第十六話 父と子の劣情

 招待客として、何度か訪れているリューベン辺境伯の別荘。

 今日は裏門から入った馬車は、深い木々に囲まれた小さな離れに停まります。

 そこで待っていた、辺境伯の使用人の手を借りて荷物を運び込みました。どうやら、ここで暮らすことになりそうです。


 予想に反して、そのまま静かに時間が流れてゆきます。

 日が暮れても、夕食を終えても、入浴を終えてさえ、来客はありませんでした。

 入浴の際に、使用人の女性に口内や膣、肛門まで調べられ、毒などの暗器を隠していないかを確かめられました。魔族の私がその気になれば、暗器など必要ないのですが……。

 来客があったのは夜遅く、もう夜着を纏ってベッドに入りかけた頃です。何の前触れもなく、突然寝室のドアが開けられたのです。

 大股に近づいてくるのは、リューベン辺境伯、その人でした。


「たしか……ベトリーチェと申したな。ふむ、化粧などせぬ方が美しいではないか」

「辺境伯様! いくら身分があっても、女性の寝室にいきなりとは……」

「高級娼婦などと気取っても、しょせんは娼婦。金で買っているのだから、問題はなかろうよ」


 毛布を引き剥がすと、薄衣一枚の姿に相好を崩します。

 強引に引き寄せ、そのまま胸を鷲掴みにされました。


「おやめ下さいませ……ウィリアム様が悲しまれます」

「可愛らしいことを言う。まず、そのウィリアムに乞われて、お前を買ったことを教えてやろう」

「まさか……そのような事が……」


 慎ましさを忘れず、喜びを滲ませましょう。恋する娘のように。

 そんな私に目を細めるあたり、この男も父親ということですね。


「あやつはともかく、娼婦のお前まで恋愛ごっこか? サリヴァンという女にも確かめたが、まだ娼婦に成り切れていないというのは本当のようだ……」

「私はもう……娼婦です」

「そうでなければ困る。身分の違いすぎる女によけいな想いなど抱いても、側室にもできないからな」


 豊かな胸を捏ね回す辺境伯の指が、突端で膨らみかけている蕾を捕らえた。

 乱暴に摘み、嬲られて、ベアトリーチェが呻く。その声に混じる甘さを嗅ぎ分けて、辺境伯は嗤った。


「あれは母親に似たのか、優し過ぎていかん。……初めて惹かれる相手が、どこぞの令嬢では難しいが、お前のような女なら容易い。ベアトリーチェよ……お前の役目は、まずウィリアムに女を教えること。そして、あいつに蹂躙されることだ」

「ウィリアム様に、その様な嗜好があるのか……ぁああんっ!」

「お前が引き出せ。嬲りたくなる女を演じて、女を蹂躙し、屈服させる喜びを教えてやれ。リューベン家の血を引く男なら、必ずそうなる」

「努力いたします。ですから、お戯れは……」

「それができる女かどうか、まずは確かめてくれよう。……フフッ」

「ぁぁああっ! お許しくださいっ!」


 薄い夜着が剥がされ、剥き出しとなった乳房に辺境伯がむしゃぶりついた。

 無造作に結び目を解かれ、ショーツもあっさり退けられてしまう。レースのガーターとストッキングだけの姿にされたベアトリーチェは、俯きに転がされ、尻を掲げさせられた。

 股間に燭台を近づけられ、揺れる蝋燭の灯りに、秘めやかな場所が照らされてしまう。


「男を知って、ひと月程だと聞いているが……まだ初々しいな、あやつも喜ぼう」

「あんまりです……このような辱め」

「まだ、このあたりが一番感じるのかな?」


 恥じらい、身を捩って見せるベアトリーチェを弄ぶように、莢ごと女の核を刺激された。背を反らし、思わず声を上げてしまう様に、相好を崩した辺境伯はまだ清楚さを保とうとしている女を責め崩そうと、愛撫を加える。

 簡単に崩れ、乱れては侮られるだけだろう。

 逆に辺境伯の女扱いの巧みさを調べてやろうと、相手の指使いに合わせてゆく。

 じっくりと腰を据えた攻防に、互いの肌が汗にまみれてゆく。蜜を湛えた女の場所に、辺境伯が口づけ、舌を這わせたのを潮時に、ベアトリーチェは清楚さをかなぐり捨てた。

 官能を露わにした女の尻を抱え上げ、屈辱を与えるように後ろから貫く。

 辺境伯の抽迭に合わせて、ただ喰い締めるだけから、搾り取るような動きへと女の器官を操り、堪能に溺れた女体を演出する。

 そして、遠慮なく辺境伯は、ベアトリーチェの中で果てた。


「ウィリアムにやるには、もったいない躰だな……」

「もう……ウィリアム様に顔向けができません……」

「まだ、そんな愛らしい事を言うか……。その美しい顔も、豊満な胸も、そして……ここも。お前のすべてを使って、あやつを愛してやるが良い。奴隷のように仕え、主としての強さを身に着けさせてやれ。あやつが飽きるまでが、お前の任期だ」

「……はい、解りました」


 頷いたベアトリーチェは、再び抱きしめられた。

 何度も、何度も犯され続け、辺境伯が去ったのは空が白んでくる頃でした。


☆★☆


 一日、身を清めるために置かれ、翌々日の昼下がりに母屋に呼ばれました。

 襟元を大きなリボンで飾られた白絹のブラウスに、濃紺のロングスカート。そんな地味な身なりで、書斎に待機させられました。


「なぜです、父上! なぜ、私がパーティーに出ることを禁じられるのですか?」


 遠くから、激昂するウィリアムの声が聞こえます。

 それを父親である辺境伯の、よく通る声がねじ伏せます。


「お前のあの娼婦への執着が、もはや聞き捨てならん噂となっている。自分の立場を考えて、少し頭を冷やせ。……おまえには期待しているのだ。こんなことで失望させるな」

「ですが父上、彼女は……」

「黙れと言っている。……女に惚れるなとは言わん。だが、立場も考えず、溺れるような惚れ方はするな。弱みを見せれば、必ずそこから崩される」

「せめて、もう一度だけ……彼女に逢わせて下さい……」

「お前はまだ女を知らぬからな……。書斎に用意した女を抱いてみろ。好きなだけ溺れて構わない。お前を社交の場に出すのは、冬からにすべきだった。……来週、新しい玩具を持って、都に帰れ」

「それでも、僕は彼女を想い続けますよ」

「ああ、勝手にするがいい」


 叩きつけるように、扉が閉められます。

 遠ざかる辺境伯の足音。そして、机を叩くウィリアム様の拳。

 私はウィリアム様に背を向ける形で、窓の外を見て椅子に座っています。

 それから、背を向けたままの女に気づいたのでしょう。自嘲しながら、悪ぶったことを言います。


「話を聞いてたろう? 僕には思い続けてる人がいる。あなたを抱けと命じられれば抱くが、ただそれだけだ。申し訳ないけどね!」

「お心のままに……。私はお金で身を任せる娼婦ですから」


 囁くような答えに、ウィリアム様が息を呑む気配が伝わります。

 よろけるような足音。それが駆け出して……。

 ブラウスの肩を掴んで、強引なくらいに振り向かせます。そして、大きく見開かれたヘイゼルの瞳から、大粒の涙が溢れました。


「ベアトリーチェ……あなたなのか……?」

「……ウィリアム様、お久しぶりです」

「驚いた……まさか、あなたが……」

「ウィリアム様に女を教える係として、辺境伯様に買っていただきました」

「派手なドレスよりも、そんな服装の方があなたらしい……」

「ウィリアム様のお好みでしたら、今後はその様に」

「そんな言い方は、しないで欲しい」

「今の私はウィリアム様のものです。好まれるままに身を染めます」

「それなら、僕を愛して欲しい」

「口づけの経験はございますか?」


 少年の初めての口づけを奪う。

 激しい鼓動を感じながら、舌の絡め方を教えて待つ。躊躇いがちに差し挿れられた舌をからかうように掠めさせ、追いかけっこに誘う。

 逃げ惑う女の舌をようやく捕らえた頃には、もう舌の絡め方はすっかり覚えている。

 長い口づけを終えた少年の唇から、熱い吐息が溢れた。


「続きはウィリアム様のベッドで……」


 何度も頷いた少年は、夢うつつの足取りで自室へ戻る。

 少年のベッドに身を横たえると、何をして良いのか戸惑う少年をじっと見つめます。


「ウィリアム様……手に入れた獲物は、皮を剥がねば食べられませんよ?」

「皮を剥ぐって……」

「私の服を脱がして、裸を見ることができるのは……ウィリアム様だけですのに」

「ベアトリーチェ……あなたを……裸に……?」

「御覧ください。それとも……年上の女はお嫌いですか?」


 目を輝かせ、だけど息を呑み。……辿々しい指が、ベアトリーチェの肌を暴いてゆく。脱がし方に迷っていれば導き、腰を浮かせて、剥ぎやすいよう手伝う。桜色の乳首を目の当たりにして感激した少年は、ショーツを剥いで、そこを目にした途端に爆ぜてしまった。

 それを恥じ、悔やむ少年をなだめつつ、少年の着衣も脱がしてゆく。

 爆ぜてしまったウィリアムの、欲望にまみれ、力を失ったものを口に含むと、目を白黒させて慌てる。その顔を跨ぎ、ベアトリーチェの女を見せてあげる。

 若いオスは、それですぐに力を取り戻す。

 ウィリアムの上で、その昂りを導いて躰の中へと沈める。


「あぁ……熱いよ、ベアトリーチェ。僕は……あなたの中にいる……」

「はい……ウィリアム様と一つになれました……」


 なるべく刺激を与えないように、動きを止める。ウィリアムに想い人と繋がった実感を、少しでも長く味あわせてあげるように。

 こうして直に乳房に触れるのも、初めてでしょう?

 愛しい女の素肌を撫でている内に、男はもっと求めるようになる。

 その先を求めて、初めて腰で貪ろうとした少年は、すぐにベアトリーチェの中で力尽きた。


「あぁ……素敵だよ、ベアトリーチェ。でも、ゴメンすぐに駄目になって……」

「喜んでくださったからですもの。私は幸せです……」


 少年の自尊心を傷つけないように、唇を重ねる。

 ぎこちない愛撫を楽しみながら、ベアトリーチェはもう一度くらいできるのかと、少年の反応を伺っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病弱令嬢は三度の誘拐の後に開花する ミストーン @lufia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ