第2話 雪平 VS 超弩級暗黒龍


 雪平が地べたで熟睡している時、巨大都市アルデバランは超弩級ちょうどきゅう暗黒龍ダークドラゴンに襲われていた。人々は都市から避難しアルデバランの住民はひとっこひとりいやしない。


「ガガァァァァァァゴォォォォォォォォォォ!!!!」


 耳をつんざくような咆哮だが、雪平はのんきに目を覚ました。


「ん? ああ? まだ夜じゃねえか 寝る」


 雪平の頭上には超弩級の暗黒龍が旋回している。まだ、夜ではない。暗黒龍の超弩級の影が巨大都市アルデバランを暗闇に落としていたのである。


「ガガァァァァァァゴォォォォォォォォォォ!!!!!!」


 再びの咆哮に雪平は「るっせぇっっっっ!!!!」と起き上がった。空間を揺らす咆哮に、まるで巨大地震が起きたかのように建物が歪む。民家の窓ガラスは砕け、地に落ちた。


「なんか動いてんな。ああ、暗黒龍ね。にしてもデケェな」


 雪平は大通りに出ると、誰もいないと思われたところに小さな男の子が泣いていた。大声で泣くものだから、暗黒龍も次第にその声を聞き取り、獲物えものとして標的にし始めた。

 旋回中の体を翻し、地上の男の子を目掛けて突進する。鋭い爪が男の子を狙う。

 喰らいたい訳ではないだろう。ただこの巨大都市アルデバランを支配したいだけなのだろう。だから男の子が大声で泣くのは、目障りなのだろう。誰もいないこの巨大都市アルデバランを旋回し、神のように見下ろす、そうすることで支配欲・破壊欲を満たしたいのだろう。


「ったく! 親はどうしたんだっつうの!」


 超弩級暗黒龍の空中を驀進ばくしんする速さより、雪平の地を駆ける速さの方が上だった。男の子は雪平の腕に抱かれ、命を救われた。


「兄ちゃん、ありがどおぉ」

「あいつは俺っちがぶん殴っとくけぇ。だから安心せえ」


 暗黒龍は上空へ上ると、今度は雪平目掛けて滑空かっくうする。


「あんな? 俺っち、殺しとか嫌なんよ。けんどジパングのサムライたちは刀振り回して、簡単に命を奪って……。だからあっしは逃げたんよ。人殺しの国にはもういられへんよって。俺っちも刀ぶん回しても何も言われんのよ。でも、心が許さんのよ。“命を奪うな”って俺っちの心が許さんのよ。だからあんさんも、かぁいぃぃしぃんんんん、せぇぇぇぇっっっっ!!」


ボコォォォォォォッッ!!!!


 暗黒龍の頬にクリティカルヒットした雪平の右拳。暗黒龍はズザァッッ!と地上に滑り落ちた。デカイ図体が、地上を削るように滑る。

 砂埃の舞う中、暗黒龍は態勢を立て直し、こちらに黒火球を吐き出した。


「あんたが何度立ち向かって来ようが、俺っちはぶん殴るだけだ。あんさんが改心するまでなっっ!!」


 雪平は宙に飛んだ。そして、超弩級暗黒龍の頭にかかと落としを食らわせた。


ゴォォォォツッッッッ!!!!


 雪平のかかと落としは暗黒龍にクリティカルヒット。デカイ体は地面に半分埋まった。暗黒龍は空に叫ぶと、巨大都市アルデバランに隕石が落ちたような穴を残して西の山に帰って行った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ 



 昔々、ジパングという国に雪平という男がいた。その男は、他人の命を奪う“刀”を捨てたという。かつてジパングでは刀は自分の身を守る道具だった。しかし次第に刀は人殺しの道具に変わり果てた。

 雪平は刀を捨て、拳だけを自分を守る武器・他人を守る武器として旅立った。広い世界をこの眼に刻むために。そして、この世に平和を導くために。




[おわり]

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


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最強の男 ―雪平― とろり。 @towanosakura

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