前さんもまだだろ?」ドーソンは親睦を深めることが先決であろうと考えた。
「あぁ。」
「その前にそのツァリアスを格納庫に納めようぜ。このままじゃ目立って仕方ねぇ。」マチャックは指でクイッとカイルのツァリアスを指さす。
「確かになぁ。まかり間違って見つかるとまずい。とっととやってくれ。」ドーソンは頷き、船の格納庫を開けに行く
「あいよ。カイル。乗ってくれ。」
マチャックの誘導でカイルはツァリアスをドーソンの輸送機内に納める。
スロープを上がるツァリアスのモニターに映るドーソンの船の格納庫は空荷の状態であれば無理やりおしこめばツァリアスが何とか2機は入るかなというくらいの広さだった。今は商材なのだろう獣兵のパーツやコンテナがそこここに積んでさらに狭くはあるが、それでも格納庫はカイルのツァリアスを楽に飲み込める程度のスペースはまだ十分にあった。
マチャックの停止の合図に合わせて機体を留めカイルはツァリアスを駐機体勢にして火を落とし、操縦席から出る。
ツァリアスの胸の上から改めて己が目でぐるりと見渡し、見下ろして眺める格納庫。そこに積み上げられているパーツの中にはサーデュラスの脚やツァリアスの脚。ヴァスキスの機銃や脚など陣営問わず種々様々な物が積んである。
「
「あぁ、ドーソンの大事な商材にして俺のおもちゃだよ。
「ジームダルのもアラキバマのもあるがマチャックはどちらも扱えるのか?」カイルはツァリアスをマチャックがいる側とは逆に降りてその脚を固縛しながらさらに尋ねる。
「ジームダルが使ってる奴の方が扱い慣れちゃいるが、アラキバマの奴もそれなりにな。それら以外のとこのもそこそこ。どうせ全部同じ
「輸送機から緊急降下した上に、その後に二度ほど交戦しているからな。」カイルは傷んでいて当然であると思っていた。
「いやぁそれにしちゃ……」マチャックは両の眼を整備士の、仕事の目つきに変えてツァリアスの脚部に潜りあちこちを触り眺める。
「マチャぁック!。それをする前にまずは飯だ。おめぇ、それ始めるとそればっかずっとやっちまうだろ。後だ後!」ドーソンはマチャックの悪い癖が始まる前に彼を静止し、カイルを格納庫の前室を抜けた先にある部屋につれていく。
「ここは食堂というかダイニングというかまぁ集まってなんかする。そういう場所だ。ちょっとここにいてくれ。」そう言ってドーソンはカイルを残してまた先の方の戸口をくぐっていった。
「さぁて、飯だ飯。」
マチャックが洗浄した手を拭きながら格納庫から部屋に入ってきた。彼は部屋の隅にまとめてある机と椅子の方へといく。夕餉の準備をするのだろうとカイルは机をマチャックの反対側へと回り込み縁に手をかける。
「お、サンキュー。」マチャックの動くのに合わせて部屋の中ほどまで机を運ぶ。
「マチャック。ドーソンやメリオンとの付き合いは長いのか?」阿吽の呼吸で動いているドーソンとマチャック、メリオンの三人の姿を見てカイルは思ったことを尋ねた。
「あー。まぁそこそこあるな。俺ら、拾われだからよ。ドーソンに」マチャックは重ねてある椅子を抱えながら答えた。
「そうか。」
「カイル。あんたも、傭兵は長いのかい?」椅子を出しながらマチャックが尋ね返す。
「ああ。俺はこれ以外生きる術という物を知らないからな。」カイルはそれを受けとって並べる。
続けてマチャックは酒のボトルをテーブルに置こうとするが
「マチャック。今日はそいつはダメだ。今日は飯の後からカイルのツァリアスの整備があるだろう。残念だがそいつをやるのは全部終わった後だ。」戻って来たドーソンがそれを見とがめる。
「おっとぉ。いけねぇ。いつもの癖で。」マチャックはドーソンに言われて酒をすぐにかたして代わりになる飲み物のボトルをテーブルに置いた。
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アンテロスメイア戦録 惑星ダキン 作久 @sakuhisa
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