ある幼馴染の告白

近水たみ

本編

 ここは校舎裏。告白するのは、白波佐奈。そしてその告白相手は、倉塚楓花。2人は幼馴染で、そしてその関係は、今、変わろうとしている。

「すー、はー……うん、よしっ!」

 佐奈は深呼吸して、覚悟を決める。楓花も姿勢を正して、佐奈の告白を待つ。

 そして。

「……聞いて、楓花。わたし、楓花のことが……好き」

「……うん、知ってる」

「ありがと。……えっと、だからさ。楓花。わたしと……恋人になってください!」

「……それは、えっと」

「……まあ、パッと答えは出せないよね、楓花は」

「……ごめん、佐奈」

「いいよ。……楓花。こうしてわたしから告白するの、何回目だっけ?」

「えっと……7回、かな」

「あはは、もうそんなになるんだ。……ちゃんと、覚えててくれてるんだ」

「そっ、それは……うん……」

「嬉しいよ。いつも告白はわたしからで……楓花はいつも、答えを出せなくてさ」

「……ごめん」

「本当はさ。わかってるんだよ。楓花は優しいから。優しいから……わたしを傷つけられないだけだって。だからちゃんと断れないんだって」

「っ、ちが……」

「わたしは、それにつけこんで、何度も何度も。……ごめんね、楓花。わたし、バカみたいだよね……」

「そんなことない! ……そんなこと、ないよ。佐奈はいつも、本気だってわかる。最初のときより、ずっと、もっと、私のこと、そ、その……す、好きだって、伝わってる、から……」

「楓花……ありがとう。……でもね、今日で最後にしようと思うんだ」

「え……」

「このままじゃ、いつまでも平行線だから」

「そ、それは……そう、だけど……」

「だからさ。わたしの本当の想い、伝えるよ。わたしの好きが伝わるように、頑張るからさ。……楓花には、ちゃんと答えを出してほしいんだ」

「佐奈……」

「……楓花。はじめて会ったとき……なんて言えないけどさ。わたしはずっと楓花といて、楓花がいることがわたしにとっては当たり前だった。いつ好きになったかなんて、全然わからないんだ。気づいたらわたしは楓花のことが好きになってて、どうしていいかなんてわからなくて。だから楓花に告白したんだ。ねぇ、楓花。わたしが最初に楓花に告白したときのこと、覚えてるかな……わたしが楓花のこと、好きかもしれないなんて言ってさ。そしたら楓花、教えてくれたよね。好きにも色々あるんだよ、ってさ。あれからずっと、わたしはわたしの好きがどんな好きなのか考えてる。色んな好きを知るたびに、それがわたしの楓花への好きと同じか、確認してた。……でもさ。たぶん、そうじゃないんだよね。わたしの楓花への好きは、たぶん、世界ではじめての好きなんだと思う。この好きはわたししか知らない。楓花といるときだけ溢れるこの好きは、わたしだけの好きなんだよ。楓花。わたし、楓花と手を繋いで家に帰るだけで、すっごく楽しいんだよ。楓花とお泊まりするとき、いつもドキドキしてるんだよ。ふとしたときに楓花に抱きつきたくなるし、それをなんだかんだで受け止めてくれる楓花のことが、わたしは大好きなんだよ。だから、楓花とこれからも、ずっと一緒にいたいんだ。特別なことなんて、何もなくてもいい。これまで通りでいいんだ。楓花はわたしと一緒にいてくれるだけでいいんだよ。だから……ね? 楓花。わたしの、恋人になってくれないかな……?」

「……佐奈、一つ聞いてもいいかな」

「うん。なに?」

「……佐奈は、恋人になりたいだけなんじゃないの?」

「……えっと、どういうこと……?」

「これまで通りでいいってことは、今の私と佐奈との関係を、恋人にしたいだけなんじゃないの? 今の関係に、恋人って名前をつけたいだけなんじゃないの?」

「……それは」

「私が佐奈と恋人になったら、何か変わるの?」

「……ごめん、楓花。わたし、何も考えてなかったんだ。楓花と恋人になりたいって、そればっかでさ。恋人って関係に、その名前に、こだわってただけかもしれない」

「佐奈……」

「ほんとに、ごめんね? これまで、何度も何度も……告白なんて、迷惑だったよね。……楓花。これからも、わたしと、これまで通りでいてくれると嬉しいな。でも、わたしの楓花への好きだけは、知っておいてくれると嬉しいかな」

「……ってよ」

「わたし、今日は先に帰るね。じゃあ……」

「……待ってよ!」

「ふ、楓花? どうしたの……?」

「佐奈は、それでいいの!?」

「……うん。楓花が、これからも一緒にいてくれるなら、わたしは、それで」

「佐奈、言ったよね。手を繋いで帰るだけで楽しくなるって」

「……う、うん」

「……手、普通に繋いでるだけじゃん。恋人繋ぎとか、したくないの?」

「楓花……?」

「お泊まりもいつも寝るときは別々じゃん! 一緒のお布団で寝たいとか思ったことないの!?」

「そ、それは……」

「佐奈は私と! ……き、キスとか……その、そ、それ以上のこと、とか……したいって、思わないの……?」

「……え、えーっと……そ、それは、さ」

「う、うん……」

「……もしかして、楓花がそうしたかったり、とか……」

「え、えっと、そ、それは……」

「楓花……顔、真っ赤だけど……」

「う、うるさい……その、私が、そうだったら……佐奈は、嫌……?」

「嫌じゃない」

「……え」

「嫌じゃないよ。というか、むしろ嬉しいかな。……だって、それってさ。楓花の、楓花なりの、好き、なんでしょ?」

「……う、うん」

「じゃあさ、もっと教えてよ。楓花の好き、わたしに教えて。全部、ちゃんと聞くからさ」

「……私はずっと、佐奈のことが気になってた。でも、私が最初に佐奈のことを好きになったのは、佐奈が最初に告白してきたとき。あのとき私は、私のことを好きかもしれないって言った佐奈のこと、抱きしめたくなった。そんな気持ち、はじめてで……なんとなく、わかっちゃった。私の好きと、佐奈の好きは違うって。佐奈の告白を受けて、佐奈と付き合うことはできても、2人の好きが違ったら、きっと、どこかでぶつかっちゃうし、佐奈とどうやってその先に進めばいいのかもわからないし。私は……たぶん、怖かったんだと思う。だから、好きにも色々あるなんてことしか言えなかった。でも、佐奈は何度も告白してきて……ずっと答えを濁すことしかできなくて。でも今は違う。佐奈にはちゃんと伝えたいんだ。私の好きを。私は佐奈を抱きしめたい。私は佐奈と恋人繋ぎがしたい。佐奈と一緒に寝たいし、結局寝られないまま朝を迎えても、それはそれで楽しいんだろうなって思ってる。私は佐奈と……キスも、それ以上も、いっぱい、したい。したいだけじゃない。全部、佐奈からもされたいことだよ。佐奈の全部を、私は感じたい。ねぇ佐奈。これが私の好きだよ。この好き……佐奈に、届いてるかな……?」

「楓花……!」

「ちょ、さ、佐奈……!? 急に、抱きついて……!?」

「……そう、だったんだね。やっとわかった。楓花がなりたい恋人になれないから、私の告白、答えられなかったんだね」

「うん……ごめん佐奈、私、ずっと……!」

「わたしのほうこそ、何も考えてなくてごめんね、楓花。もっと楓花のこと、考えなきゃダメだったよね」

「違う、違うの……私がもっと、素直になれていれば……」

「じゃあそれ、今にしよう」

「え……」

「ねぇ、楓花、今度は楓花から告白してよ。わたし、絶対に受け入れるからさ」

「……うん、わかった」

「……あーあ。わたしのほうが楓花のこと、好きだと思ってたんだけどな。楓花、わたしのこと好きすぎ」

「大丈夫。佐奈の好きは、たぶん、佐奈が思ってる以上だから」

「……そう、かな」

「そうだよ。……佐奈の好きは、私が誰より伝えられてるから」

「……そっか。そうかも」


 ここで、仕切り直し。

 告白するのは、倉塚楓花。そしてその告白相手は、白波佐奈。2人は幼馴染で、そして。


「佐奈。……私の恋人に、なってくれますか?」

「こちらこそ。わたしを……楓花の恋人にしてください」

「……もう、それじゃ佐奈の告白みたいじゃん……」

「あはは、ごめんごめん。じゃあ楓花の恋人として……まずは、キスからかな?」

「えっ、ちょ、待って、まだ心の準備とか──んっ……!?」

「……準備できてない心を奪うのは、恋人失格?」

「……私の恋人としては、満点」

「あはは! ありがと、楓花!」

「もう……これからよろしくね、佐奈」


 2人の手と手は、恋人繋ぎ。2人の関係は、幼馴染で……そして、恋人だ。

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