心恵世界、本当の平和

見知らぬ場所。見知らぬ世界。ここが私がいた地球とは全くちがうことは簡単に理解できた。なにせ、目の前にそびえ立つ要塞と、その周りをぐるっと大きく囲う巨大な防壁。これは地球規模でもなく、どこか中世ヨーロッパのようである。しかし、中世ヨーロッパでこの大きさの要塞を作るのは無理では、と直感するのである。


次に、人である。防壁の門から門番に挨拶し、出てくる人々はほとんど空を飛んでいるのである。防壁の中では飛ばないようだが、外に出ると車、いや車よりも高速で全員が空を飛んでいる。そして空を飛ぶ人々の服装。女性は露出が多かったりやけにひらひらして、男性は魔術師かってなるようなローブだったり吸血鬼みたいなスーツだったり異世界漫画でありそうな服装である。


夢か、それともあの世だろうか。そうとしか考えられない。異世界転生…死ぬのに失敗し転生したか、そう思ったがそんな夢のような話はないだろう。ここが夢ならばあり得るかもしれないが。


意を決し、一歩を踏み出す。すると突然、強風が吹いた。いや、空気がいきなりの移動に驚いたとでも言おうか。そのような強風。私は一歩後ずさりしてしまった。目を開けるとそこには、二人の男女が立っていた。


まずは男の方。強風を起こしたのはこの人だろうか。かなり近い。黒と紫を基調とした、どこか警察官を思わせるような重い服装。強風が吹いたときには、彼のマントがクールになびいていた。深く帽子をかぶっており、紫色の短い髪、そして威圧するような美しいエメラルド色の瞳。


そして女の方。背丈は私よりかなり高いだろうが…170はなさそうだ。服装は男と違いかなり軽い服装。上下深い緑色で、かなり露出が多い。アニメにありがちなへそを露出するスタイルである。実際、恥を乗り越えればかなり動きやすそうだ。そんな体に対し、柔らかそうな頬に大きい瞳とかなり顔が幼い。


「急ですまないな。ただ…人間は信用できん。すこし動かないでくれ。」


と、私の首下に剣を近づけた。黒と金を基調とした非常にかっこいい剣だ。なにか闇の力でも秘めてそうなくらいどすぐろい。


「カシミアくん…流石にやりすぎじゃないかな…?」


女の子の方が心配そうに男…カシミアさんに話しかける。


「仕方がないだろう…人間と理外の両方の性質をあわせ持っている。これが下手に動けば理外と体が共鳴する可能性がある。特にここの気質はな…」


なにやらむずかしそうだ。私は…もしかしたら死ねてないのかもしれない。


「…よし、まぁ、いいだろう。地球出身なら、まあ大丈夫だ。俺らでは世界を繋ぐゲートは開けないし決断に長けているわけではない。一旦要塞へ来てもらう。安心しろ。間違いなくお前は家に帰られる。」


「…わかりました。」


反応しないのも悪いと思い、一言だけ反応。


そこから防壁の中に入り、要塞を目指す。その際に、私は様々な質問をした。カシミアさんはなにやら未知の言語で何かを書いていたため、女の子の方…守矢千春もりやちはるさんに質問をした。千春さんはフレンドリー気質で質問に笑顔で答えてくれた。質問を重ねるたび、彼女はどんどん楽しそうになっていた。


質問の内容をまとめて言うと、まず、結論から。私は死ねていなかった。しっかり元気に生きているそうだ。理由は、信じられないがいたって単純だった。私は不変という、いわば不老不死ににた、理から外れている理外の能力に開花してしまったらしい。そして、私がもといた地球は人間界第一世界と呼ばれる場所らしい。そして、今いるこの要塞の世界が心恵みけい世界半界という場所。簡潔にまとめると、私は運悪く不老不死になり、その勢いで異世界に飛ばされたようだ。


──正直私も状況を理解できていない。千春さんやカシミアさんはさも当然のように話をしているが、異世界など全く教養にない私からするとなにがなんだかちんぷんかんぷんである。


そんなことを話していたら、要塞のかなり上層にある生活圏、リビングについた。


「たっだいま~」


「俺は報告があるから先に失礼するよ。」


「はーい」


すこしすると、上から一人の女性がおりてきた。


「あ、みーちゃん!連れてきたよぉ~」


「お疲れ様。あとは私で色々とやっておくから千春はもう休んでいろ。」


「は~いっ」


と、すたすたと千春さんは去っていった。すると、みーちゃんと呼ばれた女性が真剣な表情で近づいてくる。金髪金眼の長身、千春さんよりすこし高いくらいで、髪はおろしている。一本一本がものすごくきれいで、見とれる。服装は白と金を基調とした神を象徴しましたといわんばかりの神々しい服装。上は長袖、下は半ズボンである。半ズボンの影響か、とても足が長く見える。そして、金眼のその顔はとても整っていて、不純物が一切ない、芸術のような美しく、どこかすこし幼い顔である。一体何人の人がこの顔に惚れてしまうのだろう。


数分、見つめ合う時間が続いた。私は美しい容姿に見とれ、相手は私の何かをまじまじと観察するような視線だった。


「なあ、君。」


ふと、彼女が口を開く。とても透き通っていて、クールかつかわいらしい声だ。


「ここで暮らすのと、うちに帰るの、どっちがいい?君の部屋なら、すぐに用意できるぞ。」


そんなものは、選択する時間なんて要らない。私が旅をした理由、それはあの場所にいたくなかった、そんな思いがあるのである。今私の家は赤い海のせいで大騒ぎだろうが…そんなのもう関係ない。


「ここで…暮らしたいです…。」


「…そうか…!」


と、みーちゃんから眩い光が放たれる。すると、3人に分裂していて、二人はどこかへ行ってしまった。


「それじゃ、お部屋案内するね!」

残った子は先程とは全くイメージがちがう子である。白い髪、ボブヘアに前髪は重め、とても大きい赤い目に、思わずさわりたくなるような頬、白装束のような上着に緑色の短いスカート。そして黒いハイソックス。背丈は小学校低学年くらいだろうか。さきほどとは全く印象が違い、可愛いの権化のような幼女だ。


そうして、案内されたのは、「つむぎちゃん」と書かれた部屋。中には生活に必要なセットが揃っていた。部屋をみた私は、おもむろに前へ進み、体を震わせながら部屋を見回した。なぜこんな行為に至ったかというと、私の過去に由来する。


私は今まで居場所がなかった。いままでずっと、空いたスペースにだましだまし入って生活するような毎日。なにもできないせいで家族からも冷たくされ、地球には居場所がなかった。そのため、このようなしっかりとした私の居場所が本当に嬉しかったのである。


「そんなに満足してくれたなら嬉しいよ。明日、歓迎会やるから今日はしっかり休んでね。」


「…はい!」


そうして、休もうとしたそのとき、ドアがノックされ、人が入ってきた。一緒にいる子と同じくらいの背丈、赤と青のオッドアイで本当に幼い体つき、黄色の人形のような暖かそうなワンピースをきた少女。


「あら、琴音ちゃん。急にどうしたの?」


その入ってきた女の子は琴音というらしい。琴音さんは自分の背丈ほどあるうさぎのぬいぐるみを抱えていた。


「あぁこころ。えーっと、そいつ、つむぎだっけか、ほら、ここしらない人しかいないだろ?寂しいかなって思ってぬいぐるみ持ってきたんだ。まぁ子供だましっぽいけどすこし効果あるだろ?だから…はい、これ。抱いて寝るとすっげー暖かいからおすすめのぬいぐるみだ。もしこいつとしゃべりたかったらこいつと手をつないでしゃべりたいって念じるんだ。信じられないかもしれないがそのぬいぐるみとしゃべれるし、遊ぶことだってできるぞ。あとここだけの情報、そいつ、まぁまぁ強い。…じゃな!また明日たくさんはなそーなっ!」


と、部屋をあとにした。あとですぐに念じてみよう。


「どうする?私まだここにいよっか?」


「今日は色々とこの部屋になれてみるので…もう大丈夫です。明日またお話してくれると嬉しいです。」


「わかった。じゃ、またあしたね?それじゃーおやすみっ!」


「おやすみなさい。」


…信じられない出来事だった。が、これがおそらく現実なのだろう。寒かったし、現実だという証拠ならおそらくあるだろう。とりあえず、あのうさぎのぬいぐるみと話してみたいのだが…どうすればいいのだろうか。


とりあえず手を繋ぎ、目を瞑り、話したい…話したい…!と念じてみた。すると、手から何かが動いた感覚がした。目を開け、手を離してみると、ぬいぐるみが伸びをした。


「うぅーん…君が…つむぎ…?」


本 当 に し ゃ べ っ た

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

糸は、何度でも。 @tsumugi289

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る