ボーナストラック② 二人の距離を声はつなぐ

【場所:アナタの部屋】

 

 あなたのスマートホンから着信音が鳴る。

 1コール、2コール……3コール目であなたは電話に出る。


『もしもし……?』


『うぇへ……出てくれた』

 

『ごめんなさい先輩、こんな時間に。もしかして寝ちゃってました? 起こしちゃったらごめんなさい』


『でも、うぇへへ……先輩の声が、どうしても聞きたくなっちゃいました……』


『ね、ちょっとだけ電話してもいいですか? いい……? やった!』


『うぇへへー、だって、お盆休み中、おばあちゃんの家に帰省して……その間はずっと先輩に会えなくて、後輩ちゃんはとっても寂しかったんですよー!』


『先輩はどうですか? 私と会えなくてもう1週間……さみしくしてません?』


『え? おかげさまで久しぶりになんにもない素晴らしい毎日をダラダラと謳歌している……?』


『ハァ……先輩そこはウソでも『俺もさみしいよ』って言うところですよ』

 

『……ふぇ? さみしくないとは言ってない? そ、そうなんですか? うぇひひひひひっ。もう先輩ったら素直じゃないなぁ! 大丈夫です、明日そっちに戻ったらお土産持って一番に顔を見せにいきますから! 首洗って待っててくださいね!?』


『……? なんで笑ってるんですか? なんでもない……? むー、そう言われると気になるんですが……え? 細かいことはいいんだよ? あー先輩、それって私のセリフなのに〜』


『…………』


『ぷっ……うぇへへっ』


『やっぱり先輩の声を聞いてると、本当に心がポカポカします。はやく先輩の顔が見たいな。先輩に会いたいな……』


『…………』


『先輩は今、自分の部屋にいるんですか?』


『……そうなんですね』


『ね、先輩。ちょっとお願いがあります。聞いてくれますか?』


『今から……ベランダでいいから、外に出てくれません?』


『うぇへへ、実は私今……こっそりお庭に出てお外から電話してるんです。おばあちゃん家、長野県の阿智村ってところなんですけど、星がすごい綺麗に見えるんです! 天の川とかフツーに見えてて、とにかく満天の星空なんです……!』


『私、先輩と同じ空を眺めながらお話ししたいなって思って……ダメですか?』


『ダメじゃない……? うぇへへ……ありがとうございます』


 あなたはベッドから起き上がり、ベランダへと近づく。

 ガラガラとベランダの窓を開く音。

 あなたはベランダの外へ出て夜空を見上げる。


『外に出ました? 先輩……そっちの夜空はどうですか? 満天の星空とはいかないまでも、オリオン座くらいなら見えるんじゃないですか?』


『え? オリオン座は冬の星座だから夏は見えない? むー、細かいことはいーんです』


『こっちはすっごく綺麗に星が見えてます。特に今日は雲ひとつなく晴れ渡っているから、なおさらキラキラしていて……まるで宇宙にいるみたい』


『あのキラキラしている光が、全部星なんですよねぇ。しかも知ってます、先輩? 私たちが今見ている星の光って、何百年、何千年も昔のものらしいですよ?』


『宇宙には数えきれないくらい沢山の星があって……途方もないくらいの年月が経過していて……そう考えると私と先輩がこの広い宇宙の中でこうして巡り会えたのって……奇跡ですよね……』


『あー! 先輩、今笑ったでしょ!? いーえ、絶対笑いました! 後輩ちゃんの地獄耳は誤魔化せません!』


『ブーブー! 乙女のロマンチックなモノローグを笑うなんてひどいです! 罰として明日、私が満足するまで無制限耐久頭なでなでの刑に処します! わかりました?』


『……うぇひ、ならよろしい』

 

『……え? あっ! 流れ星だ! ほら見てください先輩! 流れ星が流れましたよ! 願い事しなきゃ! 早くしないと消えちゃいますよー! ほら、ほら! あ、先輩は見えないのか……』


『うぇへへ、でも大丈夫ですよ先輩! 私がちゃんと先輩の分までお願いしてあげますから!』


『この感じならまた流れてくるはず……こい……こい……』


『きたっ!』



『先輩とずーっと一緒にいられますようにッ!

 先輩とずーっと一緒にいられますようにッ!

 先輩とずーっとずーっと一緒にいられますようにッ!』



『あーん、早すぎて間に合わないー! こんなの無理ですよー!』


『ん……? どうしたんですか先輩? 急にむっつり黙り込んじゃって』


『え……? こういうのって心の中で唱えるもんだろって? 願い事が俺にだだ漏れ……?』


『うぇへへ、そっか。こうして先輩と電話で繋がってるんだから、ずーっと遠くに離れてる星に願うよりも本人にお願いを伝えたほうが早いですよね』


『えーっと、それじゃあ改めて……コホン……』

 


『先輩、私は先輩のことが好きです』

 

 

『いつだって優しくて、頼りになって、かっこよくって、でもちょっぴり抜けてる先輩が大好きです』

 

『先輩と会えてよかった。先輩と恋人になれて本当によかった。先輩と出会ってから毎日が楽しくって幸せで……もう離れたくないって思っちゃうくらいに……先輩が大好きなんです……』


『これからも、ずーっと私のそばにいてください。先輩!』



『……』

『……』

『……』

『……』

 

 

『うぇへへ、流石の私も恥ずかしくて死にそうになりますねコレ……うぇへへ、顔から火が出そうなほど熱いです……』

 

『はい! じゃあ次は先輩の番です! 私がここまで火の玉ストレートで愛を伝えたんだから、先輩もお返ししてくれなきゃ不公平ですよ!』


『え……? 今夜は月が綺麗ですね?』


『にゃー! そんな明治の文豪みたいなまどろっこしい表現却下です! さぁさぁ! 思いの丈を後輩ちゃんにぶつけてください先輩! もっと! もっとこいよ! ひゃ? お母さん? それにおばーちゃんも!? なんで起きて? え? アンタの声がうるさくて起きた? 近所迷惑だから中入れ? ぎにゃー! いやー! 先輩ともっとお話しするのー! 助けてー! せんぱーい!! あーれー……』


 ブツッ! ツーツーツー。






――――――


お読みいただきありがとうございます!

本作はこれで完結です!


本作は第2回『G’sこえけん』音声化短編コンテスト参加作品になります。

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