エモい。
二季
ダベり1 うさぎとターミネーターがとてもエモい
【ラーメン屋の喫煙所にて】
「美味かったな、ラーメン」
「やっぱ家系だよな。多分、明日腹壊すだろうけどさ、なんか無性に食いたくなるんだよな」
僕は少しキツめのタバコに火を点けて、1分6円の贅沢に身を委ねた。
「あ、やべ。火忘れた」
「またかよ」
「ごめんて、キッチンに置いてきたかもしれん。火ぃ貸して?」
「ったく、しょうがねえな......ほら」
「さんきゅ」
相方のタバコに火を点けて、時間差の贅沢を共にする。
人と食うメシは美味いが、それはタバコも同じだ。
独りぼっちで吸うよりも、何倍も、何倍も旨く感じるのは僕だけだろうか?
しばしの静寂が二人を包み、相方が唐突に話を切り出してきた。
「なあ、斬新な昔話を考えたんだけど...聞く?」
「斬新な昔話ってなんだよ」
「いいから聞けって。んで、将来子供出来たら読み聞かせしろよ」
「お前の考えた昔話なんて、帰る頃には忘れてるよ」
「じゃあ、まずはタイトルな」
「話聞けって」
【うさぎとT-800】
「......なんて?」
「うさぎとT-800だよ」
「T-800ってターミネーターの?」
「そう。ターミネーターのT-800」
「かめじゃないの?」
「斬新だろ?」
「斬新だけども」
「続き気にならない?」
「いやー......ぶっちゃけ、かなり気になる。キャッチー過ぎるだろ」
「おお、乗り気じゃん」
「うるさいよ」
「じゃあ、まず最初な」
【むかしむかし、あるところに、うさぎとT-800がいました】
「ここまでは......まあ、普通だな」
【おいら、かけっこなら天上天下唯我独尊だ】
「え、なんて?」
「おいら、かけっこなら天上天下唯我独尊だ」
「いや、聴こえてたよ。どういう意味?」
「お前......学が無ぇな」
「お前と一緒の高校出てるよ」
「お釈迦さまっているだろ?あいつ、産まれてすぐに7歩歩いて『宇宙の中で、私より尊い者はいない』って言ったらしいんだ」
「あ、そういう意味なの。お釈迦さま、めっちゃイタいやつじゃん」
「お前もイタいとか言うなや」
【うさぎのくせに、井の中の蛙とはとんだ皮肉のよう】
「お代官様いる?」
【なにを!?おいらとかけっこで勝負しろ!】
「あ、ここは普通なんだ」
【いや、ここはフードファイトで勝負しようか】
「なんでやねん」
【やってやんよ】
「やんのかよ」
......なんか面白えなこれ。
「だろ?」
「心の声を読むな」
「斬新だろ?」
「これは確かに斬新だわ。続き気になってきたもん」
「そうだろ?次いくぞ」
「待て、二本目点けるぞ」
「悪り、タバコ切らしてるわ」
「俺のやる」
「さんきゅ。......お前のタバコキツいな」
「まあな」
「身体に気をつけろよ」
「ん、ありがと」
【二人の目の前には、曲がりくねった山道をバックに、3kgにも及ぶ爆盛りラーメンが並んでいます】
「なんでこいつらラーメン食ってんだよ」
「いやー、昔話でさ。爆盛りのご飯あるじゃん」
「ああ、大ライスな」
「大ライスって言うな。俺さ、あれ二郎系の先駆けだと思ってんのよ」
「じじいとばばあが毎晩二郎系食ってんの面白すぎだろ」
「だからさ、あんま違和感ないかなと思って」
「違和感はマシマシだけど、なんか無性に納得したわ」
「だろ?」
【うさぎがラーメンに乗っかった爆盛りのもやしを天地返しすると、なんとラーメンから大きな赤ん坊が出てきました。おっとたまげた!】
「うるさいよ。なんで桃太郎になってんだよ」
「いや、そっちの方が面白いかなと思って」
「面白いけど追いつかねえよ」
「これな、桃太郎に移行したのにはちゃんと理由があるんだよ」
「はあ......」
【二人は驚いたけれども、とても大喜び】
【なんて名前にする?】
【ラーメンから生まれたから、ラーメン二郎というのはどうだろう】
【それがいい!】
「それがいいじゃねえよ」
「いやー、この件がやりたくてさ」
「お前、絶対桃太郎に対抗して『ラーメン二郎』ってやりたかっただけだろ」
「バレた?」
「薬やってる?」
【ラーメン二郎は着々とフランチャイズ経営を拡大していき、立派な優しい実業家になりました】
「サクセスストーリーじゃん」
【ある日、ラーメン二郎は二人に言いました】
【叔父貴、ワシらのシマにぃ、甘い汁を啜ってる不届者がいるらしいのぉ?】
「なんでVシネみたくなってんだよ」
「キャストは絶対、竹内力と小沢仁志だな」
「うるせえ、死ね」
【締めたれや、二郎】
【ラーメンじゃ。4杯あるけえ、持ってけ】
【おうよ、うさぎの叔父貴。T-800の叔父貴。敵さんのタマぁ取るまで帰ってこんからの】
【こうして、対立するタピオカ専門店と、抗争の火蓋が切って落とされました】
「T-800の叔父貴ってパワーワードすぎるだろ」
「シュワちゃんならいけるかなと思って」
「国籍からちげえよ」
「んで、なんでラーメン屋とタピオカ専門店が争ってんだよ」
「あいつらって何かと増えるじゃん?お互いに潰し合わないかなって」
「フランチャイズをゴキブリみたいに言うな」
【敵情視察の途中、ラーメン二郎はチンピラ上がりのヤスに出会いました】
【ラーメン二郎さん、懐には何を仕舞ってるんだい?】
【日本一のラーメンや】
【あっしに一杯くれりゃあ、子分になりますぜ】
【ヤスは、ラーメン二郎からラーメンを一杯貰い、子分になりました】
「あ、すごい桃太郎っぽい」
【ラーメン二郎とヤスが敵情視察をしていると、今度はならず者のサブに出会いました】
【ラーメン二郎さん、懐に何を仕舞ってるんだい?】
【日本一のトカレフや】
【あっしに一丁くれりゃあ、子分になります】
【鉄砲玉になるっちゅうことか?】
【タピオカのタマぁ取ってくればいいんでひょ?】
【シャバに出れたら、二号店の店長にしてやるよ】
【I'll be back.】
「どっからトカレフ出してきたんだよ」
「桃太郎だって、剣持ってるけど描写無いじゃん」
「そりゃそうだけど......」
「じゃあ次行くぞ」
「待て、取ってつけたようなターミネーター成分は解決してねえぞ」
【ラーメン二郎とヤスとサブが敵情視察をしていると、今度は元タピオカ組のマサに出会いました】
【ラーメン二郎さん、昔はあんたのこたぁ心底憎んでいたが、今はそれよりもタピオカの野郎が憎いんや。あっしで良ければ手を貸すぜ?】
【お前さん、もうカタギに戻ったんやろ?せやったら、ワシらに構わんで今の生活を...】
【ワシらぁ世間的にはゴミかもしれんが、ゴミにはゴミなりの生き方ぁ、あるんやさかい】
【...今はカタギでも、芯の部分はヤクザもんや。手ェ貸すぜ、兄貴】
【...馬鹿がよぉ】
「ストーリーがかなり膨らんだぞ」
「人情だろ?」
「こいつら、根っからのラーメン屋だから人情に厚いのか」
「熱々のラーメンを提供し続ける漢たちだからな」
「うるさいよ」
「タバコくれ」
「全部持ってけもう」
【こうして、ラーメン二郎一行は、タピオカ専門店に乗り込みました】
【おどれ、タピオカ組のモンかァ!!!】
【ナニモンじゃワレぇ!殺したんぞゴルァ!!!】
【カチコミじゃあ!出張りの若い衆を早よ集めんかいボケぇ!】
【おどれぁ!いてこましたるで!!!!】
「おお......そんで?どうなんの?」
【うさぎとT-800が、かけっこ勝負だって?】
「なんで戻んねん」
「いや、収集つかなくなってきたから本筋に戻そうかと思って」
「戻し方も雑だし、抗争の方が気になるわ」
「帰ってVシネでも観ろよ」
「......タバコ返せ」
【クマやキツネ、リスに小鳥、森のツレ達が応援にやってきました】
【いちについて、よーい、どん!】
【いや、それは今時ないわ。ダサい】
【じゃあどうすんだよ!?】
『On your marks.Set.』
「話が入ってこねえよ。でも、一応ツッコんどくわ。陸上するな」
「いい所なのに遮るなよ」
「俺の口は既にラーメン二郎なんだよ」
「二軒目行くか?」
「ちげえよ。もう食えねえよ」
【T-800は、ゆっくりゆっくり、デデンデンデデンの歩みで山道を登ります。しかし......】
「デデンデンデデンの歩みってなんだよ」
「いや、シュワちゃんってゆっくり歩くだろ?」
「あれは別にデデンデンデデンで歩いてんじゃねえよ」
「1デデンデンデデンで240万だったらしいぞ」
「山登るだけで億じゃん」
「やべえよな」
【うさぎだっ、うさぎが飛び出していく!!】
【初っ端からT-800をチギってそのままバトルを終えるつもりだ!!】
【ヤベぇ! あのうさぎ、一瞬で見えなくなっちまった!!】
「「スゲェ!!!」」
【どこからともなく、ユーロビートの調が聴こえてきませんか?】
「うるせえよ。完全に頭文字Dじゃねえか」
「懐かしいよな。学校帰り、よく峠攻めたよな」
「攻めてたけども」
「今からゲーセン行くか?」
「うさぎとT-800を聴いたらな」
【T-800は、ゆっくりとした足取りで頂上を目指します】
【しかし、T-800も諦めた訳ではありません】
【勝利の機会を虎視デデンデンデデンと狙っていたのです】
「虎視眈々で無理矢理デデンデンデデンするな」
「なんだそれ、どんな日本語?」
「お前が作ったんだよ」
【まだ、ゴールまで半分以上ある】
【仕掛けるポイントは......この先の5連続ヘアピンカーブだ】
【一体、T-800は何をもって逆転しようとしているのでしょうか】
【もう、うさぎはゴールしてしまう!その時!】
「ストップ」
「なんだ?」
「そろそろ頭文字Dクドくなってきた」
「もう終わるから」
「続けろ」
「うい」
【T-800は、おもむろにズボンを下ろしてパンツを脱ぎ、お尻を出しました】
「ストップ」
「なんだ?」
「なんでムキムキのおっさんがケツ出してんだよ」
「......。」
【そうです】
【昔話のルールでは、お尻を出した子が一等賞になるのです】
「.....お前、やったな?」
「いやー、あれどういう意味なんだろうな?」
「あれは別にルールとかじゃねえから」
「完璧な着地だったろ?」
「意外性で言えば過去一だよ」
【フレー、フレー、T-800!】
【この戦いに勝利したのは、T-800でした】
【やったあ、ぼく、がんばったよ】
【T-800は、嬉しくてにこにこ】
【がっくり、負けちゃった】
【うさぎは、しょんぼり】
「かわいっ」
「おう」
「ケツ丸出しのおっさんがにこにこなの、かなり狂気的すぎるけどかわいく感じるわ」
「帳尻合わせようと思って」
「帳尻?」
【うさぎさん、あんたの負けだ】
【この落とし前はどうつけてくれまひょか?】
【T-800がそう言うと、うさぎもようやく顔を上げました】
【その顔には苦渋の表情が浮かんでいます】
【T-800は、うさぎのグチャグチャになった顔を見て、恍惚の表情を浮かべるのでした】
【クソがああああああああ!】
【T-800は、うさぎのエンコを受け取り、小指を失ったうさぎの右手と、がっつり握手して、にっこりと笑いました】
「......。」
「ほら、お前の求めてたVシネだぞ?」
「こういうんじゃないよ......」
【めでたし、めでたし】
「なんもめでたくねえよ」
「面白かっただろ?」
「展開めちゃくちゃだし、不完全燃焼だわ」
「でも?」
「......面白かった」
「クセになった?」
「お前の昔話、中毒性高過ぎるわ」
「また思いついたら聞かせてやるよ」
「俺が最初だからな」
「じゃあ......ゲーセン行く?」
「......行く。待って、もう一本吸ってから行こう」
「そうだな」
「......絶対一番に聞かせろよ」
「......ああ」
めでたし、めでたし
エモい。 二季 @Rynsk94339861
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