第61話 大学・研究所は変人ばかり I
みなさんも、長く生きていれば、多くの変わった人に出会っていると思う。そういう自分も変わった人間だと言われても仕方がないと思っている。私は、大学生活をエンジョイしている学生に出会うことが多いが、特に学部生は、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして迷走している様に見える者が多い。それはそれで、良い経験なのだが、私は、まずは人生のプライオリティーを決めてから、学生生活を楽しむ様に言う。医学部(米国の医学は大学院)へ進みたいなら、まずは、二つの目標を定め、克服していくこと。一は、医学進学用の共通試験(MCATと言う)の勉強をして、高得点を取ること。二は、学業で優れた成績を残すこと。この二つが、医学部進学には最も効いてくるためだ。その次に、ボランティアとか研究成果を出して、できれば、論文を発表することだが、一と二をやってないと、ほぼ医学部には入れない。そこを忘れて、先にボランティアとか研究で差をつけようとする学生も多い。彼らには、一と二をちゃんとやってないのに、研究をしにくるなと言ってやると、大変驚かれる。なぜなら、猫の手も借りたい、私の勤めている大学の教授達には、この学部生の手助けが大変ありがたいことなので、それを辞めてしまえと言う様なことは絶対に言われないので。(私の出身校では、研究は院生が行うので、学部生は逆に足手まといになるとも思われている。よほどできる学部生でないと雇ってもらえない。)実は、医学部へ進みたい学生には、専属のアドバイザーがいて、その先生と私の言うことは同じだったと、学部生が言いにきたこともある。
話が逸れたが、大学で研究職をしていると、本当にいろんな面白い人間に出会える。その中の一人が研究室の大先輩だった。現在、かつたけいさんの大作、「めかまじょ」を休みの間に読み切ろうと頑張っている。その話に出てくる、「反射衛星」で思い出した院生時代の先輩がいる。彼は、私の教授の大学院生第一号であった。エリート校軍団、アイビーリーグの中では、科学部門の評価では一番格下のダートマス大学 (Dartmouth College)出身だった。この大学は、ニューハンプシャー州の田舎にあり、映画、Animal Houseの舞台だと言われているが、若い方達にはわからないと思う。彼の父親は世界的にも有名な蒸留所を専門に建設する会社を持つエンジニアだった。スコッチウイスキーのジョニーウォーカーの工場も建てていた。彼が、博士課程を修了した頃、コーンからエタノールを作り、ガソリンに混ぜる蒸留所を建てる会社を数多く建設していたが、結局全て倒産していまったことは前にも書いたと思う。その彼である。
昔から、色々と意味のない計算(一般人には)が好きだった彼は、その会社の運営方針にもそれを取り入れていた。雇ったエンジニアの時給を秒単位で計算した上、例えば、仕事中に、5セント玉(日本で言えば五円玉)が落ちているのを見つけても、仕事を中断して拾い上げるなと言っていたらしい。お金を拾うにかかる時間を計算して、仕事を中断するおかげで出る損失と比べての結論だった。階段を登るのに一番効率的なのは、一段飛ばして、一気に2段ステップで登ることかも奨励していた(ちなみに私はこれをやっていたが、せっかちだったためだった)。彼の院生時代に、ティーチングアシスタント(TA)として教えていた学部生達に、今現在、呼吸を一度すると、イエスキリストが2000年ほど前に吸った最後の息に含まれていた空気の分子(酸素分子か窒素分子)が何個含まれているかを計算させたりもしていた(実はこれをやっている人は割と多かったが)。
これまでの話は、かつたけいさんの反射衛星の話とは無関係でるが、私が彼に最後にあったのが、2000年代初頭で、地球の温暖化が問題になって、本気で議論され始めていた頃だった。元副大統領のアル・ゴア氏のプロデュースした映画(後に彼の団体がノーベル平和賞をもらった)が流行る少し前だった。私の先輩は、地球温暖化に関して別の提案をしていた。それは、温暖化ガスを減らすよりも、地球の周りに莫大な数の反射鏡を持つ衛星を上げて、太陽光を反射させて、地球の軌道を太陽よりも少し遠くに移動させて、地球に到達する光量(=エネルギー量)を下げると言う提案だった。光が物質に圧力をかけることができるのは、光子力ロケットで有名だが、それで、地球が動かせるかとは、普通の人間は思い付かないと思う。逆に反射衛星で、地球に注ぐ太陽光を反射させて、光量を下げて、地球の温度を下げるというアイデアも浮かんでいた(これを考えると、彼の提案では、最初は、地球に余計な光を当てて移動させるために、地球の温度が、一時期上がってしまう可能性があったのかもしれない。)。そこで、彼は、私の教授の研究室のコンピューターを使って、初期的な計算をして、その結果を使って、スーパーコンキューターの使用時間を申請する準備をしていた。この提案は、少し話題になり、全米ニュースでも取り上げられた。しかし、私は、その直後に現在住んでいる別の州に引っ越してきたので、彼の成果は知らない。20年上前の話で、それ以来、何も聞かないので、きっとうまくいかなったのだろう。
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