第5話(終)【現役J○衝撃のデビュー! 静謐な窓際のお姫様の甘い誘惑】

「ごめんなさい!!」


 部活の朝練の生徒ぐらいしかまだ登校してきていない、早朝。

 昨日の夜、メッセで突然雛月さんから中庭にある大樹の下に呼び出された。

 会うなりA4サイズがすっぽり入るサイズの紙袋を俺に突き出し、中を確認してみれば、そこには夏の終わりに出会い、失ったはずのお気にのエロ本。


「......なんで雛月さんこれを」


 感動のご対面ではあるが、何故雛月さんが持っていたのかという疑問の方が強く湧き上がり問う。


「本当はこっそり戻すつもりだったのですが、やっぱり本人に直接謝りたいなと思いまして」


 大樹の日陰の中、モジモジする雛月さんの頬がまるで紅葉みたいに色づく。

   

「あの日、高田くんのリュックが少し開いていて。その隙間から偶然をそれを見てしまい......最初はちょっと覗いて元に戻すつもりでいました」


「最初は?」


 雛月さんが地面に視線を落としたまま、申し訳なさそうに「はい」と頷く。 


「学校にまで持ってくるのですから、余程大事にしているものだとわかりました」

「そりゃ、ね」


 人生に一度、出会えるかどうかの珠玉の一冊なんです! って言ったらドン引かれるだろうな。


「もしかしたらこの中に、高田くんの理想の女性が存在するかもしれない......そう思ったら、私は本を自分のリュックの中にしまい込んでいました」


 ......え、どういうこと?


「ご丁寧に付録でDVDまで付いていたので、それを何度も見て勉強しました。あくまで役作りのために、です。エッチに興味があるとか、そういうハレンチな気持ちでは決してありません!」


 雛月さんは頭と手を同時に横に振り全力で否定する。


「ヤンキーキャラ、結構大変だったんですよ? 髪染めたらお母さん卒倒しちゃいましたし。担任の先生からも生活指導室に呼び出されたりと、それは大変でした」


 もし自分の娘が雛月さんみたいな奇行に走ったら、俺も多分ぶっ倒れる。泡拭いて。

 

「大好きな本の中のキャラクターになりきったみたいな気分で、高田くんに振り向いてもらいたい一心だっだのが、徐々に演じることに対して快楽を覚える身体になってしまいました」


 振り向いてもらいたい.........それってつまり.........。


「でもこの前、高田くんのおうちにお邪魔して気付いたのです。かりそめの姿に好意を持たれても、それは本当の私自身に向けられたものではないということに」


 俯いた頭をゆっくりと上げ、決意の籠った瞳で俺を見つめ、


「あなたのことが好きです――私とお付き合いしてください」


 ......時間が止まったような感覚に陥る。

 そんなことって本当にあるんだな。

 セミロングの髪が風に揺られ、不安そうに俺の返事をただ黙って待つ。


 地味だけど優しさに溢れ、ふとした時に見せる柔らかな笑顔。

 そして保健の木藤先生には負けるけど、程よく肉の付いたボディ。

 雛月さんに告白されて全く嬉しくない男なんて、少なくともウチのクラスにはいないはずだ。でも――。


「......俺さ、高二にもなって女の子と付き合ったことないんだよね」

「大丈夫です。私も男性とお付き合いした経験ないので」

「だからさ、とりあえず今日で席が隣同士のクラスメイトを卒業して、友達から始めるのはどうかな?」


 前にも言ったが、俺はDTにしてチキンハートの持ち主。

 いきなり彼女ができてしまったら、それを免罪符に雛月さんを無理矢理襲ってしまうかもしれない。盛りのついた猿みたいに。情けない話だけど。雛月さんの悲しむ顔を見たくないからこそ、経験不足の今の俺が最大限妥協した結果だった。


「なるほど。お互い初めて同士、徐々に経験値を増やして行こうという作戦ですね」

「言い方がゲームっぽいけど、まぁそんな感じ」


 いかにも知的な雛月さんっぽい解釈。

 でもその方が楽しんで関係を続けられるかもしれない。


「では友達から恋人へ転職ジョブチェンジできるよう、ともに二人で頑張りましょう」

「雛月さん、振られたのになんだか楽しんでない?」

「え、私、振られたのですか?」

「......ちょっと違うと思う」


 口にしてからなんと自惚うぬぼれが過ぎた発言を後悔する俺に、雛月さんがきょとんと純粋な瞳を向ける。

 本人が楽しんでいるならそんな細かい話、どうでもいいじゃないか。


 俺は雛月さんのことを真面目で大人しい、

でも好きな人のためならぶっ飛んだ行為も平気で行ってしまう、真っすぐで可愛らしい人。どうやら読書だけでなくゲームも好きらしい。

 そのくらいしかまだ彼女の情報を知らない。


 雛月さんだってそうだ。

 実は俺が最近は三次元よりも二次元のエロの方に興味が移ったことをおそらく知らない。


 お互いに上辺の情報しか持っていない、クラスメイト以上友達未満の俺たち。


 物理的な距離は近いけど、中の方はまだまだ距離が離れている。

 友達として具体的にこれからどう接していくべきか頭を悩ませていると、雛月さんは上目遣いでこう言ったんだ。 


「恋人になってくれたら私、あなたが望めばどんなプレイでも演じてあげますから♪」


 情報追加。

 雛月さんは案外、性欲が強いタイプかもしれない......。 


         (了)


         ◆

 最後まで読んでいただき誠にありがとうございました!

 こちらはG’sこえけんのボイスドラマ部門に参加している作品です。

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河川敷でエロ本を拾う。失くす。そして隣の席の雛月さんの様子がおかしくなる。 せんと @build2018

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