第3話 神の業を持つ者達


、と呼ばれる物がある。


アド・アラリスの遺物の中でも最上級の価値を持つそれについて説明するにはまず、嘗ての所有者達であった、について話すところから始めなければならない。




彼らの名は、『百十二鬼神』。



アド・アラリス最高の戦力にして、絶対の守り手と評された近衛部隊。


名前の通り112人の兵士で構成される部隊であり、彼らを構成していたのは全てが鬼人族や魔人族などの亜人種の中でも高位に位置する種族の戦士だった。


中には神との混血種である神人族までいたとも噂されている。


古今東西、あらゆる戦に於いて絶対の不敗を誇り、アド・アラリス墜落までの数千年の歴史の間、次の世代への代替わりによる引退はありつつも戦場で戦死者を出したことは一度たりとも無い。


絶対的な力の象徴、それが彼ら百十二鬼神である。




百十二鬼神の兵士達にはそれぞれ専用の武器が作られており、武器ごとに異なる能力、用途を有していると言う。


そんな神具の力の源は、宿神やどりがみと呼ばれる武器の中に封じ込められた神々である。


神具を持ち、そしてその力を行使できるのは魔術師の中でも最高位に位置する者のみ。


でなければ、宿神と使用者をする事ができないからだ。


その事実が、目の前にいる鎖使いの実力の高さを証明していた。


「ぐうゥッ……!!」


「まずは、そのナマクラをへし折る!!」


彼が鎖を振るう度、砲丸と見紛う程の速度で鉄塊がロセームに襲い掛かる。


それを躱す術は無く、ただ長剣の刀身で受ける事しかできない。


だがまともにあの速度の鉄塊を身に受ければ自身は即座に吹き飛ばされるだろう。


防御を最優先に、彼は三つ続けて唱える。


――術技、『タサーマ・ニル神戒手甲


――体技、『アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身


――心技、『カサラナ・トゥ鮮血魔転



自分の体の耐久力と筋力が大幅に増強されると共に、左手の甲を中心として光の盾が現れる。


そして彼はその強化された体と光の盾を使って、飛んできた鉄塊を全力で殴り飛ばした。


地を震わす程の衝撃と共に攻撃を受けた左手が軋む感覚が脳を走る。


低い呻き声を上げながら彼は衝撃によって数m後退しつつも、肉体は無事であった。


しかし、彼は強い目眩と倦怠感を覚え地に手を付いてしまう。


カサラナ・トゥ鮮血魔転……連続発動の為に自身の血液を魔素に変換したか。相当血を失ったと見える、常人なら立つ事すら儘ならんであろう」


鎖の男はちらりと後方に視線を移す。


「どうやら連れの鬼娘も傍観に徹するようだからな、苦労が減って助かるものだ」


「あんのヤロー……少しは手伝えってんだ…!」


シスカは彼らより少し離れた場所で腕を組み、戦いの様子を見ていた。


恐らく助けてはくれない。


雇われの身故、仕方無いとは思いつつも圧倒的不利な状況にロセームは舌打ちをする。


「全く…ここに来て早々神具持ちが相手とは遂に運も尽きたかね……」


「神具…それなら貴様も持っているではないか。背中に背負っているその剣をなぜ使わぬ?」


既にローブが脱げ、顕になった彼の背中を男は指さす。


そこには、厚手の布で包まれた剣のような物が括り付けられていた。


ロセームは一瞬背中に視線をやり、すぐに自分に何かを言い聞かせるように首を左右に振った。


そして、震える体に鞭打ちながら立ち上がりボロボロの長剣を再び構えた。


「なるほどな……まだと見える。確かにその状態ならばいくら神具とて頑丈なだけの鈍器も同然……!!」


男は息も絶え絶えのロセームに止めを刺そうと、鎖を思い切り振り上げ彼の頭頂向けて鉄塊を振り下ろす。


しかし彼の頭が砕かれる事は無く、依然としてそこには直立するロセームの姿があった。


「……何?」


降ってきた二つの鉄塊を素手で止めた彼は、耳を澄ますと何かを呟いていることが分かった。


口の動きで何を呟いているのかを確かめた男は、初めて戦慄を覚えその場から慌てて飛び退く。


「…………アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身アンヴィロ・ルヌ鬼体纏身……!」


魔術とは、同じ効果を重ね掛けする事ができる。


重ね掛けした分だけその魔術の効果は強まるが、基本的に魔素の使用効率が著しく低下する為そのような事をする魔術師は殆どいない。


目の前にいる彼を除いて。


――術技、『ラカラ・ペタギア六天瞬歩


それを唱えた瞬間男の視界から突如大爆発と共に彼は姿を消し、直後、男の腹に飛び膝蹴りを食らわせていた。


「げおォォっ……!?」


突然の人間離れした威力の飛び膝蹴りを食らった男は、内臓が破裂したのか血の混じった吐瀉物をまき散らしながらロセームと共に数十m程吹っ飛んだ。


ぐるぐると回転する視界の中にシスカの姿を見た男は何が起きたかを察する。


彼女がロセームに対して魔素を分け与えたのだ。


「全く、少しは楽できるかと思ったがまさか神具持ちが出てくるとはな……朕の助力に感謝せよ」


「最初からやれ!!!」


ロセームはそう怒鳴りながら尚も飛翔する男を真上に蹴り、打ち上げた。


「そんなに神具が見たけりゃあ!!コイツでブン殴ってやるよッ!!」


自身も跳躍し、男の真上に到達すると背中に携えていたそれから布を取り払い、思い切り振り下ろした。


重ね掛けされた筋力増強が齎したのは砲弾のように地面に叩き付けられる男とそれによって撒き上げられる粉塵だった。


大爆発と共に男の体は毬のように地面を跳ねる。


そこから一切の隙を晒さず、ロセームは間髪入れずに連撃を叩きこむ。


腹に、胸に、手足に、頭に。


切れ味の無いそのナマクラを鈍器のように古い一発一発を全力で食らわせていった。


8重に重ね掛けされたアンヴィロ・ルヌの威力は彼に防御の機会を許さず、更に攻撃の勢いは増していく。


「ドォッッシャアアアアアアアアッッ!!!!」


「ガブゥウウッッ!!!」


最後の一撃は顔面へと放たれ、顔のひしゃげた男が地面に叩き付けられ動かなくなった。


粉塵が漸く晴れ、シスカが様子を伺いに近づくとロセームは貧血と体力の酷使で既に気を失っていた。




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アド・アラリス/魅惑の墓標 COTOKITI @COTOKITI

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