第25話:旅立ち・・・そしてお帰り。

結局、莉子はドイツに行かないことになった。

向こうでやって行くには、言葉も分からないし大変だろうと いうことになって、

ふたりでのドイツ行きはボツになった。

莉子がついて行っても忠彦のお荷物になるだけの話だった。


忠彦がドイツに出発前、莉子と忠彦は忠彦のマンションにいた。


「長くなるの?」


「だいたい1年くらいの滞在になるかな」

「僕が帰ってくるまで待っててくれるね?」


「会えないのは寂しいけど、待ってる」

「僕が帰ってきたら結婚しよう」


「あっさりなプロポーズ?」


「いや、予約しとくだけ・・・なにも準備してないし」

「帰ってきたら、ちゃんとプロポーズするから」

「だから、待ってて」


「でさ・・・しばらく会えないから、し納め・・・」


「なに?・・・し納めって・・・?」

「し納めは、し納めだよ・・・」


そう言って忠彦は莉子にハグした。

そして、そのまま莉子をソファに押し倒した。


「え?・・・し納めって、そういうこと?」


「そういうこと」


そして忠彦がドイツに旅立つ日・・・。


忠彦を見送るため莉子は空港にいた。

美咲も一緒に見送りに来てくれた。


「じゃ、行ってくるから」


「莉子が他の男に取られないようしっかり見張っておきますから」


美咲は自信ありげにそう言った。


「心強いね、美咲さんがいてくれたら安心かな・・・」

「じゃ、ふたりとも元気でね」


莉子と忠彦は別れを惜しんで抱き合った。

忠彦はポルシェ正規販売店契約のため1年間、ポルシェの本社があるドイツの

シュトゥットガルトへ行くことになったのだ。


1年前から時々ドイツには足を運んではコンタクトを取っていた。

この契約がうまくいけば日本でポルシェを扱う会社が持てる。

忠彦は今の会社をやめて莉子とふたりで逆輸入車を取り扱う店をオープンしよう

と計画していた。

資金は充分あった。

もちろん、莉子のためにバイクも扱うことにした。


そして忠彦の乗った飛行機はドイツへと旅立った。


「彼、行っちゃったね 」


「うん、寂しい・・・」


「一年なんてあっと言う間だよ、すぐに帰ってくるよ それより契約うまく

いくといいね」


忠彦が乗った飛行機が見えなくなっても莉子はずっと空を見てい た。


彼とは会えなかったが遠距離通信でパソコンの画面の中で元気そうな彼を確認

できた。


朝と夜2回。


「おはよう莉子、元気してる?」


「お疲れさま・・・忠彦も元気?、体調壊してない?」


そんな感じの会話が、毎日続いた。


話はできたがそれでも莉子は忠彦がそばにいてくれないことが心細いことも

あった。

そんな夜はひとりレブルで忠彦の別荘まで海を見にでかけた。

美咲とも時間があれば会った。


そうやって忠彦と会えない時間を埋めていった。

そして美咲のいったとおり一年は思ったより早かった。


あれから1年、莉子は今、忠彦を見送った空港で彼の帰りを待っていた。


(ようやく忠彦に会える・・・)


美咲は美咲で彼氏ができてよろしくやってるようで今日は来ていなかった。

忠彦の乗った飛行機が着陸してしばらくして 搭乗口に忠彦の姿が見えた時、莉子の瞳に涙があふれた。

ぼやけた風景の中に忠彦がにじんで見えた。


莉子は溢れる涙がうっとおしいものでもあるようにすぐに涙をぬぐっ た。


「帰って来た・・」


忠彦は待ってるはずの莉子を探してる様子だった。

莉子は、私はここよと言わんばかりに思い切り手を振ったてアピールした。

忠彦はすぐに莉子を見つけて、人目もはばからず 駆け寄って莉子を抱きしめた。


「おかえり忠彦・・・」


「ただいま莉子 」


「何もかもうまく行ったよ」

「これから忙しくなる・・・手伝ってくれるね?」


「もちろん」


「愛してるよ莉子」


「私も・・・」


「泣いてたの・・・」


「嬉しくて・・・」


「これからは、もう君をひとりにはさせないからね」


そう言って忠彦は莉子を引き寄せてキスした。

そして、思い切り莉子を抱きしめた。


ふたりを見ていた空港にいた客みんなから冷やかしと拍手の喝采を浴びた。

ふたりは我に返って照れるように周りに挨拶した。

そしてまた、ふたりの世界に戻って抱き合った。


「1年ぶりのこの感覚・・・この温もり・・・恋しかった」

「ああ、いい匂いだ・・・ピーチメルバだよね」

「莉子の匂いだ・・・」


END.


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ピーチ・メルバ。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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