第4話 貸出カードって覚えてる?

 図書準備室に置き去りにされていた本を整えて、図書室の本棚に戻した。


 この物語もきっとまた、誰かの心をときめかせるかもしれない。


 いつまでも埃まみれの準備室の中じゃ、勿体ない。


 今では使われなくなった貸出カードは、処分することもできずに、準備室の引き出しの中に仕舞い込まれている。


 私はその束の一番上に、さっきの本の貸出カードを重ねた。


「安藤先生! 会議始まりますよ!」


「今行きます」


 私は慌てて図書室の施錠をし、職員室に向かって歩き出す。


「ちとせ、何やってたの?」


「本の修理だよ。それよりも校内ではちとせって呼ばないでって」


「わかってるって。今だけ、ね」


「もう。悠はいつだって、その笑顔でかわすんだから」


 私と悠は職員室までの道を早歩きで歩く。


 悠は貸出カードなんて、覚えてるかな。


 中学二年の私は間違いなく悠に片想いしてた。

 悠の名前に、ドキドキしてた。

 悠は、私の初恋相手。

 

 その気持ちは伝えることもできずに、今でも私の心に仕舞い込まれたまま。そう、まるであの貸出カード達みたい。


 悠に、伝えてみようか。

 悠に救われた中学二年の私。

 そして、今でも変わらない想い。


「ねぇ。悠。図書室の本に、貸出カードってあったの覚えてる?」

 

 

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貸出カードに見る名前 光城 朱純 @mizukiaki

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