第5話 クラスマッチ

 クラスマッチ前日、学校も終わり、家でテレビを見ていた。


「弟くん弟くん!明日は遂にクラスマッチだね!」

「そうだな。まぁ、俺は3日目だが」


 クラスマッチ前日とは言ったが、実際俺の通ってる高校のクラスマッチは1日目は3年生、2日目は2年生、3日目は1年生と3日間で行われるため、俺達1年生は3日目にある。そして1日目と2日目は自宅待機になる。


「弟くんよ、賭けをしましょう!」

「嫌だ」

「なんで!?ただ優勝したらお願いを叶えるっていうことなのに!?」

「いや、あんた負けたことないだろ」

「……ナンノコトカナ。ワタシワカラナイ」

「俺のチームは絶対優勝出来ないと思ってるので、その賭けには乗らん」

「なんでなんでなんでなんでなんで!!」

「うるせぇ!?」


 姉は毎年クラスマッチ3年生の部で優勝している。そんな俺が絶対に負ける賭けに乗るとでも思っていたのだろうか。


「でも、弟くんも優勝出来るかもしれないよ?」

「いや、無理だろ。ていうか、もしもどっちも優勝した場合引き分けになるだろうが」

「その時は私と一緒に寝てもらいます!」

「優勝してもしなくてもバッドエンドじゃねぇか!?絶対にやらねぇ」

「むー。仕方ないな。弟くんの方が優勝したら私がお願いを聞いてあげましょう」

「嫌だ」

「なんで!?弟くんは初めてのクラスマッチだよ!優勝出来る可能性なんて十分にあるのに!」


 魔球のサトゥーとかほざきながら、神埼に負けたあいつを見てもそう言えるのだろうかあの姉は。


「これは強制だよ!」

「だろうな!?」

「ということで、弟くんのお願いを聞いてあげましょう。」

「くそっ!俺の願いは……姉よ、俺と風呂や布団に入ろうとするな」

「??????????、嫌だぁぁぁぁぁ!!ノーカウント!やっぱこの話なしで!」

「あんたが強制させたんだろうが!」


 いやでも待てよ。この賭けに乗ってもいいのかもしれない。姉の願いはほぼ日徐茶飯事だ。俺にはそんなにダメージはないはずだ。そうないはず。……ないよな?とりあえず姉の言うとおり、勝てる可能性だって普通にある。よし!この賭けに勝てば、俺は普通の高校生活を送れるはず!


「いいぜ、やってやるよ」

「あれ?急に乗り気になった?私にとっては地獄の願いだけど、まぁ優勝させなければいいか」

「じゃあ兄さん。優勝出来なかったら、私の願いも叶えさせてもらいます」

「あぁ、いいぜ。……え?」

「はい、録音した。負けたら分かってるよね?」

「ハイ」


 妹よ、今の俺はあなたが一番恐ろしいよ。


ーーーーーーーーーーー


 クラスマッチ3日目である今日、競技場にて1年生の部の開会式が始まっていた。


「では、これよりクラスマッチ1年生の部を始めます」


 生徒会長である姉の宣言により、クラスマッチが始まった。姉は生徒会長なので3日間すべて行かなくてはならなかった。ちなみに1日目で姉は優勝したらしい。家でドヤ顔していた。


『一回戦目は……』


 対戦相手がどこなのかが放送された。


「今回のクラスマッチはこの俺、魔球のサトゥーに任せておけ!よし、お前ら行くぞ!!」

「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」


 佐藤の掛け声によって、俺以外の全員の歓声があがる。


『○組Aチーム試合を始めてください』


 合図により、一回戦目の試合が始まった。


「パス!」

「よし!おらぁ!」


 まさに普通のドッジボールだった。この前のような意味のわからん風になっていなくてよかった。


『終了してください』


 ボールを避けたりしていると、もう試合が終わっていた。結果は俺達Aチームの勝利だった。


「よし!」

「まだ一回戦目だ、気を抜くなよお前ら」


 これがチームか、素晴らしいと思う。このままいけば本当に優勝出来るのではないだろうか。

 こうして俺達Aチームはどんどん勝利していった。姉の方を見てみると、学校では真面目な姉の顔がそわそわしていた。心のなかでヤバいとでも思っているのだろう。


「おい見ろ!Bチームが負けたぞ!」


 そんな言葉に神埼率いるBチームの試合を見てみると確かに負けていた。全滅だった。


「嘘だろ……」

「まじかよ」


 全員が唖然としていた。あの神埼が負けたのだ。


「まさか……あれは田中か?」

「誰だそれ?」


 隣にいた佐藤が驚き、いや絶望の顔をしていた。


「ドッジボールの全国大会で常に優勝していることから『怪物モンスター』と言われているバケモンだ。この高校に入学していたのか……」


 なんかヤバいやつがこの高校に他にもいたのか驚いた。あれ?ヤバくね?優勝できる確率減ったくね?え?え?


「神埼といったか?お前は強い。この俺が保証する」

「え?あぁ、ありがとう」


 田中と神埼が握手していた。神埼は悔しそうだった。嫌な予感がしたので、姉の方を見てみると姉の顔はさっきより明るくなっていた。なんか腹立つ。


「……神埼」

「大丈夫だよ佐藤くん。僕たちの分まで頑張って」


 それから俺達は次々に試合に勝ち、遂に決勝戦まで行った。


「遂に決勝戦だ。負けたBチームのためにも相手が田中だろうと勝つぞ!」

「「「おう!」」」

「お、おう」


 コート内に入るとそこには怪物モンスターがいた。


「あの神埼と同じクラスのチームか。期待しているぞ」

「やってやる」

「その目いいな。かかってこい!」

「あのぉ、1人気分が悪くなって保健室でやすんでます」

「え?」


 俺達のチームの1人が気分が悪くなって抜けたらしい。人数が1人足りないため、このままでは相手が不戦勝で優勝だ。かなりまずい。


「おいおい。俺は不戦勝で勝っても嬉しくないぞ」

「まじかよ……」

「待ってくれ。僕を決勝に出させてくれないか?」

「神埼?」


 神埼が抜けた1人の穴埋めとして自分が出たいと言ってきた。


「どうして?」

「優勝とかどうでもいいんだ。彼に勝ちたいんだ。このままじゃいられないんだよ」

「分かった。神埼を入れていいですか?」

「分かりました。ではこれより決勝戦を始めます」


 全員が位置につく。


「では、決勝戦開始!」


 決勝戦が始まった。先行は相手からだ。


「今回は楽しめそうだ。では行くぞ!はぁっ!!」

「避けろ!!」


 全員が避けようとした。それでも1人当たってしまった。


「なっ!?」


 そこまでならいい。驚くべきなのは、ボールがこっちの内野に落ちるのではなく、相手の外野の方に落ちたことだ。まるでボールが意思をもっているかのように。


「驚いたかな?」

「くそっ!こんなやつに勝てるのかよ!?」

「諦めるな!諦めなければきっと希望が見えてくる!」


 それから俺達がボールを掴むことはなく、ただ蹂躙されていくことしか出来なかった。


「残りは5人か……絶望的だな」

「そうだね」


 俺を含めて5人しかいない。運がいいのか、俺残ってるな。


「諦めろ。俺には勝てない」

「いいや諦めないね」

「ハハッ、面白い。いいだろう。ならば受け止めてみろ俺のボールを!」


 田中が投げたボールが神埼に向かっていった。だが、神埼に避けようとせずに受け止めようとしている。


「無茶だ神埼!?」

「いや、受け止めてみせる!はぁぁぁ!」


 神埼はボールを受け止めた否、受け止めれなかった。神埼は受け止めるはずのボールが下に落ちたのだ。わざと神埼はボールに当たったのだ。


「神埼まさか自分を犠牲に!?」

「彼のボールは必ず受け止めれない。ならば僕がボールが当たった時に下に落ちるように減速させるしかなかった。後は頼んだよ」

「神埼……分かった。お前の敵は俺が取る!俺は魔球のサトゥーだからな!」

「頼もしいね」


 そうして、神埼は外野へ向かった。


「感動の友情物語は終わりだ。ここからは絶望が待っているぞ」

「いいや、ここからは希望だ。いくぞ怪物モンスター!」

「さぁ、来い!」


 佐藤が田中に向かって投げた。投げたボールはまるでライオンや虎のごとく、田中へと向かっていく。


「ぐぉぉぉ!?なんだこの威力は!?」

「これが俺達の力だ!!」

「いっけぇぇぇ!!」

「馬鹿な!俺が負けるだとぉ!?うぉぉぉぉぉ!!!」


 田中はボールを受け止めることが出来なかった。それはつまり、田中に勝ったということだ。


「馬鹿……な」

「よっしゃあ!!!!!」


 歓声が沸き上がる。まさにそれは祝福するかのように。


『試合終了!□組Aチームの勝利!』

「あ」

「あ」

「「「あ」」」


 ……………あ。田中に執着してたばかりに田中以外の者がいることを忘れていた。内野の人数はどう見ても相手の方が多い。時間切れで負けた。


「え」


 歓声が一瞬で収まった。


「あー、素晴らしかったぞ。俺が負けて外野に行くのは初めてだ。俺はお前達が優勝でいいんだがな」

「あ、ありがとう。君の方こそ良かったよ、優勝おめでとう」

「サトゥーお前もだ」

「あ、あぁ。」

「また来年戦えるのを楽しみにしているぞ」


 まぁ、いいか。最強といえる田中を外野に送り込んだだけでもすごいだろう。後、一応準優勝だ。


「なんか悔しさもないな」

「そうだね」


 家、帰ったら、寝転んどくか。姉の方を見てみると目がキラキラしていた。………………あ、忘れてた。姉との約束、妹も。くそぉぉぉぉぉ!!!!!


 こうして、クラスマッチは終わった。後に呆気なかった決勝戦と語り継がれることになるのだった。


ーーーーーーーーーー


「弟くん分かってるよね?」

「ハイ」

「今日は一緒に寝ようね♡」

「ハイ」

「兄さん、休日に私と一緒に出掛けましょう」

「ハイ」


 こうして俺の1日は終わった。

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俺の姉がブラコンの件について ハル @a1027b1027c

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