第4話 幻想


 夜。こうは目を覚ました。隣には火焔。皐は物思いにふける。



――火焔様はなぜわたくしを選んだのでしょう。他にお供は沢山居るでしょうに


――私は火焔様の秘密を知っています。火焔様が女だということを知っています。けれども胸が苦しいのです

――いっそのこと「好き」と言ってしまいたい。「好き」と言ってもらいたい。そんなこと幻想に過ぎないのでしょうけど

――上位の忍びとして生きる火焔様。あなたはどうしてそんなに強いのですか?

――聞く勇気など無い。答えなど分からない。私はただ、火焔様にこの先、死んで欲しく無いのです。たった一つの命なのです。危険を冒さなくても作物を育てひっそりと生きることもできるのです。それなのに……

――「お前は俺が守る」 私は火焔様に生き続けてもらいたい。危険を冒さないで欲しいのです。私は忍びの端くれ、火焔様より全てにおいて劣っています。でも、私こそ火焔様を守りたいのです


――なんでしょう、この気持ちは

――心が苦しい。「好き」の言葉を押しとどめるのが、こんなにも苦しいなんて

――ああ、もうすぐ夜が明ける



 こうは寝返りを打つと、少しの間眠りに落ちた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る