第24話:忠彦の夢。

忠彦の元カノ、玲子との一件のあとも、ふたりはわだかまりなく愛し合っていた。

結局、玲子のことは美咲には話さずじまいだった。


そんな平和な時、忠彦から急ぎの連絡が入った。

お父さんが自宅で倒れたということだった。


「すぐに救急車は呼んだらしいけど容体は微妙なところだそうだ」


「原因はなに?」


「まだはっきりとは・・・どうも心臓発作らしい・・・」


「うちのお父さんと同じだ」

「忠彦今、どこにいるの?」


「今、会社から病院に向かってるところだよ」

「君は来なくていいからね・・・」


「私もすぐ病院へ行く」


「いや、この先どうなるか分からないけど」

「君をまだ家族に紹介していないし、紹介してる暇はないだろうから遠慮して」

「それに君をうちの揉め事に巻き込みたくないんだ」


「分かった、気をしっかり持ってね」


その後、医者の懸命の努力もむなしく忠彦の父親は帰らぬ人となった。

結局、忠彦は病院に間に合わず父の死に目には会えなかった。


そして告別式の日。

莉子は、未だ一度もお目にかかることなく天に召された忠彦の父親にせめて

お線香だけでもと芹沢家を訪れた。


さすがに大手の会社の会長さんのご自宅。

大豪邸の佇まいに莉子は緊張した。

記帳して参列者の順番を待っていると、忠彦が莉子を見つけて来てくれた。


「莉子、ごめんね、ありがとう」


「この度はまことにご愁傷様でした」


「ご丁寧に・・・来てくれてうれしいよ」


「ばたばたしててね、ゆっくり君と話もできない」

「でも、いい機会だから僕の母を紹介しておくよ」


そう言って忠彦は母親を自分の後ろにいざなって来た。


「母さん、紹介するよ、篁 莉子たかむらさん」


母親は莉子に丁寧にお辞儀して


「本日は当家の主人のために足をお運びくださってありがとうございます」


「お初にお目にかかります、改めまして、篁 莉子です」

「この度はまことにご愁傷様でございました」


「ご丁寧に・・・」

「はじめまして、忠彦の母、雪絵ゆきえです」


喪服に身を包んだその人は上品で聡明そうな女性だった。


「こんな綺麗なお嬢さん、どこでお知り合いになったの忠彦さん」


「綺麗だなんて・・・」


「忠彦ね、最近実家に帰るとあなたのことばかり話すのよ」

「母さん・・・なに言ってるの・・・」


「だって、そうじゃない」

「莉子さん、忠彦のことよろしくね」


「はい、こちらこそお世話になってます」

「お世話になってるって・・・そういう言い方は変に誤解されるだろ?」


「あ、私ったら・・・」


「いいじゃないの・・・仲良くしてやってね」

「じゃ、莉子さん、またお会いしましょう・・・ごめんあそばせ」


そう言って忠彦の母は去っていった。

その背中にはセレブらしい品格のオーラが漂っていた。

富豪と言う環境がそうさせたのだろう。


「莉子、これで僕の決心ははっきりしたよ、会社は兄貴に譲る」

「兄弟で醜い権力争いはしたくないからね」

「以前から、思ってたことがあるんだ・・・僕はドイツに行ってくる」


「ドイツ・・・」


急な話だった。

莉子は自分も忠彦についていくのかと思った。


(ドイツなんて・・・言葉も話せないし・・・どうしよう)


「君は日本に残ってね、毎晩ドイツから連絡入れるから・・・」


「えっ・・・」


To be continued.

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