8中5
花野井あす
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今日はクリスマス・イヴの音楽会
親子や夫婦、恋人たちがコンサートホールにやってきます
ファーストソリストはかの有名な「なんたらコンクール」の入賞者!
各々が思うままに音楽会へ訪れます。
こちらは付き合いたてほやほやの若いカップル
お兄さんは恋人のお姉さんに格好つけようと、「つぎはぎ」の知識で演奏を誉めそやします。
「なんてすばらしい演奏なんだ!やはりヴェートーベンは趣きがあるな。」
「ブラボー!あの男はさすが、コンクール入賞者だけのことはある。風格がある。」
「ごらんよ。あのソリストの使っているのはストラディバリウスだよ!」
違います。
これはヨハン・シュトラウスの楽曲。
ソリストはその横にいる若い女の人で、使っているのはスズキのヴァイオリン。
イタリア製ではございません。
それでもお姉さんはお兄さんに花を持たせます。
お兄さんは、素敵商事の御曹司。これは戦いです。
そのお隣の席には子連れの家族。
小さな男の子と女の子、お母さんとお父さんです。
教育ママのお母さんはいら立ちが収まりません。
「ああ、なんて醜い演奏なの。お金を払って聞くものではないわ!」
「チューニングもろくにしないだなんて、なんてひどいの。」
「ああ、またテンポに遅れた。あのソリスト、どうかしているわ。」
お母さんは、子どもたちのために何万もするチケットをやっとのこと手に入れたのです。
我慢ならず、何度も何度も不満を漏らします。
子どもたちに向かって、「あれは詐欺師です。真似てはいけません!」と大声で教育します。
ご機嫌とりをしたいお父さんは必死に同意します。夫婦円満は最優先事項です。
せっかくの良いムードに水を差されてお兄さんは怒ります。
「おい。すばらしい演奏に雑音を混ぜないでくれたまえ!」
生意気な若造にお母さんは憤慨します。
「こんな耳障りな騒音によく我慢なりますね。教育レベルの低いひとは耳も悪いのね!」
「なにおう!私は優秀大学の学生だ。これはこういう手法の演奏なのだよ!」
「どうせ、コネで入学したのでしょう。かわいそうに。世間知らずの粋がったおまぬけさん!」
お姉さんはあんぐり口を開けたまま。
お父さんはあたふた手をこまねいています。
ぶるぶる震える子供たちの手には、一枚の演奏プログラム。そこにはひとこと。
館内はお静かに!
8中5 花野井あす @asu_hana
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