第21話
「「「「お嬢様~!」」」」
皆で引っ越してきたから、と言う父に期待の目を向けると、ティンは分かっていたと言わんばかりに、そのまま父の為に用意した邸へ父と共に向かう事になった。
そこで待っていたのは馴染み深い使用人達だ。
皆涙を浮かべながらも嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。そんな変わらない皆の優しい姿に、私も思わず涙ぐんでしまい、再会の喜びをしっかり堪能した。
「……エリー」
幼い頃から私に仕えていてくれたエリーは、遠くからそんな様子を見ているの留まっていた。
その瞳には喜びは勿論、どこか悲しそうな悔しそうな表情まで読み取れて……どうしてなのかと胸が痛くなる。
そんな私達の交わす視線に気がついたのか、ティン様が父に何かを呟くと、父がエリーを呼んだ。
「エリー!」
「はい、旦那様」
父に近づき、しっかり礼をする様に、さすがだと言う気持ちで見つめる。
その顔はすでに仕事の顔つきで、先ほどまでの感情は見られない。しかし父の次の言葉でエリーの表情は崩れ落ちる。
「お前は今日からリア付きの侍女とする。以前のように頼む」
返事をする前に、一瞬驚いた様子を見せた後、その瞳にどんどん涙が溜まっていく。
「……返事は?」
「は……はい!」
やれやれと言った様子で父がかけた問いかけに、エリーは元気よく返事をしてくれた。
広いホールに使用人達含め全員が集まる。
これだけの人数が集まっても余裕があるほどの広い邸を与えていただけるなんて、どれほど光栄な事だろうか。
ティンの求婚を受けたという話をすると、皆が嬉しそうにはしゃぎ、各々が抱き合って喜びを顕にしていた。
正式な書簡は後にして、父も涙を流しながら喜んでいたし、ティンも気さくに使用人達と話した。
そしてエリーは明日から城へ私付き侍女として働く事になった。
忘れていた記憶。
アーサー様と婚約していた頃は、皆表情が曇っていたり、何か言いたげにしていたのを思い出す。
私とティンの事を理解していたからだろう。
忘れた私に、現状でどうにかなる問題でもない婚約で思い出させるのも酷だと思い黙って見守ってくれていたのが分かる。
私は周囲にとても恵まれていると、より深く実感した。
◇
一年後――
帝国を挙げての挙式が行われる。皇帝陛下の結婚式だからだ。
民は喜び祭りだと称し、昼から飲んで食べて、パレードの道には花がこれでもかと言う程に舞う。
民達は身近に見た皇帝陛下が、皇后陛下となる女性を愛くしんだ目で見、優しく寄り添い、気遣う仲の良い姿を見て、帝国の未来は安泰だと喜ぶ。
更に、そんな愛情深い方が皇帝だという事に喜び、その民である自分達を誇る反面、皇帝と自分達は同じ人間だという親しみを持ち、より帝国を繁栄させる為に仕事に専念するようになった。
「義父上」
「陛下」
パレードが終わり、貴族階級が集うパーティ会場の片隅で愛娘の姿をしっかり目に焼き付けているだろうブラッドリー公爵に声をかけた。
「義父上の言う通りになったな……これで終わりだろうか」
「さぁ……私が知る物語は、もう終わりを告げました」
「義父上の前世でいた姉妹には感謝しないといけないな」
陛下の言葉に苦笑する。
あの姉や妹は乙女ゲームと言うものにハマっては、私に語り聞かせたりプレイを強要したりしたものだった。
だが、おかげで今世がプレイした事のあるゲームと似た世界だという事に気がついた。
記憶が戻ったのはロザリアが生まれた時。娘が悪役令嬢としての運命を辿ると気がついたのだ。
少ない情報の中でよく気がついたとは自分でも思ったが、もしもの場合があってはいけないと自分の力を必死で蓄えた。全ては愛娘を守るため。
しかしここはゲームの世界ではない、勘違いかもしれないと思いジャスティンが倒れているだろう場所へ向かった。
そこにはゲーム通りに倒れている幼子が居たからこそ、内密に保護したし、ジャスティンが帝国へ戻った後に娘の現状を報告したりもしていた。
リアがジャスティンの事を何とも思わなければ、逃亡先くらいにしか考えていなかったが、出会ってから二人は思い合ったのだ。
ならば父として出来うる限りの事を――。
「マルチダと結ばれていたら帝国は安寧の時代に突入すると物語にはありましたがね」
「そんなものは要らん」
嫌悪を表したかのように答えるジャスティン。
「俺が俺の力で安寧に導くだけだ。義父上も協力しろ。リアの為に」
「言われずとも」
知る物語は終わりを告げた。娘は幸せな結婚をした。
そしてこれからは破滅を回避するためではなく、幸せになる道を進む。
自分達の力で掴み取るために。
【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される かずき りり @kuruhari
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