第6話 百合


 熱を出した。傷口もなかなか塞がらない。皐は時折、苦痛の声を出す。「もうダメなのか」と、火焔かえんが諦めかけたその時――


「火焔様……」

こうっ!」

わたくし……ずっと前から……火焔様のこと……好きでした……わたくし…もう…」

「皐っ! ダメだ! 死ぬな!」

「火焔様の笑顔が……とても好きです……だから……わたくしが……死んでも……泣かないで…………ください……わたくしを………………笑顔で……見送って…ください…」

こうっ!」


 こうは再び目を開くことはなかった。火焔は皐の少し冷たい手をいつまでもいつまでも、握り続けていた。


――涙が枯れるまで泣いた

――泣いても皐は戻って来ないというのに


 皐の亡骸なきがらはきちんと埋葬し、墓を建てた。そして、皐の好きな百合の花を火焔は手向たむけた。


――空は青い。幾度となく皐と過ごした夏はもう帰って来ない。私の想いは届かぬまま

――それでもいつも通りの夏はやってくる

――青空の下、私は今日も皐の墓の前で手を合わせる





[おわり]

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夢幻 とろり。 @towanosakura

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