第3話 月明


 夜。月が明るく光っている。寝床には火焔かえんこうの二人。寝息を立てる皐の横で、火焔は過去を思い出していた。

 そして思案する。


――この娘は、こんな私について来て幸せなのだろうか

――私と同じくらいの歳だというのに文句も言わずに、食事の準備や仮宿の掃除をする

――立派なだ。身の回りのことは全てこうに頼りっきり

――私が確実に皐に惚れていただろう

――いや、なんだろう、この気持ちは

――私は女。なのになぜか胸が高鳴る

――私に家族はもういない

――家族と呼べるのは、こうだけだ

――守るべきものはここにある

――父の忍びとしての極意は学んだ。学びは途中だったが、今の私は他の流派より確実に上だ

――しかし、油断はできない


――守りたい。守らなければならない。私を知るものはもうこうしかいないのだから

――この感情はやはり愛情なのだろうか。さまざまな心情が交錯している。おもいやり? 感謝? 愛情? 共通項を探れば探るほど、解らなくなる

――寝顔がとても美しい。変だな、普段はこんなことは思わないのに。すぅすぅと一定の呼吸音は……

――安心しているのだろう。私はそんなこうが好きだ

――笑った顔も泣いた顔も怒った顔も、皐の全てが好きだ

――「好きだ」なんて、どうかしてる。女同士の愛なんて聞いたことが無い

――本当に男だったらどれほど良かっただろう……



 火焔は寝返りを打つと、再び眠りに落ちた。



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