貴重なお休み
「っか~!!めんどくさっ!!」
放課後。
ガヤガヤヤイヤイと騒ぎ立てる級友の声に紛れ、そんな声が教室に響く。
「なーんで学校なんてあるのかねぇ」
そんな世の勉強嫌いが全力で首肯しそうな疑問をつぶやくのは、言わずもがな。
バッグを持った手を肩に吊り下げ、僕の机に腰掛ける陽だった。
いや、多少付き合いの長くなってきた僕から言わせれば、コイツは十二分に学校を楽しんでいると思うのだがまぁ、それはそれとして。
「なぁ、どーでもいいけど今朝といい、僕の机の座り心地はそんなに良いモノなのか?」
僕の机で足を組み、ずいぶんと寛いだ様子の陽に皮肉混じりにそう尋ねると、陽はそれに待ってましたとばかりに口角を吊り上げるとこう言うのだった。
「あーもー、マジ最高。お前の邪魔ができるってだけで最高級のソファ以上の座り心地だ」
「ハッ、くたばれ」
ニヤニヤしながら返したその言葉により一層笑みを深める陽。
聞く人が聞けば、顔をしかめそうな内容の会話であるという自覚は有るのだが、僕たちは出会った時から何故かずっとこうなのだった。
今更変えようとも思わないし、誰かが止めろとも言ってきた訳でもないのでわざわざ変える必要もないだろう。
とまぁ僕も陽もそんな感じなので、一切人目を謀ることもなく、人が思わず耳を塞ぎたくなるようなイヤミに皮肉で返したりしながら帰り支度をしていたのだが……
「あ、そういやさぁ」
唐突に陽はそう声を上げたのだった。
「?どうした」
立ち上がり、鞄を肩にぶら下げながらそう尋ねる。
「いやいや、この後暇なモンでさ。カラオケでもご一緒に如何?とか思った次第でござい」
それに思わずピクリと反応する。
公私共に認める出不精にして、無趣味な僕ではあるのだが、ことカラオケに関しては少し違ってくる。
なんせ週二……いや、ちょっと盛った。
少なくとも週一は必ず通っているのだ。
僕自身、あまり上手くは無いのだが、あの達成感というか、やりきった感がたまらんのよな……っと、それはさておき。
「別に暇では有るんだが……珍しいな、今日の部活は良いのか?」
そう、実は陽の所属しているここ、私立玉ヶ原学園のラグビー部は、毎年花園に行く程の強豪だったりする。
ただ、当然ともいうべきか、その分ここでの練習は過酷かつ、徹底的な物らしく、陽はキツイし、休みも無いと、よく愚痴ってくるのだった。
まぁ、それでも辞めてない辺り、何か思い入れか目標が有るんだろうが。
「おう、先週の日曜が大会でさ、今日は休みなんだよ」
そんなことを考える僕の肩に手を回してそう言う陽。
「あぁ、そういうことなら喜んで。」
そんな数少ない休みに僕を誘ってくれることをそこはかとなく嬉しく思いながら、僕はそう返すのだった。
変身 かわくや @kawakuya
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