第4話 体育

 現在、体育の授業があっていた。内容は一週間後にあるクラスマッチに向けて、クラスマッチで行われるドッジボールの練習だ。男子女子で分かれ、そして男子の中でAチームとBチームに分かれた。女子は男子より人数が少ないので1チームしかない。ちなみに俺と佐藤は同じAチームだった。そして、Aチーム対Bチームの練習試合が始まる。


「よし!お前ら神埼ぶっ潰すぞ!」


 佐藤はAチームの中でリーダー的存在になっていた。Aチームの全員(俺を除く)は歓声をあげていた。その理由は神埼だ。神埼真琴かんざきまこと。1年生の中で成績はトップであり、スポーツは得意、そしてイケメン。女子からモテており、そのせいで男子からは目の敵にされている。


「なんとしてでも神埼は外野に送らなければならない。そうだよな優!」


「あーそうだな」


 適当にかえしておく。そんなつまらないことに付き合えるか。


「よーし。お前ら試合始めるぞ!」


 1年生の体育担当の教師が合図をすることで試合が始まった。Aチーム先制でボールは佐藤が持っていた。


「魔球のサトゥーと呼ばれていたこの俺に任せておけ!」


 Aチームの仲間からさすがなどと称賛の声が上がっていた。ちなみに魔球のサトゥーなんて聞いたことがないし、呼ばれていた覚えすらない。


「喰らえ!神埼ィ!」


 ボールは真っ先に神埼のところへと向かった。だが、神埼はしっかりと受け止めた。


「なんだと!?」

「まだまだだね、佐藤くん。この程度では僕には勝てないよ」


 神埼が佐藤に向かってボールを投げた。佐藤は受け止めようとしたのだが、それが出来ずに当たってしまった。


「ぐはっ!?」

「「「サトゥー!?」」」


 俺以外のAチーム全員が佐藤が神埼に負けたことに驚いていた。


「くそっ!?お前ら後は頼ん…だ…ぜ」


 そう言い残し、佐藤は外野に向かっていった。俺以外のAチーム全員は涙を流していた。それほどのことなのか?全く俺には分からない。


「おのれ神埼!サトゥー、俺達はお前を全力で復活させる!」

「お前ら…!」


 とある1人がそう言いながら、佐藤にボールを渡そうと投げるが神埼に取られてしまう。


「ぐへっ!?」


 また一人一人、神埼の手によって外野に送りこまれるのだった。ちなみに神埼以外のBチームは神埼が1人でなんとかしているため全然動いていなかった。


「サトゥー!俺のボール、受け取ってくれぇ!」


 1人がそう言って、投げたボールはついに佐藤の手へと渡ったのだ。


「なっ!?」

「よっしゃ!」


 神埼は驚き、佐藤は喜んでいた。


「よし!ボールを当てて、内野に戻るぞ!」


 そう言いながら、佐藤は神埼を狙うがそもそも内野に戻りたいんだったら、神埼以外を狙えばいいだろ。全く動いてないぞ。


「サトゥー、神埼を外野に送り込め!」


 その時、神埼の仲間であるはずのBチームの1人が神埼を拘束していた。


「お前なんで!?」

「俺達も神埼を許せないんだよ。神埼だけがモテやがって!」

「お前ら…!」


 いや、そういう所があるからモテないんだろうが。というか、反則だろこれ。


「ズルイ!男子!」


 女子からはバッシングの嵐だ。奏は苦笑している。当たり前だろ。やはり反則だと思い、教師の方を見てみると、とある先生と共に俺らの試合を見ていた。


「いやぁ、素晴らしい感動の試合ですね」

「そうですね…」


 意味わからんことを言っているのは2年生の体育担当の宮原だった。高校いやこの地域で有名な教師だ。生徒からは筋肉ゴリラや筋肉野郎などと言われているが当の本人は喜んでいる。しかし、生徒からの信頼は厚い。前に女生徒にストーカーをしていた男を捕まえたことがあるらしい。文化祭ではガチムチ体操とかいう謎の体操を披露しているらしいが。


「だが、筋肉が足りない!筋肉があればこの試合楽に勝てるというのに!」

「そうですね…」


 話し相手になっている1年生の体育担当の教師はものすごく困惑している。そんな中、佐藤は拘束されている神埼に向かって投げようとしている。


「くっ!?」

「神埼ィ!覚悟しろ!とおりゃぁぁぁ!」


 だが、神埼は拘束を振りほどき、避けた。


「ぐはっ!?」


 佐藤が投げたボールは神埼を拘束していた1人に当たった。


「ちくしょう、すまねぇ」

「命をかけて神埼を押さえ込んでいたんだ。謝る必要はない」


 なんか感動ドラマっぽくなっているのは気のせいなんだろうか。


「神埼、待っていろよ。戻ってきて再び相手をしてやる」


 そう言いながら、佐藤は内野に戻ってきた。


「さぁ、行くぞ神埼ィ!俺達の戦いはこれからだ!」

「いいだろう。さぁ、来い!佐藤くん!」


 意外にもノリノリだな神埼。まぁ、結果を言うと負けたが。


「ちくしょう、ちくしょう。負けた…」


 俺以外のAチーム全員は神埼に負けた悔しさで泣いていた。本当に意味わからん。


「久々に楽しめたよ佐藤くん。またやろう」

「今度は負けないぞ神埼」


 佐藤と神埼は握手していた。次やっても普通に負けそうだが。授業も終わり、体操服から制服へと着替え直した。

 6時間目まで終わり、帰宅して、夕食を食べる途中に姉から今日のことについて聞かれた。


「ねぇねぇ、弟くん。今日何があったの?」

「クラスマッチのドッジボールの練習」

「ふぅん、どうだったの?」

「意味不明だった」

「???」


 仕方ないだろ。本当に意味不明だったんだから。今日も騒がしい1日だった。

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