第2話 神の業
数時間程の時間を経て森を出てそこから更に歩いて半日、夜が既に明けた頃そこで漸く目的地は見えてきた。
「情報通りだな。それにまだ手付かずみたいだ」
「ならばさっさと漁ってしまおう。面倒事は御免だ」
ロセーム達が目指していたのは15年前にアド・アラリスが墜落した際に大陸中に飛散した残骸の中の一部である。
残骸と言ってもそのサイズは小規模の村落に匹敵するが。
「よし、始めるぞ。俺は北側から探すからシスカは南側から頼む」
「やれやれ……臣下と職を共にするのも朕の務めかの」
二人は懐から手の平サイズの円柱上の道具を手に取った。
それはアド・アラリスの残骸の中から遺物を見つける為に用いる魔素探知機である。
遺物は基本的に魔素を動力源として動いている為、この探知機を使う事で残留している僅かな魔素から遺物の位置をだいたい把握できるのだ。
高濃度の魔素を探知すると、先端の発光部の光が強まっていくようになっている。
「まずはここら辺から行くか」
北側にある一際大きな瓦礫の山を見つけ、探知機片手に掘り起こし始める。
瓦礫の中には遺物以外にも家具やら調理器具やら何やら、と生活感の感じる物もあれば刀剣や槍と言った武器の残骸も幾つか埋もれていた。
「アド・アラリス防衛隊が使ってた剣の刃の部分だな。この装飾は…多分千人長クラスの階級の奴が使ってたか。歴史資料として売れるかもしれんな」
遺物以外にもこういった珍しい物なんかも高く売れる時がある為持って帰る。
ある程度掘り返していると、探知機の光が少し強くなった。
この下に遺物がある事を示している。
「おっしゃ」
更に掘り返し、奥にある物を掴み引っ張り出す。
細長い筒のような物だった。
材質はガラスに似ていたが耐衝撃性はとても高く、瓦礫に一度ぶつけてしまったが割れる気配は無かった。
そしてこれは彼のよく知る遺物の一つ。
「永光器か、これで明かりには困らねえな」
アド・アラリス内の一般家庭に於いて照明器具の役割を果たしていたこの異物だが、使い道が平凡でやたら見つかる割には遺物なのでそれなりの値で売れる時もある。
「ここの反応はこれで最後か、次は――ん?」
次の場所を探そうと立ち上がると、自分のすぐ側まで人が接近していることに気付いた。
「おいアンタ、遺物漁りに来たんなら一足遅かったな。俺たちが帰ってから出直してこい」
「……」
侵入者は何も言わず、ただ右手の平をロセームに向ける。
彼は即座に魔術の行使を疑った。
「おい、まさか俺とここでやり合おうってのか?」
長剣の柄にを手を掛け、警戒する。
相手は身動ぎ一つせず、右手を向けたまま動かない。
何をする気だと睨み付けながら柄を握り鞘から抜こうとするロセーム。
そして、状況は突然動き出した。
自分の顔面に向けて放たれたそれを、ロセームは間一髪で顔を逸らし躱した。
最初はどこかから矢を放たれたのかと思ったが視線を隣にやり、それが鎖である事を知る。
先端に刀身を備えた鎖を放ったのは侵入者の右手だった。
右手の平がパックリとがま口のように開き、中から高速で鎖が射出された。
一発目を躱したロセームは長剣を抜き放ち、左手から放たれた二発目を刀身で弾き返す。
「高濃度の魔素の反応…質量を無視した武器の収納…!!てめェ遺物使いか!!」
「……良い反応だな。この技を初見で見切った奴は貴様で二人目だ」
その男は不敵に笑いながら右手から鎖を垂らし、高速で振り回し始める。
風切り音が周囲に響きわたり、巻き起こされた粉塵混じりの強風がロセームのローブをたなびかせる。
彼が両手に使用している遺物に関して、彼は覚えがあった。
別空間に繋がる門を開ける遺物、それは転石輪と呼ばれる。
しかし転石輪自体に中から物体を高速で射出するような機能は無い。
その事から別の加速系の魔術で放っているということが分かった。
「悪いが、今の俺を殺したって金目の物はなんもねえぞ!!」
「構わんさ、
両手に握られていた鎖の先に付いていた刃が、星球の柄頭のような刺々しい球体に変わった。
それは速度を増し、ロセームの頭を潰さんと二つとも同時に投げられた。
「貴様の死、のみだッ!!!」
「ふざっ…けろッッ!!!」
同時に放たれた二発を刀身で受け止めたロセームだったが、あまりの衝撃に足場を保てずその場から吹き飛ばされてしまう。
装技や体技、術技の類を使っていないにも関わらず明らかに、人の限界と武器単体の質量を無視した威力の投擲。
この鎖も、また遺物であるのかとロセームは歯噛みする。
「貴様、これがただの鉄塊であると思うか?……ましてや遺物ですらない、それら全てを超えた存在よッ!!!」
「まさか…!?てめェ!!!」
「我が神具、そしてこれに封じられし
両手の鎖を天に掲げ、男は叫ぶ。
「大悪を縛るは鉄鎖!!そしてその鉄鎖を司りしは天の懲罰の担い手よ!!」
――神具解名
――『
「神具使いかよッ!?」
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