第60話 サンホゼ カリフォルニア IV

チャーリーブラウンに「戦争と平和」が出てきて、息子が興味を見せたので、トルストイの「戦争と平和」を読んでしまった話を書いたが、今回は、また、サンホゼ(サンノゼ)へ引っ越した後の経験談を書くとにする。今回は、そこででった日系人の友人達に関する話を少しする。


日本語学校には、特に妻と息子が入っていたクラスには、日本語を学びたい(または、親が学ばせたい)子供や大人ばかりだった。日本の学校へ復帰するのが最終目標の駐在員の家族達と違って、もっとリラックスした雰囲気だった。妻のクラスにいた日系人と結婚した白人男性とそのカップルの娘と息子(息子よりも年下)も日本語を習っていた。そして、息子のクラスには、この日系人女性の兄の息子がいた。2歳下の彼の妹もいた。


ここに出てくる日系人一族の家系図を把握することは私の説明では難しいと思うが、要は、日系人の兄と妹がいて、妹の方は私たちと同じくらいの年齢だった。兄には日系人の奥さんがいて、妹には白人の夫がいた。両方のカップルには子供が二人ずついた。その妹の方は、私たちと年齢も近く、比較的近いところに住んでいたので、よく遊びに行く様になった。彼女の白人の夫は、サンタクルーズ近くで、小さな地質調査の会社を経営していた。カリフォルには地震が多いので、家を売買する時には、必ず地質調査が必要となっていたので、このようなビジネスは多くあった。彼はとても面白い性格をしていて、面白い話が尽きなかった。


彼らの家には、彼女の母親も同居していた。このおばあちゃんは、私の祖母と同じ歳で、ハワイ島で生まれたそうだったが、小学校高学年の頃、日本の教育を受けるために送り返された。日本で女学校を卒業した後には、又、ハワイへ戻ってきて農業に従事していた。その後、ハワイ島で結婚したが、結婚相手の仕事の都合で、戦後、シリコンバレーにやってきた(その頃のシリコンバレーにはシロコンのシの字も未だなかった)。ハワイ州には日系人収容所はなかったので、米国本土にいた日系人とは違い、収容所は体験していない。この友人の母親のおばあちゃんは、ほとんど日本語を話していた。それも、広島弁だった。彼女の両親は広島出身で、送り返されたのは、両親の故郷の広島県内だった(市内ではない)。ハワイ島の両親とも、話していたのは日本語(=広島弁)で、このおばあちゃんが話していたのは、バリバリの広島弁だった。娘である私たちの友人は、日本語は話せないと言っていたが、実は、彼女の母親の喋っている広島弁は理解できていた。それを見て、私は、妻が私の実家へ初めて行った時の真逆のことが起こっていると説明した(大学で標準語を習っていた妻は、私の故郷の広島弁は、特に私の両親との会話は、理解できなかった)。通常の米国の学校を卒業していた私たちの友人は、英語がネイティブで、標準語の日本語を聞いてもわからなかったので、日本語はできないと言っていたのだった。


彼女の兄の家族も、とても良い人達で、兄は、ある興味深い出来事にであっていた。彼は、スタンフォード大学のある、パルアルト市の娯楽を管理する部署で仕事をしていた。運動場や公園の芝を小型トラクターに乗って刈っていくのが、彼の主な任務だった。私たちがシリコンバレーへ引っ越してから間も無く、このパルアルト市で、猛毒蛇のブラックマンバ(アフリカの乾いた地域に住む5m近くにもなる毒蛇で、気性が悪く、移動する速度もものすごく速い)に関する事件が起きた。ある日パルアルト市の警察に、ブラックマンバを飼育していたが、その蛇が逃げてしまったと、匿名の通報があったらしい。ブラックマンバの危険性を知った市警察は、その周りの市にもこのニュースを伝え、緊急パトロール初めていた。すると、そのニュースを聞いた市民から、ある公園の芝生で、その蛇らしいものを目撃したという知らせが入ってきた。警察は、多くのパトカーをその公園へ向けて出動させた。念の為、スタンフォード大学の爬虫類専門の教授等にも連絡してアドバイスを受けた。蛇は見つけ次第に撃ち殺すとなっていた。そして、その公園を銃を持った警官達が取り囲んだ。しかし、その公園でトラクターに乗って芝刈りをしていた、私の友人は、耳栓になるヘッドホーンをつけていたので、パトカーのサイレンも聞こえず、銃を抜いた警察官に囲まれていることも知らなかった。近くまで来て、大声で怒鳴っていた警官に気づき、トラクターを止めて、何が起こっているのか説明された。警官は、彼のすぐ後ろに猛毒のブラックマンバというヘビがいるので、直ぐに、ここから立ち退く様に叫んだ。しかし、私の友人は、あれは蛇ではなく、彼が、芝生に水を撒くために使っていたホースだと説明した。水圧にむらがあったのかなぜか、このホースは時々うねる様な動きをするのだった。彼の説明の後、実物を確認して、それが蛇ではないこと悟った警官達は一気にやる気を無くして帰っていったそうだ。結局、これはローカルなニュース局に取り上げられたり、新聞の記事にもなったが、その蛇は見つかることはなかった。そして、今では、きっとスタンゴード大学の大学生の悪戯電話だったのだろうと言われている。

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