より透明な水晶

高黄森哉

水晶


 タヌキは河原で、水晶を拾いました。曇りの射す六角中の柱。太陽の光すら空かさないほど濁った水晶の柱。タヌキはつまらないな、と感じました。もっと透明ならば綺麗なのに。


「ではその願い、かなえてあげよう」


 とどこからともなく、オーケストラの音と共に、声が響いてきました。タヌキは余りの音量に耳が痛くなりました。


「は、どなたで」

「私は宝石類の神じゃ」

「へい。それはそれは」

「水晶を見せてごらん」


 握った拳を開いて、柱状の鉱物の結晶を明らかにします。タヌキはそれを強く握っていたため、鉱石はほのかに熱を持っていました。


「見ててご覧」


 その宝石を観察していると、内部で花火のような発光が迸りました。まるで独楽のようにグラグラと赤い火花は回りながら、中の靄をからめとって、ぱちぱち燃焼させてゆきます。飛沫が水晶の裏側に跳ね返ります。


「わっ、すごい。でも、まだちょっと曇ってるや」

「ははは。ではもう一つ」


 次はその角筒の中を、金色の雷が走り抜けました。その枝先が曇りへふれると、蜘蛛の巣のように表面から内部まで浸食していきます。そして、また水晶は一段と透明に近づきました。


「もうほとんど、透明だ。では、もう一つ」

「おや、狸くん、もう十分じゃないかい。曇りはほとんど見えないよ」

「いや、ほらここに一つ、煙のような跡があるでしょう。おそらくあの雷で焦げたんです」

「わたしにはみえないな」

「ですが、このタヌキめにはみえるのです。貴方の電気のせいです。弁償してください」

「では、もう一度だけ、魔法をかけよう」


 ほとんど澄み渡った玉の中央から、青白い光が生まれ、次第に光度を増していきます。まるで恒星のような、つんとすました光線です。

 タヌキはあれえと叫びました。光が収まると水晶が消えてしまったのです。今までは輪郭が判る程度でしたが、今ではそれすらありません。ただ、柱状構造の角の感触が手の平に残るのみです。


「お願いします。やり直してください。透明すぎます」


 しかし、宝石の精霊だかは高笑いしながら、どこかへ消え失せるのみです。タヌキは一人、河原にいて、なにもない空間を掌で転がしています。ころころと転がった水晶を、


「あっ」


 と、なにかの拍子で落としてしまいました。タヌキは鉱物を夕方まで探しましたが、遂に発見することは叶いませんでした。曇りのある水晶、人生もこれと同じです。

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より透明な水晶 高黄森哉 @kamikawa2001

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