Code:Mind -epilogue-
旅をして、自分の弱さを知った。間違いもちゃんと正してきた。
あの時、部は辞めてしまったが、それでもきちんと謝って、過去は清算してきた。
もちろんそれで全てが解決する訳じゃない。大事なのはこれからだ。これから俺がどうやって生きていくか、それが重要なのだろう。
相変わらず虐められていた落合の事はずっと庇い続けた。あいつが攻撃されそうになった時は、ちゃんと俺があいつの前に立って、土屋と齋藤から落合を守るようになった。
何度か殴り合いの喧嘩になったこともあったが、流石に柔道部の主将には勝てなくて───その度に俺と落合は色んな所に傷を作っては笑いあった。
佐藤とは和解はしたけれど、結局彼女から迫られた復縁は断ってしまった。ケイトを選んだ時に俺が決めた事だから、これだけは絶対に譲れなかった。
あらゆる事は解決した。だが───
─── 一つだけ、俺には新たに抱えてしまった問題があった。
『───アマテラスの秘宝が目覚めた事で、君の精神にも少なからず影響が及んでいるはずだ…。あまり周りを気にしすぎるなよ──』
これは静子が精神世界で最後に俺に残した言葉だ。あの時は意味がわからなかったが、中学三年になった辺りで俺はようやくこの言葉の意味を理解した。
今の俺は、以前に比べてあらゆるモノに対する想像力、感受性が豊かになっている。
いや、豊かになっているなんて普遍的な言葉では逆に誤りだろう。それは想像なんて域をとうに超えていた。
人の気持ちを想像すると、それがどんどん膨れ上がって俺の心にのしかかってくる。
特に関わりが深い人間に関してはもっと酷かった。その人の感情を受け取ると、それがダイレクトに伝わってくるのだ。まるで当事者のように。
そう、精神世界で仲間達の力を自分に憑依させた時のように、
必要以上に周りの人間から感じ取ってしまう感情は…心に負った疑心暗鬼の念を完全に克服した訳では無い俺にとっては猛毒そのものだった。
───2012年6月2日───
大雨と雷が、まるでこの世の終わりのように降り注いでいる。
服を着たままシャワーを浴びたようにびしょ濡れになっている俺は、ただひたすら家に向かって走っていた。
「なんで……なんでこんな…!」
「こんな思いしなきゃなんねぇんだよ!!」
空に向かって、俺は叫んだ。
せっかく皆と旅をして、過去も精算して───何もかもが解決したはずなのに。その上で新たなスタートを切ったはずなのに。
何も変わっていないのだ。俺はこの力のせいで、相変わらず周りの人間が怖かった。
周りの人間に心を開く事が出来なくて、俺は以前にも増して孤独を抱えるようになっていた。
───あぁ、もう疲れた───
まるでテレビの音を消音にしたかのように、雨の音だけが止んだ。
雨に打たれながら、その場で地面に縮こまる俺にかけられた声は、全く聞き覚えの無い声だった。
「───やぁ、少年。人の心が大好きなミステリアスなお姉さんはお好みかな?───」
ポニーテールにした黒髪、黒のライダース
吸い込まれるような、蒼色の瞳。
細身の体にフィットするような、スキニージーンズ。
明らかに歳上と思われる、その女性は───
俺にとって、救世主と呼ぶべき存在だった。
───夢想劇 第二部 Code:Mind Ⅱ───
夢想劇 幸村 京 @kyo_yukimura
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