フェスティンガー教授の葡萄病理学

花野井あす

フェスティンガー教授の葡萄病理学

ここは酸っぱい葡萄症候群患者の入院病棟。


今日も患者さんたちは自己弁護に正当化と、一生懸命あたまを悩ませます。


「どうしましょう!今日のテストは散々だったわ。わたし、勉強していないのよ!」


「わたしもよ!昨日はついうっかり、寝てしまったの!」


可愛らしいお嬢さんたちが甲高い声を上げて嘆きます。


つやつやと綺麗なお肌には、不釣り合いな青い隈があります。

どうしたのでしょうか。


「ああ、困った。困ったぞ!今日は大事な日だったというのに、風邪をひいてしまった。」


「奇遇だな!私もなのだよ。朝から調子がよくなかったんだよ。」


「ならば期待の結果にならなくとも致し方あるまいよ。」


「最善を尽くしたんだから良しとしよう。」


よれよれの黒いスーツを着た男たちが草臥れた声を漏らします。

今日の大切なプレゼンテーションはまずまず。


人間、結果よりも過程が大事!

そう言い聞かせて、男たちは帰宅します。


「今日は気分が優れなかったのよ。だから、きっと手を抜いてしまったのよ。」


「大丈夫よ、奥さん。あなたのお子さんはとっても優秀だもの!」


運動会。

かけっこで、息子がびりっけつ。


恥ずかしくてたまらない奥さまは顔を真赤にひたすら口を動かします。


「ぼく、まだ本気だしていないから!」

「なにおう。ぼくだってそうだ!」


サッカーボールを抱えた男の子たちがいがみ合います。

どうやら試合の結果に満足いかなかったようです。

ぼうや、君はいつ本気を出すんだい。


「言い訳なんて見苦しい!」

患者たちをみて、通りすがりの正直教の信者が罵ります。

、ありのままの自分を受け止めます!」


それはどうも。

ご丁寧な説明をありがとう。

失敗したけれど、あなたの能力のせいということですね。


病棟は通常運行。

今日も穏やかな日になりそうです。

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フェスティンガー教授の葡萄病理学 花野井あす @asu_hana

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