第5話 刺客


「ここが、火焔の寝床か」


 一人の男が、忍び寄る。裏戸から侵入すると火焔かえんこうの寝床に着いた。

 短刀を両手に逆手に持つ。そして――


 ザッ!!


 床に短刀が突き刺さる。


「ちっ、逃したか」

「何者だ」


 火焔は男の裏をとると短剣を首もとに近付けた。


孟派もうはの忍びだ。名前は無い」

「誰の命令でここに来た」

柳派やなぎはだ。あんたを始末しろと」

「なぜ」

「あんた可炎かえんの残した密書を持ってるだろ。それが目当てだ」


「火焔様っ!」


 皐は立ち上がると戦闘態勢に入った。


「皐、下がってろ」

「いいえ、私が――」

「下がれっ!」

「火焔様……」


 一瞬の隙を男は逃さなかった。火焔の拘束を外し、火焔と距離を取ると短刀を皐に向けて投げ付けた。

 皐は避けきれずに左脇腹に短刀が刺さる。


「皐っ!!!!」

「火焔様……」

「火焔っ! 密書を渡せ! さすればこの女の命は助かる!」

「くっ! 分かった! まずは皐から離れろ!」


 男がじりじりと距離を空けていく。


「さあ、もういいだろ。密書を渡せ! おっと、悪いことは考えるなよ。俺が死んでも次が来るぜ」

「っ!」


 火焔は密書を男に投げ付けると同時に皐の安全を確保する。


「そう、これだ。さて、仕事は終わりだ。帰りますかね」


 男はシュンッと姿を消した。


「皐っ! 大丈夫かっ!」

「火焔様……」


 火焔は皐の左脇腹に手を当てる。


「っ! 深い……」

「火焔様……構いません……私を殺してください……」

「大丈夫だっ! 時間はかかるが必ず傷は塞がる!」

「火焔様……わたくし……火焔様のことが……」


 皐は次第に声を小さくして、ついに意識を失った。


 火焔は皐の左脇腹の血を止め、皐の体を倒した。

 そして

 長い長い苦痛の日々が始まった。



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